AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント中篇 その17



 援軍(強制)の熾天使《トー》姉天使に、湖に潜るための水着を渡された。
 普通にトランクスタイプなので、履くこと自体に拒否感は無いが……うん、他がな。


「──というわけで、フルスペックでガードしてから着替えたわけだ」

「おとーと君!?」

「トー、分かってくれ。俺にも、守りたいものはあるんだ」


 尊厳とか、羞恥とか、それに意地とか……眷属が本気で願えばいつでも捨てられそうなものばかりではあるが、自分から捨てるにはもったいないので抵抗してみました。

 そんなこんなで、再度縛りの状態に移行すると肉体もそれに準じてノゾムの姿へ。
 ……水着は俺製の物だったので、便利に自動調整付きである。


「ふぅ……それじゃあお姉ちゃん、そろそろ湖の中に入ろうよ」

「そうですね、いっしょに手を繫いで入りましょう」

「……いや、危ないからダメだよ」


 眷属に限って大抵の魔物に傷つけられることなど無いと分かっているが、欲望と悪意を糧に築かれたS級迷宮にどんな仕掛けがあるか分かってない以上、備えておきたい。

 特に、トーは能力的に俺が近くに居ない方が本当は楽なんだよな……。
 本人の性格的に大して使っていないが、その気になればほぼ最強である。

 粘ろうとするトーを宥め、どうにか手を繫がずに入水することに。
 共に湖岸へ近づき、現実での慣れから大きく深呼吸をして──潜っていく。


「…………!」
「…………!」

「「…………?」」


 広がる光景は透き通る空のようで、色鮮やかな魚たちが縦横無尽に泳いでいる。
 それについて、トーに念話を届けようとしたところで……異常に気付く。


「……(指を上に指す)」

「……(コクリと頷く)」


 それでも視界は良好なので、ハンドサインで脱出を指し示す。
 トーもそれを見て、すぐさま湖の中から上がっていった。


「ぷはぁ! ……話には聞いていたけど、これが強制力かぁ。単純だからこそ、ここまでの効果があるってことだね」

「…………」

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「お、おとーと君とお姉ちゃんの繋がりが。よくも……よくも……!」


 仮名称である『静まりの汽水湖』。
 その前半部分である『静まり』は、先ほど起きた現象から推測されたものである。

 魔法を使って会話を行おうとしていた探索者が、それを行えないことから発覚。
 魔法、魔道具、種族性質……どのような手段であろうと失敗する。

 個有スキルに内包された念話なら、あるいはと思ったが……これも失敗。
 まあ、音を介さない連絡手段──信号や手話などは問題ないのも今回確認できた。

 ならばそれを踏まえて、改めて迷宮を攻略していこうと思ったのだが…………ここでなぜか、トーの様子がおかしくなる。


「おとーと君、火の魔力を頂戴」

「う、うん。フラム──強い火をお願い」

『!』

「ありがとう、フラムちゃん。これなら──“増幅反射リフレクトアンプリファイ”」


 火の微精霊が生み出した、強火ではあるが狭い範囲にしか効果を及ぼさない火の魔法。
 送られてきたソレを、両手に生みだした魔法の力場で受け取り──弾いていく。

 彼女が発動させた“増幅反射”。
 それはエネルギーが当たった際に、その総量を増やしたうえで反対方向へ飛ばすことができるという魔法。

 本来は一度に一つしか展開できない力場なのだが、トーの場合は似たスキルを複数保持しているためか、そんなチートな力場を複数個展開することができた。

 普通、増幅にも限界があるだろうに……どこかの超能力者のように、トーは理論上ありとあらゆるエネルギーを反射させることができる。

 そして、その結果が──


「ふぅ……ふぅ……!」

「あ、あぁ……!」


 ×ラが×ラゾーマ、というたとえはよく創作物でも語られているだろう。
 しかし、これは……イベントシーンでしか出そうにない、超業火球がそこにはあった。

 この先、何が起こるかなんて分かり切っているだろう。
 トーの視線の先には、先ほどまで潜っていた湖が……。


「消えて、なくなりなさい!」

「嗚呼、アァアアアア!?」

『──』


 放たれた火の球が湖に衝突した瞬間、膨大な量の気化した熱がこちらを襲う。
 それを指示もせずに風の微精霊エアルが庇ってくれるのだが……今はそれどころではない。

 気化、それは液体が気体に変わる現象。
 今回の場合、湖の水がトーの増幅した熱によって形態変化を促されたために起きたのだが──そんな客観的事実はどうでもいい。

 せっかく見た幻想的な湖が、今や地獄の釜と化してしまった。
 よく見ると、直接火の球に当たらない範囲でプカプカと魔物が浮かび上がっている。

 見かけた魚だけでなく、いわゆる魚人みたいな魔物まで……。
 つまり、より深層に近い区画の魔物も、熱にやられているということ。

 どんどん水は減り、中に生息していた魔物たちも死滅していく。
 虚しい、そして儚い……迷宮の悪意とやらも、これを予想していただろうか。


「いや、してたかもしれないけど……大火力過ぎて抗いようが無いのかぁ」

「────ッ!!」

「……ハァ、普通に攻略するのは諦めた方がいいみたいだね」


 もともと、眷属が来ている時点で無理だったというのは今さらか。
 今はただ、いろんな意味で熱が冷めるのを待つしか無かった。



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