AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と陣営イベント中篇 その10
■染めの大■ 内部
転送陣から入った先、そこに広がる──赤一色の光景。
それは赤色の世界を知る俺でも見たことの無い、禍々しい『血染めの大地』だった。
「……ナシェク、どう思う?」
『──本物、に限りなく近しいでしょう。正しくは、本物だった』
「迷宮が始まりの場所で起きた惨状を、わざとらしく再現しているね。ここ、そしてその意味さえ分かっちゃえば、情報が遺失しても願いを叶えるために行けるように」
このイベントエリアには、どんな願いでも叶えられる魔法が存在していた。
その発動に必要な魔力を、人々からさまざまなモノを徴収することで蓄積している。
中には血も含まれており、この地で流れた血はすべて糧とされていた。
そんな歴史的悪意の塊を、迷宮としてこの地に保存していたわけだ。
「みんな、出番だよ──“精霊召喚”」
『!』
「こんな場所に呼んでごめんね。でも、終わらせたいんだ……だから、僕に力を貸してくれると嬉しいな」
『♪』
精霊は劣悪な環境を嫌う。
それでも、精霊たちが苦しまないように俺の魔力を余分に支払い、彼らを包む膜として構築することで多少の嫌悪感は収めた。
そのうえで、嘆願する。
微精霊とはいえ、短い間でかなりの魔力を俺から吸い上げている……意志を汲み取るぐらいは、なんてこともない。
「ナシェクも、お願いだよ」
『対価を要求したいところですが、精霊たちがこんなにも健気に応えているところで要求すると、私が酷く悪役に思えます……今回は特別です』
「ありがとう──『寒氷の天槍』」
腕輪型の聖具は俺の言葉に応じて、その形状を氷で構築された槍へと変える。
相手がどんな存在かは分からないが、とりあえず動きを止められそうな武器にした。
そのうえで、念には念を入れておく。
今はまだ入り口付近なので何もしてこないのだろうが、迷宮の見せる演目、その部隊に上がるのであれば否応なしに巻き込まれる。
「ナシェク、氷を周囲に広げられる?」
『問題ありません』
「──うん、ちょうどいいよ。アクス、水で範囲を広げて。アイア、その水と氷を触媒に人形を作ってくれないかな?」
『『♪』』
地面に突き刺した槍がその冷気で地表を覆い、その付近を通った水をも凍らせていく。
そうして広がったスケート場ほどの氷が、クッキーの型取りのように刳り貫かれる。
氷の人形がそうして出来上がると、俺はアイアに指示をして各方面に向かわせた。
一歩、また一歩と氷を踏み抜いていき──地面を踏んだところで、空気が一変する。
『! 来ますよ……』
「これは……ちょっと危ないかな?」
真っ赤な大地から突如として、ボコボコと間欠泉のように噴き出す水。
ドロドロとした液体が落ちてくると、不定形な塊が一つ、また一つと出来上がる。
それらは形を成し、顔の無い人や魔物の姿となっていく。
……顔は無いはずなのに、どれもこれもがこちらに殺意を向けているように思えた。
彼らは真っ先に、向かわせていた氷の人形たちを徹底的に砕いていく。
そしてそれが無くなれば──当然、次の狙いは俺となる。
「エアル、僕を軽くして。アクスとアイア、水の足場を作って氷で固めて。フラム、ラボル、ヘリス、アリユは各自迎撃をお願いね。さっき頼んだみんなも、余裕ができたら魔法で迎撃をして」
『♪』
「ナシェクは……まあ、このままサポートをお願い。聖気で浄化ができないか、その確認だけしてくれるかな?」
『ええ、分かりました』
血に染まった足場を信用せず、宙に新たな足場を作ってそこを駆ける。
それに応じるように、血の塊たちも徐々に羽を生やした個体が増えていく。
近づいてくる個体を次々と撃ち落とし、それでも来るヤツは俺自身が叩き落とす。
その際、ナシェクが聖気を送り込んで浄化してみるのだが……主だった変化は無い。
『浄化は通じていないというよりも、浄化すべきものが無いといった感覚でしょうか。経験があります、遠隔操作……とミコトは言っていましたね』
「ふぅむ……ならやっぱり、ここ全部を浄化し切る感じなのかな? いろいろやってみよう。魔本解読──“停滞豪雪”」
リュシルに消失前提で創ってもらった、性能特化の魔本。
普段遣いの魔本開読ではなく、一度に籠められたものを使い切る魔本解読を行使。
その結果、通常通りに魔法を使うよりも高い威力を発揮できる。
停滞を促し、あらゆる存在の動きを──生命活動をも止める吹雪が吹き荒れた。
「これで終われば……良かったんだけど、そうは問屋が卸さないってね」
『少しずつ、内部から破壊しているようですね。どうしますか? 今ならば、脱出することも可能でしょうが……』
「後退はしないよ。誰かがいつか、ここを終わらせるかもしれない……でも、それは間違いなく選ばれし者の使命。だから僕がやるんだ、予定調和なんてクソくらえだしね」
縛り云々を相談したとき、アンは武具っ娘のみが該当する契約に異を唱えている。
だがそれは、別のやり方──全眷属が大将であれば問題ないというわけで。
「仕方ないか──“召喚・眷属”!」
ある意味、契約というのであれば彼女たちが俺にとってもっとも深い契約を交わしているのだ──この茶番を終わらせるため、ついに鬼札を使おう。
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