AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント中篇 その09



 S級迷宮 ■染めの大■ 入り口


 S級迷宮へと繋がる転送陣は、常にAランク相当の探索者によって守られている。
 無謀にも挑む愚者が現れ、意味もなく糧とされることを防ぐためだ。

 俺は現在、そんなS級迷宮……に入ろうとしていたのだが。
 なぜかちょうど、見張りの方々に見守られながら──正座をしていた。


『なぜ、どうして、この私を身に着けないままこんなにも面白──過酷な試練を乗り越えているのですか! ミコトに代わる聖人として、これからたゆまぬ努力をすると誓ったはずでしょう!?』

「……まったくしてないんだけど。記憶を捏造するのは止めてくれないかな?」

『…………。ええい、言い訳は聞きたくありません! ならばその殊勝な態度は、何に対する罪悪感によるものなのですか!?』

「そういうことなら、もう止めていい気がするんだけど。ほら、いい加減苦笑している見張りの人たちに迷惑になってきたし」


 事の発端は迷宮入場前の準備中、S級迷宮に入るための資格を提示していたところ。
 内部では着けておこうと思い、先んじてナシェクを取り出そうと思った。

 祈念者であれば、[アイテムボックス]が使えるという共通認識がすでに通っている。
 なのでそれを証明するついでとして、ここでナシェクを出したのだが──揉めた。

 聖なる光をペカーと放ち、それはもう長々とお説教を始めたのだ。
 しかも周囲に声を、意図的に出す形で……そういうアイテムに需要はあるけども。

 意思ある道具インテリジェンスアイテムの所持者ということで、S級迷宮に挑む資格があると判断される。
 それはいいのだが、どうせなら間を取りなしてもらいたかったよ……。 

 そんなこんなで現在、入り口では世にも奇妙な光景が繰り広げられている。


「だいたい、ナシェクだって悪いと思うんだよ。僕はミコトお姉さんみたいに強くないんだから、やれることは何でもやったつもりだよ? だからって、ナシェクにおんぶに抱っこのままじゃいられないんだから」

『だからと言って、こんな……こんな仕打ちが許されるのですか!』

「こんな仕打ちって……」

『知りませんでした、貴方がここまでの──浮気性だったとは! そんなにも精霊たちを侍らせて、何なのです……私への当てつけなのですか!?』


 そして、俺がナシェクの知らぬ前に契約術師プレイを始めていたことも問題になった。
 どうやらナシェク的に、他の存在との契約はかなり気になるようだ。

 まあ、生まれてすぐにミコトと契約し、その成長をすぐ傍で知っていたわけだし。
 ナシェクなりの流儀や定義が、そこにはあるのだろう……が、それでも主張する。


「──押し付けない、そう誓ったはずだよ」

『うぐっ……!』

「僕には僕のやり方がある。その考えを認めていた人が居る、それは分かるよ。でもね、これが僕なんだよ。だからいつまでも、過去の人を押し付けようとはしないで」

『ッ……!?』


 ナシェク的に、先代の使い手たるミコトはすでに亡き人。
 だからこそ、彼女が居た証明をすべくあの手この手で進めたいのはまあ分かる。

 だが、俺は知っている……まだ彼女の残滓がこの世界に残っていることを。
 それを知っているか知らないか、それが俺とナシェクの熱量差の正体。

 そして俺は、それをその刻が訪れるまで告げる気はない。
 憎まれ役を務めようと、最高の場を整えるのが偽善者の役目ってやつだろう?


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──痴話喧嘩はもういいか?」

「……目は節穴ですか? それより、これでもう入っていいんですよね?」

「合格だ。だが、最後に義務として聞いてもらう話がある。迷宮の中に関する話だから、聞いておいて損は無いはずだ」


 義務と言われては無視することもできず、とりあえず話を聞くことに。
 受付では詳細な情報はここで聞けとのことだったが……なるほど、そういうことか。


「ここの迷宮、たしか祈念者は視ることができるんだったな。なんて読むんだ?」

「『■染めの大■』……すみません、部分的に読めない場所があります」

「ああ、それで間違ってねぇ。実際、S級迷宮はその全部が、どこかしこで認識できねぇようになっている。それが何を意味するか、分かるか?」

「……迷宮の全容を、名称からある程度予測することができないこと、ですか?」


 迷宮の名前はこれまでの俺が訪れた場所からお察しの通り、ある程度法則性があった。
 属性、出現する存在、制限……そういった一つひとつの要素が名前を構成している。

 だが、それが抜けている……理由はともかく、お陰で完全に暴くことができない。
 それでもそれをあえて言う、その意図を告げるよう視線で促す。


「そりゃあな、AランクやSランクの連中が何度も挑戦してるんだ。ある程度暴けてもいるらしい。間違いなく、どっちも『チ』が入るとのことだ」

「『チ染めの大チ』……血で地、かな?」

「だが、名前が分かったからって全部が解決するわけじゃねぇ。実際、この迷宮はまだ攻略されてねぇんだからな。行くんなら、気を張っていけよ」

「分かりました……ありがとうございます」


 名前が分かれば、あとは攻略条件を中で見極めればいい。
 受付嬢に持って帰ってきてほしい物の情報も聞いたし、そこから分かることもある。

 ──間違いなく、悪意・・が蠢いていると。



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