AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント前篇 その19



 D級迷宮 養静の花園


 E級の迷宮を攻略したことで、晴れて俺はD級迷宮への入場が認められた。
 今回訪れたのは、色とりどりの花畑……橙色の世界を知っていると複雑な気分である。


「でも、今回は頑張らないと」


 ここは純粋な力ではなく、迷宮の用意した仕掛けをどう攻略するかが鍵となるだろう。
 ──がその一つが、今の俺にとっては大変都合が良いため訪れた。


魔本開読オープン──“精霊探査サーチエレメント”」


 かなりお高めだった魔本に記載された術式は、周囲の精霊を探すための魔法。
 そう、『養静の花園』には精霊種が多く存在している、だからこその来訪だった。

 しかし、気を付けなければいけない。
 E級迷宮たる『厳重なる森林』がそうだったように、この迷宮にもまたある種の理のような法則があるのだから。


「おっと、反応だ……まあ、予想通りいっぱい居るみたいだね。今の僕にはさっぱり探知できないけど」


 精霊の反応は、精霊への適性を持つ者か特殊な瞳を持つ者、あるいは精霊が好む域まで属性の質を高めることができた者にしか感知することができない。

 後天的に精霊魔法を獲得する、という方法もあるにはあるのだが……それだって結局のところ、今の俺のように場所の特定ができるだけに留まる。 

 というわけで、これ以上を俺一人でどうにかするのは無理。
 なのでこの迷宮の法則を利用して、なんとかしてみる。


「ねぇねぇ、妖精さん。聞こえているなら返事をして」

『────』

「僕の頼みを聞いてくれるなら。この、とっても甘いおか──」

『何々?』『お菓子頂戴!』『甘いの欲しいぃ!』『もう早く頂戴よ!?』『ヨコセ!』『何すればいいの!』


 言い方はアレだが、群がってくる大量の妖精たち。
 養静、転じて妖精……ある条件を満たさない限り、ここは妖精の花園でもあった。

 妖精たちは生まれ持って、精霊との親和性が高い。
 つまり、彼らと交渉することで精霊たちを呼んでもらうことができる。

 交渉材料は簡単、彼らの好む嗜好品。
 大量のお菓子を持参して、それをチラつかせれば──


「うわぁ……」

『──連れてきたよ!』『ほらほら、速くしてよ!』『甘いぃいいい!』『いつまで待たせるの!?』『ヨコセ!』『まだ必要でしょうか?』

「う、ううん。これが報酬の──」

『──────!!』


 言語機能すら失い、お菓子に飛びつく妖精たち……あそこまで欲望を剥き出しにできるとは、なんと恐ろしい種族なのだるか。

 それでも約束通り、周囲に大量の精霊を集めてくれたのは間違いない。
 持続させていた“精霊探査”も、感じられないが周囲に居ることを教えてくれる。

 周りの妖精はお菓子に夢中で、こちらのことなんて意にも介していない。
 まあ、隠すようなことでもないし──始めるとしますか。


「力を貸してほしいんだ。だから、お願いできるかな?」


 見えざる存在に対して語り掛ける姿は、もう病的と言っても間違いではない。
 それでも応えてくれると信じて、真剣な言葉を紡いでいく。


「僕が提供できるのは、自分自身の魔力。少し変かもしれないけど……でも、これだけしか無いんだ」


 俺には畏怖嫌厭やその他にも邪縛がある。
 それらが決して、精霊たちに不快感を与えないとは思っていない。

 実際、妖精たちはお菓子を受け取ったら即座に離脱している。
 精霊たちの自我が希薄だからこそ、それらは通常よりも効果を発揮しないでいた。

 同時にそれは、上っ面だけの交渉の無価値さを意味する。
 精霊にはダイレクトな想いを伝えるべし、と樹の聖霊様も教えてくれたからな。


「改めて──僕に力を貸してほしい。少しでも、できることを増やすために!」


 そう言って、手を伸ばす。
 魔力を軽く放出し、それを受け取ってもらえたら契約を受け入れるということになるのだが……。


「……いいんだね、本当に」

『!』

「ありがとう。その他のみんな、聞いてくれただけで充分だよ」


 応えてくれたのは一体のみ。
 だがしかし、畏怖嫌厭もある中で応えてくれるのはかなり貴重だ……ナース同様、レアなケースである。

 属性は風。
 自由気ままな性質を持つ彼らなので、俺への嫌悪感よりも外への解放をどこかで思っていたのかもしれない。


「じゃあ、契約しよう──[精霊の頁]」


 デュラハンたちと契約した[夢現の書]。
 アンデッドと契約できる[屍魂の頁]だけでなく、精霊との契約を可能とするページも用意されていた。

 そこに契約した風精霊を近づけると、向こうから触れた後に吸い込まれていく。
 妖精たちが遠目でこちらを見てくるが、お菓子をチラつかせれば何もしてこない。


「ふぅ……よろしくね」

『…………』

「ああ、えっと……どうぞ」

『────!!』


 俺なんて無視して、即座にお菓子に群がりだす妖精たち。
 もう[夢現の書]のことなど見向きもしていない……持ってきておいて正解だった。


「さて、改めて召喚──『エアル』」

『!』

「改めてよろしくね」

『!!』


 契約した風精霊に名前を付けて、晴れて成立となる。
 ……これでとりあえず、戦力がゼロというわけでは無くなった。


「それじゃあ、ボスの所に行こう」

『!』


 これまでと同じようにやるだけだ。
 まだまだ大量にストックのあるお菓子を取り出して、俺は妖精に語り掛けるのだった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品