AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント前篇 その05



 デュラハンはもともと、妖精に近しいとも言われる種族だ。
 なのでアンデッドでありながら、負の魔力だけでなく正の魔力を扱うこともできる。

 正と負、生者と死人で用いるエネルギーが違うので、そのままでは花火の魔法は使えない……一部の優れた魔法使いならば、昔の感覚で魔法を発動させられるんだけどな。


「まっ、真っ当な方法でならってだけの話だけども」

『?』

「ちょっとだけ痛いかもしれないけど、耐えてくれよ──“屍転聖変セイント”」

『!!』


 かつて、四人の英雄の骸に行った、聖気による浄化と蘇生から成る『聖骸』への変化。
 当時起きた現象を解析し、簡易的にそれをアンデッドへ施せるようにした魔法だ。

 適性云々やアンデッド自体の心根といった問題はあるが、それらの条件さえ満たせばこの魔法はほぼ確実に成功する。

 禍々しい大剣を握り、黒い鎧を纏うというデュラハンの特徴がだんだん変化していく。
 剣は形を変えて清浄さすら感じる長剣へ、鎧も真っ白なものとなり神聖な見た目へと。

 ついでに首は元通り頭の位置に収まり、その体型にも変化が現れる。
 他のデュラハンと同じぐらいだったサイズが、子供と同じぐらいにまで縮んでいく。

 くっついた頭が被っていたバイザーも、それと同じタイミングで消える。
 そこにあったのは、やはり子供の相貌……現状を理解できずとても不思議そうだ。


「君、言葉は話せるかな?」

『? ッ!』

「無理そうだな……まずは言語を覚えさせ、それから魔道具でも使えばいいか。まあ、今はそれよりも──こっちか」

『!!』


 俺が突然何も無い場所に手を突っ込み、そこから巻物を出したことに驚いた様子。
 それはスクロール、魔力を籠めた者に適性があればその中身を使えるようになる代物。


「さっきの花火……二つ目のヤツだな。アレが君でも使えるようになるぞ」

『!』

「おいおい、そんなに慌てなくても逃げたりしないぞ。まずはこの絵の部分に魔力を籠めるんだ……あー、まあ載せてみればなんとなく分かると思うぞ」

『!!』


 子供なので魔力を上手く扱えるか分からなかったが、それは杞憂だったようで。
 掌を乗せるとすぐにスクロールが起動し、文字の羅列がデュラハン(聖)に浸透する。

 魔本と違い、使い切りだからな。
 しかし確実性があり、自由民であれば脳裏に使い方が勝手に浮かび上がる。


『! ッ!!』

「おー、できてるできてる。上手だぞ。あとはどんな形がいいのか、強くイメージすることが肝心だ」


 すぐに“幻光花火イリュージョンマイン”を発動し、空の上で花火を展開しだす。
 術式によってある程度補正も入るので、しばらくはそれを弄って楽しむだろう。


『カ、ンシャヲ……シ、ンデ……』

「おっと、忘れてた──“死改糧工デッドカスタム”」


 蹴り飛ばした後、壁に埋まっていたので放置してたデュラハン(感謝)が戻ってくる。
 子供個体と違い、同じ魔法を使ったら浄化されるか弱体化すること間違いなし。

 なのでこちらの個体に使うのは、アンデッド改造用の魔法。
 これまでに生み出したアンデッドを捧げて得たポイントで、強化を行うことができる。


『アガ、アガァアアアアア!』

『ッ!?』

「──“静寂サイレント”。な、何でもないぞ。ほら、気にしなくていいからな」

『……。ッ!』


 デュラハン(聖)にバレそうだったが、素直というか純粋というか……俺のごまかしはあっさりと通り、再び花火で遊び始めた。

 なので俺も一安心、ほっと一息吐いてから再び絶叫を喘がせ始める。
 意思をシャットアウトさせれば叫んだりしないが、そこはわざとやっています。


「別にさ、従えとも感謝しろとも言っていないぞ。でも、体を与えた側を殺そうとするのはどうかと思うぞ? 死にたいなら自殺、嫌なら外で恨みを晴らす……なんで俺を殺さねばならんのよ」

『ソ、レハ……』

「知性を弄って正解だった。ほら、さっさと言え。じゃないと……あの子もどうなることやら」

『!!』


 ああうん、これまたビンゴ。
 まあ子供が死んだなら、当然親の方も死んでいるわけで。

 抽出した四体の内──戦いの中で死んだ個体が戦闘狂、絶望の中で死んだ個体が恨み。
 そして、それ以外の真っ当な人格を持って死んだ個体が彼らなのだろう。

 感謝は救ってくれた礼、だが同時に現状や子供個体などで晴らせない悪感情の塊を払拭し切れなかった……子供ほど純粋ではない彼らは、聖の恩恵には浸れない。


「まあ、そのままでもいいなら、あの子たちと話せるだけの知性を与えてやる。衝動の方もどうにかしてやる、俺を守る騎士にはならなくていい。あの子たちを守る騎士なら……どうだ?」

『ア、あぁ……!』


 無邪気に楽しむデュラハン(聖)を見て、ずいぶんと理性を取り戻したようで。
 少なくとも騎士の作法を真似、傅くぐらいのことはできるようになった。


『アナタに、チュウセイを……』

「いや、俺じゃなくてアイツに……まあ、今はいいや。可能な限り、人型に寄せる。男親も女親もいるだろうから、もういっそのことさらに二体に分ける。そっちの方で、なんとなく男と女で別れろ」

『…………エェ』

「つべこべ言うんじゃない。じゃああれか、お前らお父さんとお母さんとどっちって聞かれたら、両方ですなんて言うのか?」

『ワ、ワかりました』


 そんなこんなで、デュラハン(感謝)を再調整してもう一度“屍騎受体デュラハン”を発動。
 男らしいがっちりとした個体と、女のらしい丸みを帯びた個体が誕生するのだった。



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