AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と天使&悪魔 中篇



 魔武具『アルカナ/アーケイナム』。
 二段階、四種類で計八つの姿を持った魔武具……数ではナシェクに劣るが、その分個々の能力が厄介だ。

 絶対ダメージの剣、聞くだけでデバフに罹る杖、反撃付きの盾である硬貨、そして支払う魔力に見合った願いを叶える聖杯。

 それらを俺以上に使いこなす大悪魔を相手に、能力が制限された聖具のみでやり合う必要……は正直無いのだが、ここはノリ的にその方向でやってみようと思う。

 手にする武器は『灼炎の天剣』。
 聖具が模る九つの形状の内、火属性を司る形態だ。


「それじゃあ始めようか。『渇望の聖杯』、『相手の武技・魔術及び魔法の禁止』」

「うわ、ズル!」

「好きに言えばいいさ。でも、死ねば口無しらしいけどね!」


 俺へ縛りを設け、自分はそれが無いという圧倒的有利な状況を構築する大悪魔。
 デメリット皆無な『渇望の聖杯』だからこそできる、魔力ごり押しのパワープレイだ。

 すぐに武器は『時斬る長剣』に戻り、俺の大剣との打ち合いに戻る。
 互いにまずは様子見、軽口を叩きながら相手の観察を行う。


「ところで、スキルは封じないの?」

「……君の持っているスキルの量が多過ぎるせいだよ」

「まっ、全部を使いこなせているわけじゃないから、それで有利になるわけじゃないんだけどな。そっちこそ、せっかく使えるものを活かしたらどうなんだ?」

「そうさせてもらうよ──“地獄煉火ヘルフレイム”!」


 地獄の瘴気を漂わせる、禍々しい炎を放ってくる。
 俺はそれをジッと視て、魔法の核となる部分に剣を当てた。

 聖具『灼炎の天剣』が生み出す火は、ただの火ではなく聖なる火。
 しっかりと一撃で壊せる場所に剣を当てれば、魔法現象ごと浄化させられる。


「っ……ああそうだったね、君は剣技の方も長けているんだった」

「師匠がいいからな、凡人でもこれぐらいはできるぞ」

『かつての聖人ほどではありませんが、いい腕です。その師匠という人は、さぞ優れた剣士なのでしょう』

「自慢のお師匠様だ」


 ナシェクを振るう可能性は、腰に提げている獣聖剣が【嫉妬】するだろうから無いと思うが……と思いつつ、大悪魔へ今度は距離を取って攻撃を行う。


「──『疾風の天弓』」

「君、弓まで習っていたかな?」

「日々成長するんだよ」


 うちの眷属でも、何でも使うシュリュや最近は弓も使うセイなどから弓は習った。
 百発百中……は無理だが、条件さえ満たせばほぼそれに近しい命中度を誇るぞ。

 矢を番えず、ただ弦を弾く。
 するとその手に、いつの間にか風が当たるような感触が現れる。

 強く握る意識をすると、風もまるで矢のような感触を返してきた。
 あとはそれを、複数の指で同時に行い──大悪魔に向けて一気に放つ。


「無駄だよ──『崩絡の硬貨』」

「そっちこそな──“風が吹きGyrat”」

「バカな、使えないように……ってそうだった、それは装置を経由していたね」

「というわけで、聖なる矢を受けろ」


 大悪魔が展開した大量の硬貨の盾。
 本来ならぶつかるはずだった矢だが、突如吹いた一陣の風に揺られてそのすべての軌道がズレて大悪魔に命中する。

 理屈は簡単、そういう魔術をデバイス経由で使ったから。
 便利な聖杯だが、アイテムの使用を禁止にしていたら聖具も使えなかったからな。

 そんなこんなで、矢は大悪魔に命中。
 悪魔に聖属性のダメージはそれなりに効くが、残念ながら格の差というものがある。

 ナシェク……いや、ナシェケエルとかつての聖人ならばこれでもう勝ったかもしれないが、今の俺たちはナシェクと凡人。

 平然とはしていないが、時間さえあれば治癒できそうなダメージしか負っていない大悪魔に辟易としてしまう。


「まずは一撃……けどこれ、どうやったら終わるんだ?」

「簡単な話さ。君には手を出すと厄介なことこの上ないから諦めるとして、その聖具を破壊できればボクは大満足。これまで通り、イイ関係を築いていこう」

「じゃあ、俺も決まった。とりあえず、お前が飽きるまで延々と粘る。どっちが先に飽きるかの勝負だ──『滝水の天銃』」


 ナシェクはめったに使っていなかったが、聖具にアクセスしたときにその詳細を知ることができた水属性を司る聖具の形態。

 銃、火薬などではなく聖水を生成して弾丸として打ち出すタイプのいわゆる魔法銃。
 もちろん、水鉄砲みたいな撃ち出し方ではない……できないわけじゃないがな。

 適当に引き金を引くと、ただ水の弾がそれなりの速度で飛んでいく。
 あっさりと長剣に弾かれたが、次はあるイメージを籠めて射出。


「よしっ、成功!」

「……ボクで実験するのは止めてほしいんだけどね」

「仕方ないだろ、相手がお前しかいないんだから。というわけで、俺が飽きるまで頑張ってくれよ」

『…………』


 なぜだろう、大悪魔もそしてナシェクからも飽きれられている気がする。
 いや、お前らじゃなくて俺が飽きるまでだと言っているんですけど。

 先ほどやったのは、ライフリング……は聖具にできないので、弾丸の形状をそちらに近づけるイメージだ。

 そも、ライフリングとは溝を彫って弾丸にその跡を刻むこと。
 ならば水という不定形なモノであれば、最初からそれに寄せておけばいいという考え。

 おそらく、意図的に変化させることもできるだろう。
 何度も言うが水は不定形……そして銃も、魔力で動いているからな。



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