AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の謀略 その13



 そんなこんなで日々は過ぎていく。
 魔族たちは当代魔王のやり方にもだいぶ慣れていき、バトル的な意味以外の実力を理解するようになった。

 食客のシュリュは魔花たちを倒しまくり、その力を魔族たちに示している。
 王としての振る舞いを魔王以上にやるものだから、『真・魔王』と呼ばれていたな。

 彼女も否定しないし、魔王もそれを笑って許している。
 まだまだ見習う部分が多いとか、そんなことを言っていたっけ。


「──間もなく、獣人国主催による国家間会議が始まる。そしてそれは、華都の大規模な移動の時期を意味する」

「ふむ、それがどうかしたか?」

「貴方がたは知りませんでしたね。一定周期で動いている華都ですが、そうして複数の華都が集まる時期があります。そして、同時にその道先では多くの魔花たちも……」

「なるほど、味を占められたか」


 多くの華都が集まるということは、それだけ多くの人族が集まるということ。
 それはつまり、それだけ多くの糧となりうる生命体がのこのこ現れるということだ。

 そりゃあ待ち伏せだったり、大規模な侵攻作戦だってやるだろう。
 その分、強者も多いだろうが……雑魚の数はそれ以上に増えるからな。


「それで、朕に何を求める?」

「会談の場、もしくは華都を守護していただきたい。どちらを、という強制はしない。望まれる方を、ご自身の思うように」

「ふむ……では、会場を。この世界の末、見届けさせてもらおう」

「ありがとうございます」


 頭を下げる魔王。
 この辺がまだまだ王として足りない、そうシュリュが零していたことがあったな。

 まあ、そうされるのが当然と思えるほど、この華都でシュリュは活躍している。
 彼女の存在は、国民たちにとって新たな英雄……というか女傑みたいな認識だし。

 なお、俺も俺で新魔術で生活魔法的な便利かつ低燃費なものを開発しておいた。
 これは各華都に、眷属を通じて送ってあるので──いろいろと気づくことだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 華都は約束された地へ向かう。
 正確には、他の華都と時期が合って遭遇するだけで、実際には約束とか関係なく行くことになるんだけども。

 予定として行くことは決まったが、到着にはまだまだ時間が掛かる。
 他の華都の眷属たちが仕込みをしてくれているとは思うが、実るのはまだ先のこと。

 俺は一人、街から離れて魔花が出現する辺りにやってきていた。
 理由は暇だから、そして……完成した武器の実験のため。


「『魔王剣[橙牢]』、いい武器だ」

『……何がいい武器だ、だ。貴様、このようなことをして許されると思っているのか!』


 開発したその魔剣には、禍々しい宝珠が取り付けられている。
 これは初代魔王の意思を読み取り、的確に俺のアシストを行わせられる魔剣だった。


「許されるつもりなんて毛ほども無いし、元より詫びる気すらない。まあいいだろ、お前さえ望めばすぐに肉体を用意するぞ?」

『例の物か。使えば体が女になると知って、どうしてそれを使うと思う?』

「それぐらい、安い対価だろう? だいたいお前、昔の魔王の中に女性も居ただろ。経験済みなんだから、細かいことは気にするな」


 実力主義だったので、男も女も関係なく魔王には就任していたらしい。
 そして、彼らの魂は[橙牢]の中に収容されて……擦り切れるまで利用される。

 宝珠に初代魔王を封じる前に調べたが、完全な形で回収できたのは当代の魂のみ。
 他は……どこか歪になっており、少なくとも当時とまったく同じというのは不可能。

 それでも俺の偽善を満たすため、あれこれやってみてはいる。
 死にたいと望むのであれば、俺なりの解釈ぐらいはする予定だ。


『世話など侍従にやらせていたのだ、性別など関係ない』

「へぇ、じゃあ発散とかもか?」

『…………何を考えているかは知らんが、あらゆるものが[橙牢]の対象だ』


 欲もまた、どこかに押し込んでいたのか。
 それはそれで、少し面白い……俺ならそうして溜め込んだものを、強制的に【謙譲】することができるからな。


「それじゃあ無欲な魔王様、さっそくご自身の力を使ってもらえますかね」

『チッ──[橙牢]』


 宝珠が昏く光ると、その光が剣身にまで行き渡る。
 理論上、成功するとは思っていたが、やはり感想は当人から聞かないとな。


「偽りの『装華』、製作者:俺の[橙牢]の性能はいかがかな?」

『これは……思った以上に馴染むな。このような姿であるにも関わらず、意思の通りに力が振るえる』

「余計な能力に割いていた分を、そういう部分に注いでいるからな。乗っ取りはできなくしたから、真っ当に頑張ってくれ」


 フルバックアップしておいた[橙牢]を、魔剣に差し替えたのがこの魔王剣だ。
 発動には初代魔王の意思が必要であり、一部能力に制限がある劣化版[橙牢]である。

 試しに剣を振ってみると、それに合わせて初代魔王が何かを発動した。
 するとただの素振りが巨大な斬撃となり、目の前に咲いていた植物の全長が低くなる。


『我が籠めた魔力に触れたものは、すべてが[橙牢]に閉じ込められる。剣に魔力を付与して飛ばし、空気やら魔花にそれらを適用させればこの通り』

「……便利過ぎて嫌われるな。これ、俺が使い続けたら完全に剣頼りじゃん」

『事実その通りであろう?』

「はぁ……あとで今の魔王に渡すつもりだから、どこまでが通常の性能なのかを適当に誤魔化していくぞ」


 本人(剣)は不満たらたらだが、やり過ぎると危険なのもまた事実。
 雑魚でも振るえる最強アイテム……普通なら、厄介ごとの臭いしかしないだろ。



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