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山田 武

偽善者と橙色の謀略 その12



 シュリュ相手によく粘ったものだ。
 初めは個で挑み負けまくっていたが、だんだん協力をするようになり……最終的には全員で力を合わせたりもしていた。

 そしてそれは実力主義に固執する者だけではなく、この場に居るほとんどの者たちが。
 お祭り気分で挑んでは、笑って次はどうするかと話していた。

 それこそが魔王が狙った新たな道。
 一人ひとりが蹴落とすように実力を付けるのではなく、力を合わせて競い合い、高め合うことを目指すやり方。

 今は絶賛演説中、これからの魔族はどうしていくべきかを語っている。
 シュリュは戦闘が終わり暇そうなので、そちらに移動しておく。


「お疲れ様です、シュリュ様」

「うむ……さすがに朕も疲れる」

「あはは、皆さんとても頑張っていましたからね。それだけシュリュ様を、超えるべき壁として見ておられたのでしょう」

「……そうか。そのような在り方も、良かったのかもしれぬな」


 シュリュはほぼ覇王だったので、反逆の可能性など刈り尽くしていたのだろう。
 恐怖政治にも近いやり方、だが主導者が生きている限りその政治体制は貫かれる。

 今のシュリュの国が、かつてと同じ……ということは間違いなく無い。
 運営神も関わっているみたいだし、宗教国家にでもなっているかもな。


「──今夜はごちそうですね!」

「其方……そうだな」

「はい、楽しみにしていてくださいね。腕によりをかけて作っちゃいますから!」


 なんというか、縛りで全然強くないこの世界だと、俺の仕事はひたすら家事系ばかりな気がするな……まあ、眷属が喜んでくれるならそれでいいけども。

 魔王の演説も終わり、今夜は宴を開くことになっている。
 俺たちはそれを謝辞を述べて断わり、二人だけで晩飯を楽しむのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 図書館


 シュリュは大忙し、俺が頼んだのもあってアスタリペに出現する魔物──通称『魔花』の討伐に行ってもらっている。

 だが俺はそちらには向かわず、図書館でひたすら知識を蓄えていた。
 ゴー、そして初代魔王と話し合いながら、新作魔術を即興で開発している。


「魔術は魔法と違って、ほとんど弄る余地が無いからね……まあ、『装華』の方から変数とかを調整すればある程度なんとかなるみたいだけど、自己改竄は難しいかな?」

『貴様、そこまで魔術を把握しているのか』

「まあ、気になることは知りたい分だけ知ろうとしているから。そういうこともあって、子供騙し程度のことならできるよ」

『……そのレベルでは無かろうに』


 魔力の球体を浮かべ、指を鳴らすたびにそこへ属性を付与する試作魔術。
 うん、ゴーとノリだけで創ったのだが……やり様によってはイイ演出ができるな。

 正確には指を鳴らす、ではなくその際に生じる俺個人の魔力波ではあるが。
 子供のオモチャでもよくある、タッチするたびに色が変わるアレと同じ感じだ。


《同朋、だからといって魔術を創り出せるのとはまた別の話だと思うぞ》

《おもちゃメーカーさんだって頑張ってるんだから、俺だって頑張らないとな》

《努力の方向性がおかしくないか!?》

《そうかもしれないけど、まあ今回の魔術は元からあった“万色魔力オールカラー”を少し改造……もとい改悪しただけだからな。これぐらい、魔術知識があれば簡単だろ》


 参考書に載っている文章を丸コピして、要所要所だけ書き換えた……ぐらいのイメージだろうか。

 とても分かりやすい参考書だから、バカでもできましたといった感じだ。
 事実、用意されたセキュリティ系の術式が消えたので、誰でもハッキング可能である。


「まあでも、魔術でも可変部分を意図的に入れておけば、ある程度調整できるからいいんだけど。既存の術式って、どれも射程とか威力とか強度みたいな部分しか、変えられないようになっているんだよなー」

『…………』

「ん? 魔法も魔術も知っているお前なら、なんとなく分からないか? 魔法の方は魔力マシマシでやれば強引に性能を上げられる。だが魔術は違う、供給された魔力に比例して設定された情報ごとに性能が上がるだけだ」


 これにはちょうどいいたとえがある──創作物でも定番、互いに遠距離技を放った後にどちらかが勝つアレ。

 魔法なら、なんやかんやで高まった魔力を追加で押し込むことで、通常以上の性能を発揮してどうにかできる可能性がある。

 しかし魔術の場合、最初に注いだ分しか基本的に効果を発揮しない。
 感情論など通用しない、ただ決まりきった通りの事象が起きるだけだ。


『そんなこと、考えたことも無かった。ただより強力な魔術を、それだけしか』

「あー、まあそれでいいと思うけどね。レベルを上げて、上がった分だけできることは増えるだろうし。けど、うちの世界だとあんまりそれは通じなくてね……せっかくだし、今後のために勉強してみる?」

『今後、か。まあ良い、そこまで言うのであれば、貴様の思惑を食い破ってでも力を手に入れてやろうではないか』

「普通ならダメだと思うけど……俺的にはかなりいいと思うよ。それじゃあ、楽しく魔術開発を頑張ろうか!」


 割とノリのいい初代魔王なので、俺もまた男子同士みたいなやり取りをしてしまう。
 全部ゴーが見てくれているし、何かあってもどうとでもなるさ。



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