AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と弟子特訓 その10



 ユウが傷つく以外、何の進展もなく戦いは続いていた。
 俺たちの戦いの影響か、高レベルに設定したはずの魔物も出てこない。

 間違いなくアルカの意志の強さに折れ、捻じ伏せられているのだろう。
 げに恐ろしきはそれを、【憤怒】にいっさい頼らず行えている執念である。

 発動してしまえば、今よりもはるかに効率的に魔力は回復し、魔法を畳みかけてユウを退場させることだってできる……それ以外にも強力な能力を【憤怒】は発動可能だ。

 しかしそれを使ってしまえば、俺が与えた力に頼ることになる……そう考える彼女は、俺から授かったすべての恩恵を断ち切り、彼女自身の力のみで俺を倒そうとしていた。

 まあ、それなら俺があげた卵から孵化した杖を使うのもダメだと思うけども、
 野暮なことは言うまい、あくまでも譲れぬ一線とやらを意識していてさえくれれば。


「──『滅魔墜星』!」

「師匠!」

「分かってるよ──“完全再現:鏡写しの銀鏡世界”」


 魔力に反応し、命中した対象の魔力量が多ければ多いほど威力が上がるアルカ作のオリジナル魔法。

 対抗するようにギーを介して発動させたのは、あらゆる攻撃を相殺できる魔導。
 地面は上書きされてそのすべてが銀鏡と化し、そこに映し出される巨大な隕石。

 すると、反射した光景は鏡の中から飛び出し、重力に逆らい空へと向かう。
 そして、互いは引かれ合うように向かい合い──共にぶつかり、相殺された。


「ふーん、本当に厄介ね」

「……その割には、無力化されることまで想定内だったみたいだな? 魔力の回収、ずいぶんと早いじゃないか」

「そりゃあね。勝つ気ではいるけど、相手が格上なのは百も承知……不服だけど。とにかく、どんな状況も想定済みよ」

「こ、この状況って、想定できるのかな?」


 ユウの呟きはこの場の誰にも響かず、ただ空気に溶けて消える、
 まあ、だいぶ前に使ったことのある魔導だから、想定できないわけじゃないけどな。


「まあ、俺たちがやることは変わらないさ。行くぞ、ユウ!」

「……師匠、何もしてないよね」

「と、とにかく、さっさとやるぞ──“完全再現:万雪積もる豹の狩場”」


 雪が吹き荒れ、大量の雪豹たちが出現。
 そのすべてが宙を蹴り、縦横無尽に駆け回りながらアルカを襲う。


「ハッ、その程度──『消えない朧火』!」

「ユウ!」

「はいはい──“光化フォトン”!」


 ユウの固有魔法たる陽光魔法。
 その一つ、物理干渉を無効化するうえ速度まで上げられる“光化”を使わせる。

 同時に雪豹の動きを統率し、一気にアルカの放った炎の下へ。
 何をするのかと訝しむ彼女だが、その目論見はすぐに分かる。


「──“完全再現:炎纏氷塊コールドフレア”」


 炎を吐き出すように冷気を放ち、狙った場所に氷塊を生成するこの魔法。
 今回命中させたのはアルカ……ではなく、溶けていく雪豹たち。

 この魔法は火属性を帯びている性質上、氷の中に炎を閉じ込めることもできる。
 つまりだ、アルカの攻撃を俺の攻撃として転用することが可能なのだ。

 おまけにギーを介しているため、神気の性質も籠めることができる。
 雪豹は溶けた水から再び氷となり、アルカの炎を呑み込み本人を襲う。


「この程度、どうとでも──」

「──“氷断ちアイスカット”!」

「ついでに俺も──“完全再現:選魔を払う大いなる風”」

「っ……!」


 アルカ唯一の弱点があるとすれば、行動のほぼすべてが魔法であること。
 今回使った魔導“選魔を払う大いなる風”は、魔力に関する現象すべてを無効化する。

 氷を断ち、直接向かってきたユウにアルカが取ろうとしていた選択。
 その大半を奪い、剣と氷から溢れた炎の両方で王手チェックを掛ける。


「あぁああああ!」

「っ……アルカが、防御を!?」

「それくらいするわよ! 杖術スキルが無くとも、杖は使えるんだから!」


 ユウの斬撃を不壊の性質を持つ杖で防ぎ、炎は身力操作で耐熱性を高めて何とかしようとしている。

 追加で魔法は使えないが、すでに実行済みの魔法は発動可能だ。
 だからこそ、ユウには熱耐性を魔法で強化して付与してあったが……不味いな。


「……やるじゃない、正直危うかったわ」

「なあ、これってそんなデスマッチ形式でやることだっけ?」

「当然よ。たとえどんな状況でも、アンタを倒すのは止めないわ」

「そうか……なら俺も、止めるわけにはいかないか。ユウ──『レッツゴー』」
《常駐解除──“身体能力強化エンハンスドボディ極大マキシム”》


 正直、ここでアルカを倒すイメージでやっていたのだが、彼女はもともと施していた耐性系の魔法を、他の魔法の魔力を回してどうにか耐え抜いた。

 だからこそ、ここで終わらせなければならない。
 一番最初に仕込んでおいた『圧縮支援』、その最後の一つを発動させる鍵を唱えた。


「ごめん、アルカ──“轟雷鳴斬ライトニングブレイク”!」

「~~~~っ!」


 ここ一番の支援魔法のお陰で、神器を弾き飛ばしたうえでトドメの一撃を放つユウ。
 アルカはその攻撃によって、生命力が0になり……体を粒子と化すのだった。


「これで終わり……だったら、良かったんだけどな。アルカ、いつの間に」

「師匠のせいか、アルカもいろいろと凄いことになってるよね……」


 粒子となり、死に戻りするはずだったアルカが目の前に居る。
 まったくもう、鬼に金棒……いや、アルカに魔法だよな。



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