AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直後 その11



 眼を凝らし、ジッと視つめた。
 傍から見れば黒い全身鎧が気持ち悪くモジモジしているようにしか見えないが、俺だけはその中で恥ずかしがる彼女を捉えている。

 透視眼、測定眼を両目にセットして行うののは人力CTスキャン。
 彼女の身体情報を余すことなく把握し、情報として脳に刻み込んでいく。

 ……なお、プライバシーの観点から、それらの情報はすぐに俺の記憶から削除されたうえで、眷属が管理してくれる。


「もういいぞ、あとはアバターの設定をするだけだ」

《これだけでいいんですか?》

「脅すようなことを言ったけど、必要なのは体の内側……筋肉とか骨の方だしな。そもそも設定を変更して、肌の色とかいろんな部分は弄れるんだから、そこまで重要なデータでも無いんだよ」


 お察しの通り、ペルソナが選んだのは俺主導によるアバターの再構築。
 その第一段階として、現段階のペルソナのパーソナルデータを測らせてもらった。

 ある意味倫理コードに引っかかりそうではあるが、なんとかクリア。
 さっそく次の作業に移るのだが……その前にやることが一つ。


「先に言っておくぞ、ペルソナ。これから俺の対応が物凄く塩対応になる。まあ、機械相手に話しているとでも考えてくれ」

《えっと……どうしてでしょうか?》

「仮表示をするにも、一度全部に目を通さないとダメだからだ。だからここから作業が終わるまで、スキルで心を封印する……まっ、俺がやりたいからやるだけだ」

《分かりました。配慮していただいて、ありがとうございます》

「いいって。じゃあ、やるからな。反応が機械なだけで、記憶はあるから気を付けろよ」


 そう伝えて、俺は{感情}を起動する。
 意図的に俺の情欲などがいっさい湧かないよう回路を切断し、興味すら抱かないように処理を済ませていく。

 やがて俯いていた顔を上げると、ペルソナが俺を見てビクッとしたのを目にする。
 罪悪感……は湧かない、今の俺にはそういう想いも存在しないからだ。


「──情報を開示する。口頭で指示するか、そちらに送った画面を操作しろ。その変化を随時反映し、アバターを構築する」

《えっ、あの……》

「質問か? 外部とはすでに遮断済み、分からないことがあれば何でも言え」

《……いえ、何でもありません》


 この後ペルソナは何も言わず、目の前に表示された画面と自分の全身情報を見ながら再設定を行っていく。

 髪の色や瞳の色を変更し、とりあえず見てすぐに身バレすることは無くなった。
 あとはそれ以外の身体情報の設定変更なのだが……彼女の手が止まる。


《あの、これでもう大丈夫です》

「了解した。では、アバターを再構築したうえで、魂魄の移植を始める。この縁に寝そべり待機するように」

《分かりました》


 理由にもいっさいの興味も湧かないので、サクサク次の作業を始めていく。
 ペルソナの設定した髪色と瞳の色で、アバターを再構築──{多重存在}を起動する。


 このスキルの本質は、擬似的な魂と魄を生み出すというもの。
 もともと祈念者は、自身の魂と運営神が用意した擬似魄を組み合わせて存在している。

 ならばそれを人為的に行えば、同様に祈念者を生み出せるのではないだろうか。
 そしてその仮説は、今実際に行うことで証明される。

 噴水の縁に寝そべるペルソナ、彼女と対称させるように生み出す新しいアバター。
 真っ新な状態なので全裸なのだが、これは祈念者じゃないから……移植すれば現れる。


「【強欲】起動──“奪魂掌ソウルテイカー”。【謙譲】起動──“万象献譲プレゼント・フォー・ユー”、“権利移譲ライトディボルブ”」


 ペルソナのアバターから魂を引き抜き、新しく構築したアバターに移植した。
 同時に祈念者としての権限を、一部を除きそっくりそのまま移し替えていく。

 もともと彼女の情報を基にして生みだしたアバターなので、そこに拒否反応は無い。
 しばらく定着のために時間を使い……やがて、ゆっくりと目が開かれる。


「……ぁっ」

「起きたか、ペルソナ。体に違和感は?」

「……。……? ……!」

「完全に馴染むまでスキルは使えないはず。それまでは待機していろ」


 念話は眷属印由来の能力だが、それもまた今は使えなくなっているのだろう。
 いちおう鑑定眼で今の状態を確認すると、移植に伴う弱体化がデバフに載っていた。


「……ぁ、ぁぁ……」

「そうか、スキルが使えないとなれば困ることも有ったな。やはり、このままだと失念することが多い──ローブを纏っておけ」

「? ……。……! ~~~!?」


 目に見えて分かる彼女の反応。
 キョトンとした後、首から下の祈念者保護サービスの下着を見て、自分がほぼ裸だと気づいての紅潮。

 そういった羞恥心とも無縁な今の俺だと、論理的にそこへ行きつくまでのラグが長い。
 ようやくそのことに気づいた俺は、再び海路を繋ぎ合わせて──想いを取り戻す。


「ッ……ぐっ。揺り戻しが酷いな。ペルソナさんや、さっきまで悪かったな。このお詫びは……とりあえずこれでどうだ?」

「……?」

「サイズ自動調整機能付きの女性服~。眷属に服作りを頼まれてやった分の余りだけど、それでよければな……素顔のままでも、充分に可愛いんだし」

「~~!」


 服を差し出した彼女は、しばらく悩んだ後にそれを受け取る。
 そして、回復した[メニュー]システム経由でそれらを身に纏うのだった。



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