AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直後 その08



 眷属たちは挙って、俺の介護をすると名乗り出た……がしかし、それは先の話。
 今はまだやるべきことがある、そう誤魔化して各方面に顔見せを行っていく。


「──とまあ、こんな感じです。それぞれの場所はどうなりましたか?」

『こちらは例の狐の少女が凄かったよ。彼女が居なかったら、何隻かはやられていたかもしれないね』
『こっちは特に何もねぇが、親分の眷属を名乗る奴も現れなかったな』
「こちらもだ。どうなっている?」


 魔道具越しに語る、三つの街の裏の顔。
 一人は正直に感想を言っているが、残りの二人は少々もやもやした気分のようで……こればかりは仕方がない。


「参加はしていましたのでご安心を。サルワスの方だけは、祈念者の数が少なかったために仕方なくですが、ほとんどの場所では顔を見せずに処理を行わせていました。まあ、御神への対策だと思ってくれれば」


 厳命し、本当にピンチにならない限りは自由民の安全優先だと伝えていたのだ。
 だからだろう、祈念者が大活躍した始まりの街や帝国では姿を出してない。

 大まかに、俺が邪縛をされるぐらいに警戒されていることは伝えてある。
 だからこそ、表舞台で派手にやらかすことは難しいことも。 


『それなら、彼女が活躍したのも不味かったのかな?』

「いいや、祈念者の数が少なければその分監視の目も少ないので。だからこそ、派手に魔法を使っても大して気にされていません。対策をいくつか講じてあります」

『それができねぇから、こっちだとコソコソしてたのか?』

「まあ、そんな感じです。ボスの方も、そういうことで納得いただけましたか?」


 映像越しにコクリと頷く姿を確認し、とりあえず一安心する。
 彼らからの信用と信頼を勝ち得るのは、今後のためにも重要なことだしな。

 自由民の安全を、俺たち祈念者はずっと守れるわけではない。
 共に生きる彼らだからこそ、[クエスト]以上に困っている人々に手を差し出せる。


「──ふぅ、これでまず一件っと。よし、次に行こう」

「もう少し休んでもいいのでは?」


 魔道具での会議中、離れた場所で俺を観ていたアイがそう言ってくれた。
 だが、俺は首を横に振り、魔力を固めて作り上げた義手を動かす。


「眷属たちが頑張ってくれたんだし、最後の仕事だよ。どれだけ頑張ってくれたのか、それを彼らの視点から理解することも重要なことだろう」

「ですが……」

「俺のこれは自業自得だし、それ自体が連絡しないことには繋がらない。むしろ、こういうことは速い方がいいだろう?」


 まだまだ繫ぐべき相手はたくさんいる。
 それだけ眷属たちも、各地でキメラ種相手に奮闘してくれていた。

 その事実があるだけで、俺はまだまだ働けそうである。
 なんてことを思いながら、再び映像越しに会話を行うのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


 それからの俺は、まだまだ残る眷属派遣先との連絡を済ませていく。
 某国のギルド長や貴族、果ては隠れ里の長などその先はさまざま。

 被害状況などを聞いたうえで、死蔵していた大量のポーションを提供。
 眷属が中継して届けて、その地での好感度的なものを稼いでもらう予定です。

 なんてことをしている間に、祈念者たちもまた何かを催していた様子。
 決戦の地『昏き冷窟』から帰還した彼らを迎え入れたのは、祭りのような賑やかさだ。


「──という話をナックルから聞いたしな。今回は全員、楽しんできなさいな」

《…………》

「いやいやほら、お祭りだぞ? なぜに介護優先なんですん!?」


 俺もまた、祭りを楽しむべくやって来たのだが……眷属たちが離してくれない。
 正確には俺しか居ないのだが、両腕に掛けられた特殊な拘束が解除されないのだ。

 呪福のスペシャリストたるリーによるオリジナルの邪縛で、彼女たちが許可した動きしか取ることができないという拘束具。

 自然に振る舞うこともできず、眷属を頼らなければいけないという……なんというか、ほんのりヤンデレ感のする代物。


《どう、メルス。このあたしが考えた、やんでれぱわー全開の拘束は!》

「厳しすぎなくて安心している部分もあるんだが、同時にこりゃ手厳しいと思う部分もあるな。なんというか、恥ずかしいんだが?」

《もう、そんなの我慢だよ我慢。あたしたちのやんでれぱわーを舐めちゃいけません》

「……ヤンが言うんなら、仕方ないな」


 うちの眷属のヤンデレ担当、【嫉妬】の魔武具ヤンが言うのだから間違いなかろう。
 彼女が仲介してくれなければ、もっと悲惨なことになっていたかもしれない。


「それじゃあ、確認な。俺は基本的にこの場から動かないで、誰かの視覚を拝借していっしょに楽しむ感じで行くと。で、何か欲しい物があったらそのタイミングで交渉、買ってきてもらって直接受け取ると」

《なんか、解析班がそんな感じに纏めていたけど……大丈夫?》

「裏がありそうだが、まあいいと思う。どうしてもダメなことなら、俺だってノーと言える系の日本人でありたい。それじゃあ、各自行動を始めてくれ」

《ラジャー!》


 ヤンを筆頭に行動を開始する眷属たち。
 俺は副思考を眷属たちに飛ばし、それぞれの視覚から各地を眺めていく。

 ……見ていない、俺は何も見ていない。
 だから止めてくれよ、絶対に俺の居場所を言わないでくれよ!



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