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山田 武

偽善者と大規模レイド直後 その07



 しばらくして、会話を終えた二人(?)は俺の作業に気づく。
 なんせバレないように宙の上、なのに雲を絨毯代わりに生産中だ。


『何をしている?』

「いろいろとな──よし、これで完成だ。二人とも、これを持っておけ」

『これは……魔道具ですか?』

「手で首でも、腹の中でもいいけど。魔力を籠めれば、同じ魔道具の持ち主に連絡が届けられる。普通のヤツと違うのは、次元属性で作ったから宇宙……じゃなくて星海まで連絡が届けられる点だ」

『……『超越種』同士の繋がりを、とでも言いたいのか?』


 まさに『万蝕フルライラ』の言った通り。
 気づけば存在に知覚できると言っても、連絡手段も無いため直接会わなければ会話をすることもできない……だからこそのこれだ。

 アイから話をしたいと言っても、できないからな。
 俺も聞きたいことがあったとき、アイを介して聞けた方が便利だと思った。

 だが、それ以上に──


「アイから聞いたとは思うが、運営神共が創り上げた新しい『超越種』……今は俺の妹でニィナって子が居る。あの子の力になってくれるヤツが、一人でも多い方がいい」


 アイにさまざまなことを学んでいる最中だが、まだまだ修行の途中だ。
 特に、『超越種』であれば誰でも使えるという“祝捧福音”を二ィナは使えない。

 他にも“環境変遷”など、『超越種』特有の能力に関して、アイだけでは分からないこともある……そんなとき、相談できる相手が多い方がいいだろう。


『……『覚成』か。直接顔を合わせたことは無いが、『還魂』が言うのであれば間違いないだろう。いいだろう、受け取ってやろう』

「ふふっ、素直じゃありませんね。喜ぶのであれば、別に尻尾を消さずとも良いではありませんか」

『……ふんっ!』


 俺から受け取った宝珠型の魔道具を、そのまま呑み込んだ『万蝕』。
 おそらく解析し、必要な機構だけ取りだそうとでもしたのだろう。


『……何故だ、何故解析できない』

「メルス君は生産神様の加護をお持ちです」

『むぅ、その域に達しているのか。だが、どうしてそこまでして技術を秘匿する』

「いや、隠さないと傍受されたり詐欺の連絡が行ったりするかもしれないだろう? そういうのの防止策、複製することも無いんだから、そのまま腹の中に入れておいてくれ」


 自己責任というヤツだ。
 便利に利用されるのも癪だったし、極限まで隠蔽と偽装を施したのは確かに俺である。

 とはいえ、言ったからと本当に食べられるなんて……しかも解析するためだし。
 取りだすことは可能だが、反芻でもしない限りはアレだし……してもアウトだろう。


「アイ、連絡は今後も取れるってことで。今回はお開きでもいいか? リオンから、連絡も入ったし」

「はい、お聞きしています。では『万蝕』、また次の機会に」

『……そんな言葉を聞くことになるとはな。メルス、貴様の賭けの要求は本当にアレで良いのか?』

「ああ。今回の制約でしばらく休息も必要だからな。またいつか、会ったときに」

『了解した。『還魂』、そしてメルスよ。そう遠くない内に顔を合わせることになるやもしれんな』


 そう告げると、『万蝕』は宙を蹴り再びどこかへと去っていくのだった。
 残されたのは俺とアイ……もう、隠す必要も無いだろう。


「お疲れ様です、メルス君。どうぞゆっくりとお休みください」

「……分かっちゃうか? まあ、そうなるかな──魔導解除っと」


 世界を欺いていた霧を消し去ると、俺は力が緩み真っ逆さまに落ちていく。
 最後の力を振り絞り、姿を抱えやすい状態に変えて──気を失う。


「頑張りましたね、メルス君」


 最後にその言葉を聞いた後、意識がプツンと途切れるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 アイが回復魔法を施してくれたようで、意識は早々に復帰した。
 洞窟にはまだ調査好きな祈念者が居り、そのまま降りるわけにもいかない。

 なのでアイがチョイスしたのは、やはり安全な場所──すなわち第一世界の聖堂。 
 アイによってリオンと同レベルの結界が張られ、監視の目が届かない凄い所でもある。


「…………運んでくれてありがとうな」

「いえ、それが同じ『超越種』として、当然の役得です」

「役得って……まあいいや。それで──どうにかなりそうか?」


 回復してもらったにも拘らず、俺の腕は未だに失われたまま。
 現実世界ならば当然のことだが、ことこの世界の優れた治癒師からすれば異常な事態。


「時間経過でなんとかなるとは思います。ですが、宣言された誓約によってその効果が持続する間は……おそらく、回復は見込めないでしょう」

「うーん、フーの籠手を着けていれば擬似的に腕はどうにかなるし、そうでなくとも魔力で義手は用意できるしな。あと、そういうアイテムもあるし。まあ、短期間ならいい思い出として納得できるか」

「果たしてそうでしょうか?」


 暇潰しにさまざまな事態を想定してきた俺なので、取れ得る手段も多い。
 だからこその発言だったのだが……アイの声はとても深刻そうだった。


「いや、俺的には全然納得して──」

「メルス君が、ではなく私たちがですよ。普段は完全無欠なメルス君。ですが今は、そうではありません。つまり、欠けています」

「うん、物理的にな」

「そうなれば、それを補う必要があります。ええ、私も他の眷属の方々より学びました。ついでに言うと、死者の都の皆さんからも手練手管を学んでいます」


 ……英霊さんたち、何をしているんです。
 たしかに、[世界書館]に記録した彼らの職業の中には、そういったお仕事に特化したモノも載っていた。

 まあつまり、俺は要介護認定を眷属たちにされてしまったようで。
 なんだか嫌な予感もする……俺、腕を治すまでにどこまで甘やかされるんだろうか。



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