AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド後篇 その12
しばらくして、借りてきた猫のように大人しくなったリュシルをマシューが連れて戻ってきた……ただし、その首根っこを掴むというスタイルでだが。
リュシルもリュシルで、何の抵抗もなく両手で顔を隠している。
これはなんというか……うん、触れないでおくのが吉と見た。
「えっとマシュー、リュシルお姉ちゃんは大丈夫なの?」
「創造者、よろしければ開発者にこれ以上の負荷を掛けないでいただけますでしょうか」
「負荷……まあ、眷属に迷惑を掛けてまでやることじゃないしね──とりあえず、これで良しとしてくれ」
変身魔法をレンタルして、その姿を平時のモノへ戻す。
なお、変身魔法を重ねてはおらず、ショタの姿は{多重存在}で作ったものだ。
そんな状態からメルスの姿をイメージし、肉体に反映させる。
スキルなども普段の万能染みたラインナップではなく、モブのモノ……本来の姿だな。
「ナルシストでもないし、記憶系のスキルも足りてないから完全じゃないと思うが……これでどうだ?」
「「…………」」
「ど、どうしたんだ? そんな間違い探しをやっている時みたいな顔をして」
「たしかにメルスさん、なんですが……何かが足りないような気がします」
「いえ、足りてないというよりは、程よく満たされているのでは?」
何やら二人でこそこそ内緒話を始めたのだが、最終的には首を傾げたまま諦めていた。
俺の見た目に何かしらの問題があったのかもしれないが……自分じゃ分からないしな。
違和感に関しては、彼女たちになんとか慣れてもらうことに。
今はこれからのことについて、話しておかなければならない。
「まず確認だが……召喚されたのはリュシルで合ってるか?」
「はい。召喚されたとき、目の前には気絶したメルスさん……じゃなくてノゾム君が居ましたのでぞっとしました。絶対の安全も保障できませんでしたので、少々ズルいですが、マシューを呼びました」
「そこら辺は別に。そりゃあ多すぎると、キメラ種たちが祈念者そっちのけでこっちに来ちゃうからな。そりゃあソウとかだったら、強制的に送還していたけど」
「さ、さすがにそれは……」
眷属共通の理解として、ソウはむやみやたらに野へ放ってはいけないということになっている。
カテゴリー的には、『超越種』であるアイやニィナも本来は同じはずだが……当然というか、彼女たちには常識が備わっているのでそれを懸念する心配はない。
だが奴の場合、調きょ……教育してもなおさして変わっていない。
まるでやらかした後に、罰を受けるまでがワンセットとでも言いたげにやらかす。
そんなわけで、眷属同士でもどうしても必要じゃないとき以外はソウは呼ばれない。
というか、俺が全員に出番をと考えたとき以外、出番など回ってこないのだ。
「マシューの場合、リュシルの[傀児の書]にリストインしているしな。そういう意味でも、アリだと俺は思うぞ」
「創造者、アレと比べられるのは心外です」
「まあそうだな。アレはさすがにアレか」
「ええ、アレです」
どこかで聞いていれば、きっと悦んでくれたことだろう。
……リュシルだけは参加しなかったが、彼女なりの良心が働いたからか。
「こほんっ、もうよろしいですか? 今、私たちにはすべきことがあります。それはいったいなんでしょうか?」
「……リュシル可愛い?」
「開発者、今こそ二人っきりです」
「! …………いえ、からかっているだけですね。ふっふっふ、私だってただ赤面しているだけじゃありません。こんなこともあろうかと、予め精神安定用の魔法を準備しておきました!」
「「な、なんだって!?」」
そ、そんな、リュシルのアイデンティティはイイ反応だったのに……。
同じことを考えたのか、マシューと目が合うと同じように落胆している。
まあ、魔法にもそういうのはあるし、スキルにだって{感情}ほどではないが抑え込むものは存在していた。
リュシルの場合、[神代魔法]の<常駐魔法>も使えるので、あの逃げた先で仕込んでおいたのだろう。
「そんなに残念そうな顔をしてもダメです」
「「はーい」」
「答えてくれなさそうなので、話を進めますよ。これから私たちは、まず例のキメラ種が隠しているであろうバックアップデータの保持者を探します」
「バックアップ……なるほど、そりゃああってもおかしくはないか!」
母体がメインサーバーだとすれば、破壊されたときのことも考慮するはず。
そもそもキメラ種は人の作った産物、都合の良い性質が備わっていてもおかしくない。
特に今回、『万蝕』の劣化版とはいえ複製に成功したのだ。
そんな個体の情報を、一回ポッキリにするようなことはしないはず。
人の欲望は尽きない、だからこそ何度でも挑戦する……そう、思っていたことだろう。
結果として、クエストの流れで死んだはずだが、その欲は死んでもこの地に残る。
「というわけで、私たちはまずあのキメラ種の資料を探します。何か分かることがあるかもしれません。何か質問は?」
「はいっ、場所に心当たりは?」
「隠し部屋があるはずです。それも、簡単な手段では見つけられないような。……少なくとも私は、そうしていましたので」
「蛇の道は蛇、よく言ったものだな……まあアレは運営神が悪いのであって、リュシルは悪くないぞ。そうだな、誰にだって隠したいものはある。うん、リュシルだってな」
温かい目を彼女に送り、そっと慰めた。
チラリとアイコンタクトをすれば、同じようにマシューも頷いている。
そう、誰にだって隠したい物はあるのだ。
……そしてそれを暴くのが、家族と言うものではないか?
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