AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド後篇 その04
S4E12 ザリファ海辺
結論から言えば、一日と掛からず海を渡り終えた。
海流など、いろんな要因はあったのだろうが──やはり、エクラの存在がデカい。
はっきり言ってしまえば、彼女は不幸だ。
さまざまなトラブルが彼女を襲い、それに巻き込まれた……だがそれでも、確実に状況は改善されていった。
同じ『選ばれし者』のオー嬢ちゃんは、普通に運が良かったのだが、彼女の場合はそこに不幸を前提としているのだろう。
正確には、『禍を転じて福と為す』を地で行くような運命を背負っている。
ピンチをチャンスに、なんとも主人公みたいな難儀な生き方を強要されているようだ。
「──お姉ちゃん、大丈夫?」
「うぅ……しばらく舟は見たくないよぉ」
陸へ上がったのは俺だけ。
エクラは疲労感からか、まだ砂浜に置いた舟の中でぐったりとしている。
本当はゆっくり休ませてやりたいが、状況はそんな優しさも許してはくれない。
申し訳程度の休憩を終わらせるため、彼女が動きそうな台詞を告げる。
「お姉ちゃん、舟はもういいんだよ。それよりほら、お姉ちゃんを必要としている場所があるんだよ!」
「! そうだったね、すぐに行かないと……きゃっ!?」
舟の中で蹲っていたエクラだが、今やるべきことを再認するとすぐに立ち上がった。
だが不安定な舟の上、そんな動作をすればどうなるかはお察しの通り。
「──“波乗”」
「えっ……ひゃっ!」
「おっと。お姉ちゃん、大丈夫?」
「の、ノゾム君……」
このままだと海に落ちそうだったので、波で舟を操り倒れる方向を変更。
身体強化を体内循環によって即席で行い、倒れ込むエクラをそっと抱える。
妙に押し倒れそうな勢いだったが、そこは『土堅』で頑張って耐えた……男だもん。
というわけで、倒れ込む姿勢のまま硬直してしまった彼女をゆっくり起き上がらせる。
「仕方ないかな……」
「…………」
「そのままでいいから、しっかり掴まっててね──『擬短転移』」
「っ……ひゃぁああああ!」
このままだといつまで経ってもキメラ種の下へ向かえない、そう判断した俺は魔術による強行を図る。
視界内の座標へ一直線に飛べる魔術を用いて、向かう先は遥か上空。
そしてそのままさらに上へ飛び、より視界に辺り一帯を捉えやすくする。
「エクラお姉ちゃん、どこに行きたい!?」
「ど、どこにって──」
「これはお姉ちゃんが決めるべきだよ! 他の誰でもない、救いたいと願うお姉ちゃん自身の決断で!」
いずれにせよ、彼女自身の道は波乱万丈だが相応の成果が約束されているのだろう。
その利益の一部を、力の代償としてふんだくるのが運営神のやっていることだ。
こういうときぐらい、役立ってもらってもいいだろう。
彼女の直感は、おそらく選ぶべき正しい道筋を知っているのだから。
「──あっちに連れてって!」
「……了解。ここから先は、僕のお仕事。お姉ちゃんを絶対に連れていくから」
彼女が指し示したのは帝国だ。
当然と言えば当然、上空までキメラ種が大量に蔓延っているのだから。
祈念者の集まっている数が尋常では無いので、集まる数もまた相応に比例している。
だが、あそこには『英雄』も居るため、さらに難易度が上がっていた。
余計にピンチに見えるからこそ、そこへ向かおうと思えてしまう。
ついでに言うと、運営神としても多くの人に活躍を見せたいと考えているのかもな。
俺も覚悟を決め、魔術デバイスを両手に装着しておく。
ディーが呼べない以上、『試役の腕輪』を付けておく必要は無い。
「二重起動──『異空ノ扉』」
二つの座標を繋げ合わせる魔術版の転移。
今は長距離転移がほとんど使えない状態だが、俺の視界に収まっている範囲であればそれを可能にする。
片方の座標は現地点、そしてもう片方の座標を──帝国上空にセット。
ごっそり持っていかれる魔力に不快感を覚えながら、互いの扉を繋げて転移を行う。
「これって……」
「お姉ちゃん、すぐに戦えるようにして」
「! うん──“光迅剣”、“光迅翼”!」
剣に纏われる光の粒子、そしてそれは彼女の背中でも翼を形作っている。
準備はできた、俺は双方の扉を開いて一時的な転移門を生み出す。
「さぁ、行って! 僕のことはいいから、エクラお姉ちゃんにできることを!」
「ありがとうノゾム君、あとでお礼はちゃんとするから!」
「いいよ、気にしないで!」
彼女が扉を通った後、魔術を解除する。
そうしないと、行ってしまうからな──感知して邪魔をしに来たキメラ種たちが。
「いやー、予想外。まさかこんな形でまたソロになるなんてな……予想外には、予想外をぶつければいいか──全スキルを封印、だから代わりに誰か来て!」
同じことはさせまいと、一気に攻め立ててくるキメラ種。
だが遅い、すでにすべてのスキルをポイントに変換し終えた後──眷属を呼んだ後だ。
比較的お安めではあったが、それでも全員強者なので指名権は使えなかった。
ランダムでの召喚を選んだが……果たして誰が来るのやら。
「──とうっ! わたしが来たからには、もう大丈夫だからね!」
「えっ、えぇぇええええええっ!?」
なんだろう、このガチャでピックアップしてないはずなのに引いた大当たりみたいな展開は……呼ばれないと思っていたのに。
そんな頼もしい……否、頼もし過ぎる眷属がこの場に降臨してしまった。
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