AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド中篇 その17



 S4E10 ヴァナキシュ帝国


 港から森を抜け、帝国までやって来た。
 しかし長居をするつもりは最初からなく、先ほど錬金毒に関する情報を『一家』へ回してきたところだ。

 彼らの構成員の中にも、錬金術を使う者が居るので、何かしらの毒は作れるだろう。
 弱点の情報は[掲示板]でとっくに出回っているので、欲しがるものいるはずだ。

 そういう人たちが誠意を見せれば、それに応えてくれるのが『一家』の特徴。
 もちろん、悪意を持っているならば、またそれに準じた対応になるだろうけど。


「そういうことだからね、ディー。ここではあんまりやることがないんだよ」

『♪』

「とりあえず、どんな凄い人が居るのかだけ見て別の場所に行く予定だよ」


 スキルで調べるわけでは無いので、精度は低いがいちおう試してみる。
 身力探知を薄く伸ばして、強者の風格的なものを調べていく。

 すでに六人の『選ばれし者』を知っているので、それそのものか似た波長を探せば見つけられる……集中力は要るが、誰にも邪魔されないでやり終えた。


「風の人が居るみたいだね。うん、他は準級というか候補者? けど、ちゃんと戦える人がたくさんいる……ここは大丈夫そうだね」

『♪』

「うん、創作物だとテンプレだけど、別に主人公一人でなんとかしなくてもいいんだよ。ああやって、力を合わせて守ることだってできないわけじゃない。特にあの『英雄』は、そういうことが上手いからね」


 最悪、ピンチになれば文字通り追い風を吹かせることだってできるはずだ。
 それをするかどうかは……あくまでも、彼次第ではあるがな。


『♪』

「そうだね……転移で行くのはなんとなく嫌だから、もう一回ディーに乗らせてもらおうかな?」

『♪』

「ははっ、ありがとうねディー。長居は無用だよ、さっそく行こうか!」


 目的地は適当に棒を用意して、倒れた方向へ向かうことで決める。
 ポイっと棒を投げると、その向きは……東の方角だった。


「あそこはキメラ種が来ないかなって思っていたけど……どうなんだろう?」

《一ヶ所だけ、現れているようです。どうやらそこに、祈念者が居るものかと》

「ますたーたちじゃないのは分かるし……辿り着いた人がいたんだ」


 鎖国国家なAFO版の日本──井島。
 迷宮が各列島を繋ぎ、まさに『井の島』となっている場所……そこへ向かうための海路も割と厳しいものだ。

 だというのに、祈念者がもう辿り着いていることに驚きを覚える。
 やはり、可能性を秘めた存在……あの殿様もうかうかはしていられないな。


「じゃあ、そこに行ってみようか!」

『ピー♪』

「おー、もう変化してくれたんだね。頭がいいな、ディーは」

『ピーッ♪』


 小鳥になったディーの頭を撫でて、外へ向かおうと移動を開始。
 慌ただしくキメラ種との再戦のため、神殿からダッシュで駆けだす祈念者を多く見る。

 その中には、懸念した通りだんだん蝕まれている者も。
 なので俺は、こういうときのために解放しているスキルを使用。


「──“精神安定トランクライズ”、“真理誘導トゥルーライン”」


 毎度おなじみの精神魔法スキル。
 一度クラーレに使っているので、それなりに上手く調整可能だ。

 完全に封じるとバレるし、今は侵蝕の影響だけ抑え込んでいる。
 だがその分、駆られていた欲が失われるのでそこは都市の防衛をするよう心に刻む。

 まあ、傍から見てもおかしかった奴が、急に愛国精神に目覚めるだけのこと。
 前に比べればマシだということで、その事実は大して問題にはならなかった。


「うん、これでよしっと。それじゃあ、僕たちも行こう」

『♪』


 外へ向かう人の波に意図して呑まれ、無事に都市から脱出。
 可能な限り隠蔽工作をした後、大きくなったディーに乗って移動を開始するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 S5E10 アニワス戦場跡 死者の都


 ここにキメラ種はほぼ来ない。
 少なくとも、生きたキメラ種が来る理由がここには無かったからだ。

 そんなわけで祈念者もここには居らず、普段とあまり変化は無い。
 ごく一部、アンデッドの性質を宿したキメラ種がここに来るぐらいだ。

 だがそんな個体は、戦場跡の最奥に存在する都の住民によって瞬時に消される。
 大半がある理由で成仏したとはいえ、残された戦力もまた英雄級の実力の持ち主だ。


《アイ、少しいいか?》

「……はい。いずれここに訪れることは、分かっておりましたので」


 そんな最奥の都市、その中でも一番奥地に存在する教会。
 おどろおどろしくも神々しい、そんな雰囲気のする聖堂で祈りを捧げていた女性。

 俺は彼女へと念話を繋ぎ、あることを確かめる。
 それを聞かれることは、彼女自身察していたのだろう……会話はスムーズに終わった。


《やっぱり、間違いないんだな。アレは……『万蝕』の模造品ってことで》

「劣化も劣化、本体とは比べる必要性を感じないほどに似ても似つかないですが……それでも、間違いなくあの権能の残滓は『万蝕』のものでしょう」

《アイは『還魂』として、何かするつもりはあるか?》

「いいえ。私が担うのはあくまでも魂、自身の担当する事柄以外で『超越種』が動くことはめったにありません……ですが、今回の問題には間違いなく動くでしょう」


 誰が、という主語が抜けていても言葉は通じる。
 そう、そりゃあ勝手に使われれば怒りもするはずだ──本物が、牙を剥くために。



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