AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド中篇 その12
錬金毒の情報を売り、この要塞跡地でもある程度戦えるようにした後。
俺とディーは準備をしてから、要塞から東へ向かっていた。
キメラ種はクエストの仕様か、特定の場所では一定の方向からしか侵攻してこない。
ここの場合、ちょうど要塞としての機能がもっとも働く東側からだ。
そのため、祈念者たちも要塞で英気を養ってからこちらへ向かう。
死に戻り地点にも設定できるので、大したロスもしなくて済む。
「さーて、ディーは好きにしていいよ。ただし、僕の従魔だって偽装は忘れないでね」
『♪』
野良の魔物と間違えられないように、従魔には何かしらの証を付ける必要がある。
ディーの場合、それは魔力で光るエンブレム(クランのヤツ)を体内に仕込んだ。
まあ、狙われても返り討ちにする程度には強いので、さして心配はしていない。
ついでにクランも今では有名だし、来るなら来るで合法的にしょっ引けるだろう。
ディーが姿を鳥に変えて戦地へ向かったことを確認して、俺は目の前の画面に眺める。
縛りの変更で得たそれは、代償を引き換えに一時的な力を得られるシステム。
「ペルソナにあげた誓約剣と同じシステムだよね。うん、ちょっと私情が混じった交換システムみたいだけど」
ルールは簡単、一定時間選んだスキルが使えなくなる代わりに、封印したスキルの価値に合わせたポイントが得られる。
あとはそれを使って、眷属たちが暇潰しに創ったシステムから欲しい物を選ぶ。
……眷属の召喚は異様にポイントが安いのだが、ある意味地雷なので選びません。
「となると、一時的な新スキルの獲得か武器の使用ぐらいだね。神器は……うん、全部のスキルを封印しても無理か。なんだろう、ここにも私情がある気がする」
メイド・イン・俺な武器の中でも、神器は特にお高めな設定になっていた。
うん、自分たちよりも武器ばっかりに頼るなとでも言いたいのだろう。
ディーだって、普段使いするために召喚媒介を持っていなかったら、同じ扱いになっていたかもしれないな。
「固有スキルは……うげぇ、これもか。魔本も無理そうだし、全然等価交換じゃない辺りが現実っぷりを見せてくれるなぁ」
参考に挙げるなら、基礎のスキルである剣術を借りるため、システムでは武術系のスキルを三つほど捧げろと提示していた。
固有スキルなんて借りようものなら、一番大量に持っている身体スキルの全部を捧げなければならない。
また、魔本は魔本で価値によってまちまちではあるが、三種類の中で一番お安めな学習型の魔本(使えば一時的にスキル付与)でも身体スキルの三分の一は無くなる計算だ。
「となると、便利な魔道具をいくつか拝借するぐらいかなー? 武術だけ、魔法だけとかの縛りを自分でやれば、なんとかできそう」
そんなわけで、まずは三十分ほど武術スキルを封印してポイントをゲット。
そのポイントで固有銘が無い魔道具を選んで、[アイテムボックス]に送ってもらう。
「『妖精の透翅』、『感起の仮面』、『守護のペンダント』っと……戦いは魔法でどうにかすればいいよね」
空を飛べる羽、浮かべる表情を変えられる仮面、障壁を展開できる装身具。
それらを装備すると、すぐに翅へ魔力を注いで起動する。
妖精の因子を組み込み、装備者の意思に応じて飛べるようにしてくれる魔法の翅。
魔力を籠めたことで翅は妖精因子を発起、ふわりと体を軽くして空へ飛ばしてくれる。
あとは行きたい方向を意識して肩甲骨を動かせば、移動も自由に可能だ。
そのまま向かう先はキメラ種の頭上、感知されているだろうが、それでも始める。
「──“追風”+“土槍”!」
風魔法で速度を上げた土の槍。
それらを複数本射出する……が、低スペックな俺の魔法ではあっさりと弾かれる。
さすがにソウやシュリュのように、理不尽な低位の魔法を完全に無効化するとかそういう仕様では無いだろう。
単純に、魔法抵抗が高くなって通じていないだけのはず。
だがそうなると、俺の使える魔法で通すことのできるものが限られてしまう。
「──“木槍”+“電磁砲”」
どちらも中位に位置する魔法、システム的には攻撃は通るはず。
触媒に種を使い、成長させた植物を槍状にして電磁加速で射出。
耐火性の高い植物なので、炭化し切る前にキメラ種へと命中。
結果、キメラ種にダメージは入った。
苦悶の声を上げる中、触媒にした種が血肉から栄養を吸い上げて発芽。
生命力をじわじわと削り取られ、そのまま息絶える。
餌だと思い、近づく他のキメラ種──そこに一匹の鳥が現れて羽を降り注いでいく。
「毒付きの羽をね。うん、よくやってくれたよディー」
『ピー♪』
俺の近くを楽し気に飛ぶ鳥こそ、先ほど形状を変化させていたディー。
なお、大きさは現実にでもいるスズメほどのサイズ……狙いづらいだろうな。
「よし、それじゃあ僕が狙った相手は好きなだけ攻撃していいよ。他のキメラ種は、誰かが攻撃していたらできるだけダメ。危ないなら助けてあげて」
『ピー♪』
返事をして飛んでいったディー。
その方向には、さっそくピンチになった祈念者の姿が。
本当に賢い。
俺も負けないように、キメラ種たちを屠っていかないとな。
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