AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド中篇 その11
狼で駆けるというのは、なんとも不思議な感覚だった。
騎乗スキルだけでなく、途中から本で習得法を理解して人狼一体スキルを獲得する。
人馬一体の狼バージョンだが、それだけではないのはお察しの通り……。
まあ、その辺は使うときに語るとして、今は現状を語ることにしよう。
「草原を抜けて街道へ出て、そのまま平地まで来たと。ディーが居なかったら、もっと時間が掛かっていただろうね」
『♪』
すでに狼状態から、普段のスライム状態になっているディー。
頭の上に載せているのだが、ディーの方で張り付いているため揺れは気にしていない。
ただし、その色は半透明な物では無く禍々しい──毒々しい色。
そしてディーから放たれる毒の空気が、周囲の存在を寄せ付けない。
普段なら魔物を警戒しなければならないのだが、今はキメラ種だけで充分。
そしてそのキメラ種も、錬金毒という弱点でどうにかできることが分かった。
「縛りプレイの設定を変えたのに、全然使ってないんだよね……まあでも、ディーが頼もしいってことだからいいよね」
『♪』
「錬金毒にも適合してくれたし、しばらくの間任せるよ」
『♪』
あのときは時間が無かったので一種類だけだったが、今は複数の毒を取り込んでいる。
それらを状況に応じて使うことで、キメラ種へ警戒を感じさせることもできた。
「──『死想虚毒』。誰も死なない毒だし、ちょうどいいよね」
『♪』
中途半端に生かしたい、傀儡を作るためにこれまた人が生みだした錬金毒。
これを混ぜた毒は、たとえどれだけ強力でも死なすことなく植物状態にできる。
また、どれだけ微力な毒に混ぜても、その効力を一定以上発揮可能。
これも毒耐性を突破できる、特殊な素材で生み出された錬金毒なのだ。
「このままどんどん行って、要塞まで行けばゴールだよ」
『♪』
「走るスキルもたくさんあるし。ディーは毒の放出に気を付けてね」
『♪』
西の方で学芸都市の近くにもある要塞跡だが、東のこちらにも一つ存在する。
近くに町が一つあるらしいが、そちらではなく地名である要塞の方へ向かう。
そこではキメラ種と戦うために、始まりの街よりも強い祈念者たちが集まっている。
なお、段階で言えば始まりの街、ここ、そして帝国で祈念者たちは集合しているぞ。
「始まりの街はボスが居るし、帝国の方にもオジキがいるからね。学院の方には祈念者眷属と魔王軍に潜伏中のエナとディオがいるから安心。ここだけなんだよねー、僕の知り合いがいない場所って」
弱くは無いが強くはない。
そんな連中が集まっている場所なので、任せっぱなしというわけにもいかなかった。
初期段階なら少し混ざった強者がなんとかしてくれただろうが、だんだんと強くなるキメラ種をいつまでも倒せるかと言われればまた微妙なところ。
そんなこんなで、俺とディーは要塞跡地へと潜入するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
とりあえず、召喚係の従魔師として参加することになった。
ついでに土産として、錬金毒が効く情報も持ち込んでおく。
「……つまり、この毒を使えばアイツらは簡単に倒せると」
「間違いありません! 錬金術師のお姉さんが、そう言ってましたもん!」
「まあ、まずは調べるところからだな……一つ貸してもらうぞ」
「……取ったりしませんか?」
貸借する機能もあるので、その心配は無いがあえて言っておく。
ちゃんと理解していないガキと判断されるが、それ以降の対応を確認する。
「あー、安心しろ。今から俺の言う通りに、[メニュー]を操作してくれ」
「──あっ、これを使えばいいんですか?」
「俺にじゃなくて、こっちのヤツにだな。腕利きの生産職で、鑑定もそれなりに上げている。使われることは無いから、アイツがパクるなんて心配はしなくていいぞ」
「ちょ、リーダー。そんなことするわけないじゃないですかぁ……」
周囲で笑いが起きて、気が解れていく。
俺と生産職の祈念者をだしに、キメラ種との連戦で疲れた彼らの心を休ませようとしているのか。
実力が超一流で無くとも、リーダーとしての素質はあるのかもな。
なんてひどく【傲慢】なことを覚えつつ、言われた通りにポーションを貸し与える。
「これですね……って、は?」
「おい、どうした?」
「ねえ、君……これを持っていた人は、名前とかは言ってなかった?」
「ううん、聞いている暇は無かったから。でも、お顔も声も良く分からなかった。なんとなく女の人だとは思ったんだけど……」
俺の言葉を聞き、急に黙る二人。
おそらく[ウィスパー]を使い、ヘルメギストスのことでも話しているのだろう……生産者の部分を弄っておいたからな。
「……とりあえず、解析を。それが済み次第試してみるぞ」
「分かりました」
「ふぅ……もう少し聞きたいことがあるんだが、構わないか?」
「は、はい、大丈夫です!」
少年姿の俺なので、相手もそこまで高圧的にはなれない。
多少時間は掛かるだろうが、じっくりと情報を聞き出したいのだろう。
俺も真面目に答える気でいるが、すべてを真実で答える気は無い。
彼女を盛り立て、俺はただの仲介者としてアピールを……これに尽きるな。
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