AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド中篇 その09
意識は再び研究所の中へ。
目を開いたそこでは、複数の薬品の中にキメラ種の素材を漬け込んでいるヘルメギストスの姿が映った。
「……起きたか?」
「うん、お姉さんもまだ[ログイン]していたんだね」
「そろそろ休むつもり。けど、もう一息」
彼女は祈念者である以上、長期的に居ることはできない。
正確には可能なのだが、長く居れば居るほど強制的なデバフが掛かってしまう。
その先に、俺も得た称号『AFO中毒者』といった特典が手に入る。
……意味の無い称号なのだが、そこまでは確実に頑張れば滞在できるのだ。
とはいえ、知られたら悪用されそうな情報だが、これはナックルも把握していない。
一定時間以降[ログイン]した状態で死に戻りすると、強制[ログアウト]になるし。
そんなわけで、彼女のように襲われる心配の無い場所で粘れる人しか不可能なのだ。
それでも、生産品質に悪影響なども出るため、そういった人たちも入れ込み過ぎない。
閑話休題
しばらくして、彼女は[ログアウト]を選択した。
安全な街中以外での[ログアウト]だと、一定時間肉体がその場に残ってしまう。
だが、結界などで領域を確保することでその時間を短縮することが可能だ。
彼女もまた、そうして研究所を結界に包むことで瞬時にその肉体を世界から隠した。
「さて、お姉さんの研究結果を見させてもらおうかなっと」
レポートを纏めてくれてあったので、そちらに手を伸ばして拝見。
今までに調べたキメラ種の成分と、根幹である『万蝕』の一部を解析したものだ。
錬金術を試すに当たって、そういった情報もある程度は分かるようになっている。
知識を当て嵌めて考えた結果、特定の毒に弱くなっているらしい。
「魔物の毒じゃなくて、人が生みだした錬金毒か……うん、そういうことか」
同じ『超越種』のアイ曰く、『万蝕』の担当は害を成す生物の駆除。
そしてその中に、人は含まれていない……つまりはそういうことだ。
錬金術の産物ゆえに、錬金術では再現できない部分が生まれてしまう。
そして何より、それゆえに錬金術を弱点として生まれたのが今回のキメラ種だった。
大抵の毒は、魔物たちの耐毒性能でなんとかできるのだが、人の悪意が煮詰まったような毒──要するに暗殺用の毒などには、まだまだ耐性ができていないらしい。
そもそもこの世界だと、暗殺用の毒とは毒耐性スキルを掻い潜れる代物のこと。
毒無効スキルがあろうと、対象を殺し得る人間の悪意に魔物は太刀打ちできないのだ。
「…………これは長引きそうだね。何かあれば、お姉さんから連絡が来るだろうし。必要そうな素材だけ置いておいて、僕はここを後にした方がいいかも」
まずは書き置き、そしてそういったアイテムを詰め込んだ『収納袋』を用意。
俺が居ても、邪魔にしかならないはず……彼女はこれまでも、独りでやって来た。
とりあえず、呼ばれるまで……もしくは必要になるまではそのままにしておこう。
何もなければ、次に会うのはだいぶ先になるだろうな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの街
空間魔法を習得していないため、体そのものをどこかへ移すことはできない。
とりあえず下山し、街へ戻ってきたものの特にやることが無かった。
「しいて言うなら、祈念者が輸送サービスをしているぐらいだけど……あんまり使いたくはないかな」
金か物々交換でやっているようだが、そもそもそこまで使う必要性を感じない。
なら自分で習得すればいい、と胸を張って言えればよかったんだが……。
チラリと確認する[ステータス]。
そのスキル欄には、未だ空間魔法の四文字は登録されていない。
「うぅ、自分の才能の無さが恨めしい。七大魔法でも、光と闇属性は異様なほどに時間が掛かったからね……」
さらに言うと、魔術“万色魔力”は色調で捉えられない属性にはまだ未対応。
時だの空間だの、種族単位で習得する魔法などは魔術で経験値稼ぎをできないのだ。
そのため、現在魔法に関する練習はかなり頓挫してしまっている。
以降は通常の方法、つまり当たり前のやり方で地道に磨いていくしかない。
「まあ、僕には『誰でもできる簡単スキル習得本(完全版)』があるから、他の人よりは簡単にできるんだけど」
なお、空間魔法の習得方法を調べると、かなりの数の方法が掲載されていた。
その中で、一番確実な方法とされていたのは──転移を何度も経験すること。
なんとも本末転倒なやり方だが、世間一般的にはこれが一番だとされている。
金さえ払っていけば、いずれ習得できる可能性があるのだから。
ちなみに、祈念者が一番使う方法──闇魔法を鍛えての派生習得はあまり少ない。
そもそも闇魔法を習得するという点で、忌避されてしまうからな。
「そもそも魔法スキルって、同じ属性ならともかく派生していると直接繋がっていないみたいなんだよね……光から時、闇から空間、無から重力とか微妙なところもあるし」
たしかに光の速さが時云々とか、闇の広がりが空間云々など……考えることはできる。
けど、本来は独立しているべき概念、何かしらの法則が働いているのかもな。
「うーん、とりあえず歩こうかな。縛りも少しだけ特殊にして……リスタートだ」
改めて、問題点を見つけられた。
自分で動くならば、今の状態は非常に不便だということに。
ならばそれを考慮したうえで、改めて縛り内容に変更を加えよう。
それならば、この忙しいクエストにも対応可能だからな。
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