AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド中篇 その08



 時間は夜、祈念者たちがあまり活躍しづらい暗闇の中で。
 魔法薬で暗視を付与したり、スキルで暗視が可能な者もいるが……できない方が多い。

 だからこそ、人目に付くところで活躍する眷属には控えめに動いてもらっていた。
 そして今、二人は星々(と俺)が見守る中キメラ種との戦いを始める。

 まずはグラの方を見てみよう。
 幻想種の獣人族、ケルベロスの肉体を持つ彼女は夜にこそ真価を発揮する。


「行くよ、[オル]と[ロス]!」

『『わんっ!』』


 彼女の両手に嵌めた肉球のグローブ。
 その先から伸びた爪状のそれに、ピョコンと犬の耳が生える。

 グラはケルベロスであるが、武具っ娘だからか受肉体だからか意志は一つだ。
 しかし専用装備である[オル]と[ロス]という武器を付けると、そこに意志が宿る。

 彼女をサポートする擬似人格、それが呼ばれた二つの名の正体。
 やるべきこと以外を彼らに委ね、グラはキメラ種の下へ猛ダッシュ。


「──イッタダーキマーーース!!」

『『わんっ!』』


 手を合わせると、爪状のそれはさらに形状が変わる。
 爪先から指を包むカバーが構築され、そこに魔力が充填されていく。


「──“物喰弾丸”!」


 二つの武器の名は『双黒銃爪』。
 名が示す通り、爪として斬撃を放つ以外にも銃として魔力を弾丸として放てる。

 グラ、そしてセイは銃の武具っ娘。
 彼女たちの弾丸生成能力で撃ち出せる魔弾すべてを、その爪から放つことができる。

 戦場のど真ん中で放たれた魔弾。
 それは膨大な数のキメラ種の一体に命中すると──その存在を喰らう。

 物体的に存在するすべてを喰らう魔弾。
 それは【暴食】の権能である捕食を、限定的にすることで性質を強化した弾丸。

 触れた途端にその部分から、グラが食事を始める。
 グラが食らうことできる物を、弾丸は彼女の代わりに喰らっていく。


「うーん、なんというか……」

《お味はいかがかな?》

「混ざっていて不味い……はずなんだけど。一番美味しい物が、他を引っ張って美味しくしているのかな?」

《ああ、たぶんそれは『超越種スペリオルシリーズ』の味だ。劣化品だが、それだけでも旨いんだろう》


 グラの味覚は【暴食】らしからぬ神の舌。
 特に魔物や魔力に関する味のセンスが、ずば抜けている。

 それによって、キメラ種たちの根幹とも呼べる部分を見抜いたようだ。
 そこからはただひたすら、喰らい続けるだけの簡単なお仕事。

 グラを止めることなど不可能に近い。
 彼女の食欲に終わりなど存在せず、目の前にある物すべてを喰らい尽くそうと果てることなど無いのだから。


  ◆   □   ◆   □   ◆


《──っていう感じにしてみたら、盛り上がるんじゃないか?》

「……グラ、普通に満腹になりますよね?」

《そりゃあ、空腹で暴走されても嫌だし。少なくとも俺の理想では、大食い少女ってだけだったな。ちなみにセイは、ルールをちゃんと守れる娘だったな。その通りに、イイ子に育ってくれて俺は嬉しいよ》

「あ、ありがとうございます……?」


 セイは防壁の上で、その手に大弓を握り締めている。
 騎士であり、剣を使う彼女だが今は後方支援として弓を使う。

 騎士と言えば剣と弓、両方使えるだろうという適当なイメージの影響だな。
 なお名を『天翔穿弓[アマウガチ]』、矢の方は『天光操矢[ソラフキ]』と言う。


《まあ、そんなわけで。グラの手が届かない辺りに頼む》

「分かりました──“乱雨矢レインアロー”!」


 セイは弓を上に掲げ、そのまま射る。
 本来、その矢は武技の効果で分裂してランダムに降り注いでいく。

 しかし、弓が俺謹製の特別製なので、ある効果が発動する。
 その矢の行き先を、セイが定めた場所へと的確に当てることか可能になるのだ。

 普通の矢ならキメラ種でも防げたかもしれないが、これまた矢は俺(ry。
 太陽の光を充填することで、威力や速度や熱攻撃の効果を高められるように。


《百発百中っと、さすがはセイだ。弓はほぼセイの努力で、補正なんかは微々たるものなのにな……頑張り屋だよ、セイは》

「そんな……ご主人様が教えてくれたからこそです」

《俺、初歩中の初歩だけだったろ。残りは全部、シュリュとかだったろうに》


 俺が教えられることなど、スキル補正抜きで再現するためのコツぐらいだった。
 それもセイは数日でマスターしたし、それ以降はうちの武芸者たちが担当している。

 なので、そこまで凄いことをした覚えは無いのだが……セイ本人的には、目をキラキラさせるレベルには感謝しているらしい。


「ご主人様への感謝の気持ちは、どれだけ語ろうと語り尽くせませんよ!」

《ははっ、そりゃあ嬉しいな。なら今度、俺に弓でも教えてくれよ》

「ぼ、僕がご主人様にですか!?」

《他に誰が教えるんだ? より上手いヤツが教える、それだけのことだ。俺をもっと強くするために協力してほしい》


 ノゾム状態ももちろんのこと、メルスとしてもまだまだ強くなれるだろう。
 だがまずは基礎を磨くため、さまざまな者から学べることを学んでおきたい。

 セイが学び、理解したこと。
 それは俺とは異なる視点で、より高められた技術となっている……それを教われば、俺はより理解を深められる。

 ──決して止まることは許されない、凡人とは歩みを止めた途端に……。



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