AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その14



 回復魔術の利点は、回復魔法と違い直接細胞に働きかけている点。
 回復魔法がシステム上の生命力HP経由で回復するのに対し、魔術はその逆。

 数字が戻るから体も良くなるのではなく、体が良くなるから数字も戻っていく。
 ファンタジーらしからぬ至極真っ当な理論に基づいた回復なのが、魔術の回復なのだ。

 正確には『癒療ユリョウ』がそうなのであって、システム由来の回復魔術も存在はする。
 しかし、誰でも使える簡易的な魔術という枠組みだと、『癒療』のみが該当した。


「ノゾム君、次をお願いするよ」

「分かりました──『癒療』!」


 言われるがままに、魔術を施す。
 今の俺の仕事は、主にポーションや回復魔法を受け付けなくなった人々への魔術行使。

 この魔術はどちらかと言うと、スキルによる再生などと同じ仕組みで回復している。
 あちらはあちらで、精気力などを消費するが、それにより肉体を活性化させていた。

 回復魔法やポーションほど即効性が無い代わりに、意識せずとも使える回復手段。
 普段からそういった方法で傷を癒している彼らの体には、魔術の方がよく馴染む。


「……魔術による回復は、近接戦闘を行う者ほど効くようだね」

「彼らは再生に近いスキルや武技などを、常用していますので。魔力による癒しより、自身の体が行う回復の方が効果的なのかもしれません」

「なるほど……そのような考えもあるのか。君の発想には恐れ入ったよ」

「あはは、子供の戯言です。神官長様が気にされるようなことでは」


 俺の言葉に耳を傾けるのは、この神殿におけるお偉い様。
 誕生も発展も歪なこの都市において、神殿の守護を仰せつかったある意味特殊な人。

 だからだろうか、神の恩恵に固執するような考えを持ち合わせていないのだ。
 具体的には、人を助けるためなら多少の悪も許容している。


「……神殿でも、回復魔術の導入を急いだ方が良いかもしれないね。ノゾム君、入手方法は聞いたかな?」

「ごめんなさい。お祭りの時は、自分のことばかり考えていて……」

「仕方ないね。ならば、彼女に相談してみよう……ああ、君が気にすることじゃないよ」


 なお、神官長の言う『彼女』とは、この街の裏の顔役であるボスのことだ。
 ちなみにボスも、魔術装置のことは知っていてもまだ導入していない。

 ……後で話を通して、裏で売っまわしてもらえるようにしないと。


「そろそろ魔力が底を尽きてしまう頃だね。ノゾム君、一度休みなさい」

「えっ、ですが……」

「無茶はいけない。君が目標を持って頑張っていることは充分に分かるが、それでもやり過ぎては良い結果にならないよ」

「……分かりました」


 不思議な説得力……という名のあるスキルの力に負けたということで、休むことに。
 ちなみにそれは説法スキル、真面目な話を相応の地位で言うと効果が絶大だ。

 俺が座ってちびちびポーションを飲む姿を見てから、神官長はこの場を去る。
 彼もまた、俺との会話をしている間に魔力の自然回復を図っていたのだ。


「ふぅ……うん、回復魔法は習得できているみたいだね。正直、結晶で貰えそうだったけど、やっぱり自力習得を目指さないと」


 頑張っているご褒美にどうかと言われたのだが、そこは丁重にお断りした。
 代わりにいろいろ便宜を図ってもらい、偽善を捗らせてもらおう。

 そんなこんなで得た回復魔法だが、すぐに使おうとは思わない。
 今は必要とされている回復魔術で、間接的に育てていった方が良いだろう。


「まあ、それは後で考えればいいか……休ませてもらっているんだし、今の間に様子を確認しておこうかな?」


 壁に持たれかかりながら座り、ゆっくりと目を閉じる。
 邪魔にはなっていないだろうし、むしろ休ませてくれるだろう。

 正直、ギリギリで遣り繰りしていたので完全回復までは時間がたっぷりある。
 なのでついでに、いろいろとやってみようじゃないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 W9 水上都市


 湖の上に浮かぶ大都市にて、祈念者たちは戦いを行っている。
 少し前に魔族による魔物襲撃があって、それなりの数の祈念者が滞在していたのだ。

 そして、その中には俺の眷属になることを選んだ少女も混ざっている。
 

《──もしもーし、聞こえますかー》

「むむっ、この間抜けな声は……もしかしなくても師匠!?」

《……すみません、人違いでした。きっと貴方の師匠とやらは、弟子に間抜け扱いされてもクールに乗り切るんでしょうね》

「ああ嘘だから! ごめんなさい師匠!」


 突然声を出すのもアレかと思い、ちゃんとコールから始めたのに……返ってきた言葉があまりにも心を抉ったので、つい切ってしまいたくなってしまった。

 俺を弟子と呼ぶ彼女は、【傲慢】の力を貸し与えられた眷属ユウ。
 所属するクランは『ユニーク』、しかしなぜか彼女はここに居た。


《……はぁ。で、なんで居るんだ?》

「何となくかな。アルカは学園都市で師匠を倒すための魔法を開発して忙しそうだし、僕も何かしないといけないかなって……」

《いや、じゃあなんでここ……ちょっと待って、アイツ今何してるの?》

「とりあえず近かったから。向こうはアルカに任せておけば問題ないだろうし、せっかく復興した街がまた壊れるのは嫌だしね」


 質問にはまったく答えてもらえない。
 アルカめぇ……最新の知識が集まるあそこで、いったいどんな魔法を生み出す気だ。

 くっ、怖い怖い、俺を殺し得る可能性を秘めた魔法が凄く怖い!
 あっ、ついでに俺が使うのに役立つ魔法もあったら、なおのこと怖いのに!


《……そうか、じゃあもういいか。次の所に行くから、それじゃあな》

「えっ、ちょっと待って待って! 師匠に話したいことがあるの!」

《……まあいいか。詳しく教えてくれ》

「うん。ちょっと厄介なキメラ種が出てね」


 そういうことらしい……が、話を聞くにつれて俺も少しだけ真面目になる。
 なんというか、因果は巡りに巡るってことなんだな。



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