AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その07



 シュリュは本気など出していない。
 彼女にとって、それは忌むべき導士の力を剥き出しにして行う覇の暴虐そのもの。

 対する今の彼女は、自身を冷静に顧みながら戦闘を繰り返している。
 展開された武具の一つひとつを理解し、どの行動が最適なのかを考えながら。


「……弓じゃな。『号弓[時雨]』よ」


 名を呼ぶと、その名を冠する武具が独りでに彼女の手へ収まる。
 それを握り締め、魔力で矢を生成した後、上空へ向けて放つ。


「降り注げ、雨のごとく」


 矢は上空で何百、何千と増加した後に勢いよく地面へ落ちていく。
 その一本一本が、初めに籠めた魔力の密度のまま……キメラ種たちは耐えられない。

 劉の膨大なエネルギーを浴び、体内の感覚が大きく狂わされたのだ。
 再生系の能力も機能しないまま、矢の威力に負けて死んでいく。


「どうであろう? これならば、効率的に行えるだろう」

《さすがシュリュだな……ちなみに、完全版が必要になった個体は居るか?》

「ここを訪れたすべてを統合しようと、必要とせぬな。その頃には、他の者がすでに終わらせておろうよ」


 無数の武具は、彼女本来の武具が分かたれた一部に過ぎなかった。
 だが、その一部ですら惨状を引き起こすので、シュリュはまだ使っていないようだ。

 ありとあらゆる武具を使えるシュリュに、隙など存在しない。
 キメラ種も、どうやら近接戦闘を大してやらせてもらっていないようだし。

 このままどんどん殺られるのか、と考えていたら、後ろから眷属が一人やって来た。
 朱色の髪を伸ばす、藍色の瞳と額から小さな巻き角を生やす少女だ。


「シュリュ、替わって」

「そうか、次はミシェルか。うむ、其方も見ておるか?」

《ああ、バッチリだぞ。そうか、ミシェルの戦いが見れるのか》


 ここでキメラ種の処理を担当するのは、さまざまな理由で顔出しをするのが本当に不味い自由民の眷属たち。

 シュリュであれば『覇導士』として、最後には<劉帝>に至った過去。
 ミシェルであれば、異常すぎる混血として迫害された過去など。

 始まりの街の図書館には無かったが、お気に入りの商会である本を見つけていた。
 まあ、要するに決して知られていないわけではない……ということである。


《すまんな、俺が過保護……というか、執着しすぎて。外に出るにしても、こんな何もないような所だし》

「ううん、別に。むしろ、こっちの方が落ち着くかも……知らない人も居ないし」


 ここはキップル渓谷であって、キップル渓谷ではない──擬似的な場所だ。
 本来渓谷が在る座標を、そっくりそのまま再現して入れ替えた……といった感じか。

 なのでシュリュも暴れ放題だし、人どころか生物不信なミシェルも力を振るえる。
 外部からの侵入は結界で防いでいるので、ほぼ問題なしだ。


《おっ、次が来たぞ》

「分かってる──“万迅証”」


 彼女が宣言と共に展開したのは、周囲を覆う仰々しい空間。
 複雑に力が絡み合うそこは、彼女の力──ありとあらゆる属性を増幅させる。


「万象魔法──“器想纏概ファンタジスタ・迅”」


 そんなありとあらゆる属性を司る万象魔法の一つ、“器想纏概”。
 魔法の創造すら可能なこれに、【勇者】の力である『迅』を加えたミシェル。

 ただでさえ“万迅証”でブーストされていた魔法が、さらに強化される。
 複数の【勇者】、そして【魔王】の力を操る彼女だからこそできる特権。


「武芸全般──“全技頂一ゼンギチョウイツ”」


 ありとあらゆる武術を収めた証、その本来の極致。
 得られる武技はただ一つ、しかしその一つこそが恐ろしく強い。

 効果はすべての武技の熟練度を、自分の指定した武技と共有させるというもの。
 正当な強化の果てである『・真』、一点特化な『・点』などが存在する成長先。

 複数のモノに手を出していれば、それだけ極めるのに時間が掛かってしまう。
 しかしこの武技があれば、異なる形で極めたものを一つに纏め上げることができる。


「──“百花繚乱ヒャッカリョウラン・迅”」


 一定時間で武具が切り替わる武技で、準備は万端。
 シュリュのように、複数の武具を選びながら戦うスタイルを見せるミシェル。


「メルスは、こういうのが好きでしょ?」

《……マジで凄いから超大好き》

「ならやる。シュリュもそうだから、あんなに無駄に展開していたんだし」


 えっ、そうだったのと彼女の方を見る……が、思いっきり目を逸らされた。
 マジだったのか……凄く嬉しいけど、燃費が悪そうなので気を付けてほしいです。


《シュリュ、自分に合ったスタイルでな》

「興が乗っただけのこと。朕に傲りなど欠片も無かった」

《……まあ、狂わない程度にな。ネタ武器もあるから、あんまり過信しないこと》

「心得ておるよ。それよりも、今はミシェルの活躍を見ておれ」


 この後の展開はお察しの通り。
 無双しまくるミシェルを前に、成す術なく死んでいくキメラ種たち。

 それなりにレベルも上がっていたが、それでもなお彼女に傷一つ負わせられない。
 ……まあ、負ったら強制的に交代って言っていたからこその回避も有ったんだけど。

 そうして再びキメラ種たちは全滅。
 彼女たちの活躍は、祈念者たちのピンチに掛かっているのだった。



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