AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド直前 その05
W15 グラドルム要塞跡
遠くに学芸都市を見ゆる要塞は、現在魔王軍に占拠された悪の基地。
俺は彼らの中に潜り込み、何か面白いことは無いかと考えていた。
なお、祈念者と証明できない以上、ずっとそこに居なければならない。
しかしそこは、代理を立てることでどうにかしてきた。
「話には聞いていたが……実際に見ると、改めて驚くな」
「お褒めいただき、光栄にございます」
「うん、何か俺が必要なことがあればすぐに言ってくれ。そのときは、しっかりと働く予定だ……無職だけどな」
ジョークを言ったつもりだが、誰も笑ってくれない……みんな真面目だな。
なお、派遣する眷属は居らず、代理役として働いてくれたミアとディオが居る。
俺のスキル{多重存在}によって生まれ、邪縛を受ける前の存在ゆえに職業もしっかりと持ち合わせている……彼女たちの働きで、俺は偽善を続けていられた。
「ミア、ディオ。よくぞこの基地のトップに立ってくれた。間違いなく、俺だけではできなかった功績だ。元隊長も騎士も、二人のサポートご苦労だった」
「少なくとも、貴様には言われたくない」
「同感だ。彼女たちに任せ、まったく顔を出さずにいたお前に労われても嬉しくない」
「……ミア、ディオ。ストップ、ストップ。事実だからな、念話の通信だけで二人の顔は見ていなかったし。もちろん、ミアとディオの顔はいつも見ていたけど」
通常の念話では不可能だが、眷属印経由の念話だとリモート会議風に会話ができる。
普段は使わないが、顔を見ながら話したいときなどは使っていた。
とはいえ、念話かつ眷属専用の通信なので彼らがそれを知るわけじゃない。
彼女たちが彼らの言動に腹を立てるのは大変ありがたいが、至極真っ当のことなのだ。
「ワールドクエスト──いわゆる世界規模の試練によって、ここにも大量の魔物が来る。とりあえず、俺の方針を伝えに来た。はっきり言えば、ここは防衛に徹する。便乗して都市に侵攻とかそういうのは無しだ」
「……そんなことをしようとしていたら、私は貴様を斬っていたぞ」
「だからしないんだよ。俺は成り上がる予定だが、必要以上に他者を殺しはしない。元隊長だって、今なら真意が分かるだろう?」
「ふんっ、偽善者め。だが、そのお陰でこうして仮初であろうと生きていられるのだ。その生温い温情に感謝してやろう」
ステイ、ステイ。
殺された人なんだから、そういうことを言うのは仕方がないことなんだよ……というかその言葉、俺からするとマジで誉め言葉。
さらに腹の中で怒りを貯める二人を宥めながら、説明を続けていく。
要するに俺は、都市に住まう住民の魔族に対するヘイト値を気にしていた。
やり過ぎると祈念者を動かし、本格的に潰そうとするだろう。
それをしないのは、彼らにとってもある意味この状況に利があるから。
「──魔族の用いる戦術、魔法といった独特の情報を集めるのに適しているだろう? 逆に自分たちの対魔族のやり方がどこまで通じるかも試せる。そして、これはあくまでも推定の域を超えないんだが……」
「超えないんだが?」
「……あの都市だと魔族を倒すよりも、研究する方が目的になっているんだろう。研究に犠牲は付き物だから、死を理由にどうこうするわけでもない。だからこそ、知り尽くそうと研究材料を残している」
「「…………」」
魔族代表の元隊長が、人族代表の騎士を見ようと……するが、目を逸らされる。
いつもは人族のため頑張る騎士だけども、さすがにこの弁解だけはできなさそうだ。
「ともかく、向こうも今回は試練で忙しいから何もしなくていい。むしろ、来るであろう魔物への対処の方が優先すべきことだ。確認しておくが、魔族には魔物を操る術があるとかそういう話は?」
「……人族と同じだ。完全な支配などできるわけがないだろう。それに、今回の試練で現れるのは人造の魔物だと聞いている。奴らは主以外の命令を受け付けづらいからな」
「まあ、なら対処に徹するしか無いな。ついでに、無いとは思うが向こうから攻めてきた場合も考えておこうか……祈念者は、時として思いもよらない行動を取るからな」
創作物の定番だと、魔族が特殊な方法で魔物を使役している場合があるが……それは無いようだ。
実際にはどうなのか、トップから下っ端まですべてを把握したうえでのコメントなのかは微妙だが、少なくともこの砦の中でそれを行える者はいないだろう。
「そこは死霊術師役の俺たちの出番か。通常の使役ができずとも、死体を動かすだけなら容易いだろうからな」
「そういうことだ。彼女たちが、それを代わりにやると?」
「俺にできることは、全部彼女たちにもできる。そういうことだから、代理を任せているわけだし。ミア、ディオ……行けるか?」
「「問題ありません」」
代わる代わる働いてもらっていたが、今回は両者同時に働いてもらうことになる。
片方にはここに居る魔族を操るトップとして、もう片方には影での処理役として。
だが、彼女たちも眷属印を刻んだ存在。
俺の家族なのだ……分体だからと割り切る予定は無いし、そもそも彼女たちが負けるという心配はしていない。
「魔族も人族も、俺からすれば等しく命だ。なんとしても守り抜くぞ」
「「仰せのままに!」」
「……ここが崩れれば、人族の街にも被害が及ぶ。あくまでも、そのためだ」
「命を握られている以上、逆らうことはできない……主に従おう」
そんなこんなで、この地もなんとかなるということで。
俺はまだまだ残る眷属の派遣先へ、再び転移を行うのだった。
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