AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と再びの裂け目
クランハウスから出て、始まりの街を散策していく……ふと、何かを感じる。
それが何かは分からないが、一度感じたことのある懐かしいものだと思った。
「ここは何も無い……いや、これか」
俺が見つけたのは何もない壁。
しかし、神眼を神気込みで凝らして調べてみると……空間属性の穴を見つけた。
「そうだ、思い出した。たしか、何もない場所に繋がる意味不明な入り口だったな」
入場条件があり、一月に一度で合計能力値が60以下じゃないと入れないというもの。
俺は満たしていなかったが、魔法でちょいちょいっと強引に開いて入っていた。
それでも、結局何も無いということですぐさま退散したのだが……。
なぜだろうか、不思議ともう一度だけ入りたいという気持ちになっていた。
《メルス様、緊急事態です》
「……ん?」
《──{感情}が自動的に発動しています》
「なるほど、文字通り胸の奥から湧き踊る激情ってか」
高揚感も好奇心も、すべて創られたもののようだ。
とはいえ、初期から大変お世話になっている{感情}様のお導きを断る理由は無い。
「アン、最大レベルで警戒を。眷属にも、何かあるかもしれないと言っておいてくれ」
《畏まりました》
「それと……そうだな、リオンの方にも心当たりを再度確認しておいてくれ。たぶん、神様関係だとは思うから」
《はい、すぐに伝えておきます》
必要なことはアンに任せておいたので、俺は本能の赴くままに愚直な行動をする。
次元魔法の力を用いて、隠された空間の穴に干渉──強引に開いて潜っていく。
◆ □ ◆ □ ◆
???
何も無い黒い空間が、開かれた裂け目の先には続いていた。
どこまでも続く、果てしない闇の世界。
少なくとも、最初はそう思っていた……というような感想を、前回来たときには抱いていた記憶がある。
「中継地点でも無かったんだよな、ここ。いやまあ、もしかしたらこの先のどこかにはそういう場所もあるのかもしれないけど」
前回同様、開いた裂け目の方は入った直後に塞がったため脱出不可能。
当然、闇なので別の裂け目があるというわけでもなく……あのときは強引に帰った。
『…………』
「そうそう、何かを今なら感じるな。神様関係だろうし──“神祈降臨”」
俺に関する神であれば、加護を持っているだろうと推測しての神聖魔法。
通じた経路を利用して、神の御霊を召喚する……はずだったのだが。
「失敗した? 魔法自体は発動した、けどここに呼びだせない?」
『…………』
理由は分からないが、失敗したことは何も起きていない現状からも明らか。
念のため、意思疎通用に“次元隔話”も試してみるが……こちらも通じず。
「仕方ない、こっちからのアプローチは諦めるとしますか。じゃあ次を──」
『てってれー(突)』
「…………」
『あれあれ、伝わらないものだね。反応も地味だし、顔に出さない驚き?(謎)』
声が突然、脳裏に響く。
だがそれよりも、気になることが──突然この空間に、看板が出てきた。
そこには『突』だの『謎』だの、完全に日本語で書かれている。
聞こえてくる声よりも、そちらの方を優先してしまった。
……まあ、声も声でローテンションなのが気になるけど。
『神気も魔法も、通じないから意味無いよ。それよりも時間が無いから、さっそく本題に入ろうか(真剣)』
「全然真剣な感じがしないな……それよりもだ、貴方は神──それも大神だろう?」
『ピンポンピンポーン。けど、正解後の解説はしないよ。さっきも言ったけど、本当に時間が無いんだ(焦)』
「……分かった。それじゃあ、その要件とやらを教えてくれ」
看板が相手の心情を物語るのであれば、そういうことで間違いないのだろう。
なぜこのタイミングで、とも思わないでもないが……何かあるのだろうか?
『要件は無いけど。時間が無いってのは、ここに貴方が居られる時間。本題というのは、そのことについてだね(説明)』
「……特に用は無かったと?」
『そうだね。しいて言うなら、こっちも応援していることぐらい(適当)』
「……神が誰かに肩入れって、いいのか?」
前にリオンにも聞いたことがあるのだが、大神ともなれば考えが違うのだろうか。
『神の気まぐれとでも思っておいて。偶然、貴方はこっちの目に留まった。その先に何が起こるのか期待した、先行投資みたいなものだよ(怠)』
「……なんで怠け?」
『気にしない、気にしない。そうだ、最後に一つだけ神託でもしてあげる。こほんっ──寝る子は育つ(本気)』
「あっ、そうですか……って、これで終わりかよ!?」
時間切れを示すかのように、後ろに再び裂け目が生まれて俺を呑み込もうとする。
抗うことは……可能だが、その先に何が起こるか分からないので、逆らわず従う。
「一月後、また会えるのか!?」
『あー、無理だね。今回はそう、ちょっとしたサービスだから(勘)』
「サービスって、なんのだよ」
『まあ、次に来るときはお供え物でもするといいさ。この『リフィリング』に(渇望)』
そうしたら刑期も軽くなるさ(適当)という声と看板を知覚しながら、完全に空間の裂け目から放り出される。
出た先には何も無く、ただこれまで通りの壁と路地だけが続いていた。
「とりあえず……眷属たちを落ち着かせた方がいいな」
ひっきりなしに続く俺を心配する声。
そのことに気持ちを癒されながら、帰宅の途に着くのだった。
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