AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と新人研修 その06
一月後……とはいかず、その日の夜。
今回の新人研修へ関わった各クランの代表者たちが、その経過報告のようなものを行っている。
たった一日ではあるが、昨今の若者であれば充分に脱落者が出る可能性があった。
現に数人が、別のクランへの転属を希望しているとのこと。
「──で、お前の所はどうなんだ?」
「とりあえず、資料に目を通してくれ」
最後、俺の番が回って来る。
この場に居るクランで受け入れられなかった三人の少女を担当していることは、すでに事前情報として伝わっているだろう。
俺自身のことは、ナックルの知り合いでそれなりの腕を持っているとだけ。
……今回も偽装やら隠蔽を重ねて、存在の認識は曖昧にさせてもらっているが。
用意しておいた資料をアヤメさんに配ってもらい、口頭での説明を加える。
「まあ、一月の指導に関しては受け入れてもらえる形になった。それ以上は実績を見てから考えて、特に学ぶことが無いならもう放逐するって感じだな」
「それは……」
「それは? 一月は教えるんだし、本人が望むならそれ以上だって教える。これ以上に無い待遇だろう。ああ、資料に書いた通り具体的に何をするかは、彼女たちの個人情報ということで伝える気は無い」
他のクランもある程度の方針は語ったものの、詳細までは言っていなかったし。
次代の戦力になるのだから、開示しなくて当然とも言えよう。
まあ、だからこそ弱小というか、いずれ教師の下を離れる彼女たちを知りたいのか。
根掘り葉掘り聞いて来ようとする者たちの声を、ナックルが代わりに遮ってくれる。
「まあまあ、誰しも言いづらいことはある。一月後にはお披露目会も予定しているんだ、そのときに自分たちの目で確かめればいい」
その言葉に、いちおうの納得を示す……演技をする祈念者たち。
情報は力だ、何もしないということは無いだろうな。
まあ、俺を尾行しても彼女たちには決して届かないだろうけど。
◆ □ ◆ □ ◆
クランハウス ユニーク
「改めて、こっちが本物の資料だ」
「……お前なぁ。あそこまで喧嘩を売る態度じゃなくてもいいだろうに」
「ああいうやり取りが苦手だから、俺はのんびり隠居生活なんだよ。それよか、さっさと目を通してくれ」
先ほどとのほぼ情報の載っていなかった資料とは違い、彼女たちの獲得したスキルや今後の方針まで書いた資料を渡す。
もしかしたら、ナックルに一月後以降は任せるかもしれないからな。
信頼できる相手には、相応の情報を渡しておくべきだ。
「人形遣いに忍者……まあ、あの娘はなんとなく分かっていたけど。特に問題な娘は……というか、なぜ『花子(仮)』?」
「ノリだ」
「ノリかぁ──なら仕方ないな。まあ、その花子ちゃん含めて、お前の下で羨ま……けしからん特訓を受けるわけだ」
「その言い方は止めろ。迷宮のことを羨ましいの対象にするな」
ちなりとアヤメさんを見るが、ニコリと笑顔を浮かべているだけ。
……業務外、そっちでなんとかしてくれということか。
「はぁ……使っているのは黄金畑だ。どうせお前は入れないんだし、別にいいだろう」
「だからこそだろう! ああ、なんて羨ましいんだ……俺も転生してレベルがリセットされたら、その迷宮を満喫したいな」
「お前、転生の予定があったのか?」
「ん? まあ、お前のせいで結構な勢いでレベルは上がるからな。どうやら、250の解放クエストは開国で満たしたらしくてな、そろそろしようと思ってたんだよ」
転生の引き継ぎは、レベル100から行うことができる。
しかし200の時の方が引き継げるし、最大は250……だから待つ者も多い。
本来、『超越者』として上限を解放できない者の選択肢だが……悪くは無いはずだ。
種族と職業のレベルは別でカウントだし、カンストならリセットした方がいい。
「ふーん、まあ頑張れよ。うちの迷宮で貯めたポイントは、転生用のアイテムにも交換できるからな」
「……絶対通いたくなるじゃねぇか」
「止めてくださいね」
「あっ、はい」
二人のコントに苦笑しながら、逸れた話を元に戻す。
転生のアイテムか……売れそうだし、多めに発注しておくか。
「とにかく、アイツらは俺の方でなんとか育ててみる予定だ。ちなみにだが、どれくらいまでやればいいんだ?」
「……俺が例を挙げなかったら、どれくらいまで育てる気だったんだ?」
「うーん、とりあえず100だな。それくらいなら、どうとでもなるし」
いちおう、祈念者にはレベル制限が存在するのだが……解除する方法はいくつかある。
クエストはあくまで運営神が用意した方法であり、それ以外でも可能なのだ。
「……悪いことは言わないから、種族の方は50に留めておけ。レベルの方は合計しか見られないだろうから、そこまで気にしなくていいだろうけど。初心者がいきなり50超えなんてのは、異常視されるぞ」
「そういうものか?」
「そういうものだよ。お前じゃなくて、目を付けられるのは彼女たちだ。そういう配慮をした方がいいぞ」
「まあ、そりゃそうか。なら、50の範疇でできることだけにしておこうか」
そうして、彼女たちの研修を担当することになった俺。
一月以内に、どこに出しても恥ずかしくない立派な祈念者に育て上げよう。
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