AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と精霊グッズ 後篇



 現れたのは一人の少年だった。
 どうやらデスペナを受けたようで、悔しそうな顔を浮かべる初期服を着た状態。

 容姿は……まあ、別にいいか。
 茶髪にした日本の中学生、ぐらいの弄り方しかしてないし。


「綺麗……」


 そんな少年が俺たちの下に来たのは、精霊たちが主張をしたからだろう。
 潜んでいる魔石の中から、まるで自分を選べと言わんばかりに明滅。

 少年はその光に気づき、誘蛾灯に引っ張られるように……って、この表現はあれか。
 ともあれ、精霊たちの幻想的な光に魅せられてやって来た。


「使えたなら値段交渉……あ、あの!」

「好きな物を選びな。話はそれからだ」

「えっ? うぅ……分かりました」


 ぶっきら棒にそう告げると、少年はどれにしようかと選び始める……が、なかなか決まらない。

 そりゃあどの精霊も自分を選べと光っているのだから、悩みもする。
 精霊たちも、なぜだかこの少年にどうしても使ってもらいたいらしい。


《解説のユラルさん、お願いします》

《うーん、心根がいいんだと思うよ。それでいて、誰かを必要としている。精霊って、基本的に支えたい……庇護欲の強い種族だし。だからあの子を助けたいって、みんな張り切り過ぎているんだと思う》

《なるほどなるほど。つまり、ユラルさんも俺を支えてくれているってことかな?》

《……ノーコメント》


 なんて会話をしている間も、少年のアイテム選びは続いていた。
 そして、ついにその手が握ったのは──懐中電灯のような魔道具。


「これがいい……じゃなくて、これでお願いします!」

「あいよっ。じゃあ、使い方はアイテムの詳細から見てね。大切に使ってやってくれよ」

「あ、あの、お金は……」

「交渉の結果、お前さんにはタダでくれてやることにした。その分、しっかりと使いこなしてくれればいいさ」


 慈善事業ならぬ偽善事業なので、利益などは度外視でやっている。
 少年が俺をどう認識しているか知らんが、偽装中なのでこちらの意図は読めないはず。


「そいつには精霊が宿っている。どう扱うもお前さん次第だが、下手に扱えば精霊は居なくなる。だが逆に、大切に使うなら……もしかすれば、一生もんの相棒になるかもな」


 ちなみに属性は光。
 そして、その形状から……まあ、察する人は察するだろう。

 ただしオリジナル要素として、形状は真っすぐ伸びるだけじゃない。
 拡散して盾にするも良し、鋭く延ばして槍にするも良しだ。

 宿した精霊に関しては、今回そのほとんどが下位精霊。
 それ以上の位は、夢現空間にそもそも生まれないのだ。

 微精霊の頃から俺の邪縛に慣らしているので、それなりに対応してくれる。
 だが、自我が発現する中位精霊以上だと、それも難しかったかもな。


「──そんなこんなで、少年も新しい相棒を手に入れたな。はてさて、行きつく先は王道かそれとも邪道か……どっちだと思う?」

「私はあの子が幸せだと思えるなら、どういう選択でもいいかな? 人にとっては違うかもしれないけど、精霊にとっての幸せは大切なナニカができることだから」

「……そうなるといいな」

「うん」


 気分的には、子供が巣立った両親だな。
 俺はそこまで深い感情移入はしていないのだが、ユラルの方は……少し涙目だし。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 一度売れると勢いづくのか、それからは割とサクサク……行ってほしかったんだがな。
 百個あるアイテムも、一人に売れてからは大して変化はせず……残りは九十個。

 うん、十個は売れたんだよ。
 祈念者の中にも、精霊が好き好む奴はそれなりに居たようで……うん、見た目がすべてじゃないと改めて思い知ったな。


「──おい、貴様」

「……ん? 視たところ、祈念者じゃないみたいだな。こんな場所に何の御用で?」


 祈念者の集まるこの場所だが、別に自由民が居ないわけじゃない。
 また、ボス曰く時折ここに監視が来ているらしい……それ関係かな?


「それらすべて、精霊具であるな?」

「まあ、そうだな。なんだい兄さん、いい眼があるんだな」

「戯言を……まあいい、それらすべてを寄越せ。金ならいくらでも払ってやる」

「…………お前さんこそ戯言を。そこの看板が見えないのか? 使えたなら、値段交渉をしてやるんだよ。やる前から勝手にイキったことを言うんじゃねぇ」


 未来ある若者たちに渡すべく、こういったことをしているのに……やれやれだ。
 しかも彼、どうやらユラルのことは視えていないらしい。


「お前さんがどこの誰でも、何をしにここに来たのかも……んなことはどうでもいい。だが一つ、俺の店にちょっかいを出した。これは許せねぇよな?」

「何を……っ、植物!? バカな、精霊の反応は無かったはずだぞ!」

「精霊由来の物だと分かるのは偉いな。それでも足りねぇ、俺の……俺たちのやろうとしていることにちょっかいを出すなら、もう少しマシな人材を寄越せ。少なくとも、この絡繰りが分かる奴程度にしておけ」

「チッ……貴様、後悔するぞ」


 物凄いテンプレな台詞を残して、彼──異国の森人はこの場を去った。
 彼がこの先、俺をどう狙うのか……まあ無理だろうけど、期待しておこう。

 ある人へ繋がる魔道具で、この問題はすでに連絡済み。
 刺客が放たれ、彼がどう反応するのか……こっちの方が面白そうです。



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