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山田 武

偽善者と霧の都市 その24



 子供が一人、街を彷徨う。
 ソレは命じられた通り、その気配を感じ取らせないように子供へ近づいていく。

 ──『ジャック・ザ・リッパーたれ』。

 余計な思念が失われ、その使命に突き動かされて動く殺人鬼。
 その身に纏う霧によって、子供が殺人鬼に気づくことはない。

 一歩、また一歩と前に進み出る。
 その手には、ソレに与えられた特殊な刃が握られていた。

 それを突き立てるべく、殺人鬼は生者である子供を狙う。
 生きとし生ける者に通じる、死の因果そのものを与える刃。

 完全に背後を陣取り、回避不可能になったと判断。
 首を掻き切るようにその刃を──

「──初歩的な推理さ。いや、これに関しては推理と言うよりは、消去法と言った方が適当なのかもしれない」

『!』

 とっさに動き、その場から離れる。
 いったいどこから聞こえた声なのか、すぐに調べるが……認識ができない。

「気づくことができない、それは当然のことなのだろう。君のような存在は、現界と消失が自由自在に行えるのだから。君の場合、霧が条件のようだね。だからこそ、君の逸話にはいつだって霧が存在する」

 何者かが詠うように語るそれは、明かされることのない真実。
 複数の仮面を被り、ひた隠しにされてきたジャック・ザ・リッパーの正体に迫るうた

「そう、逸話。本来、ノゾム君たちのような異邦人にしか知ることのできない架空の話。君の正体に迫り、より増えた在り様。何かに似ていると思ってはいた。そして、ここに来てようやく一つに絞れた」

 ハッとあることに気づいたソレは、すぐさま上空を──霧の存在しない場所を見る。

「霧の怪人、そう呼ばれていたこともあったようだね。ジャック・ザ・リッパーたれ、それが君に命じられた令であり法。もう一つの街で起きた、すべての事件の始まり……霧そのもの、そうだろう──精霊さんジャック・ザ・リッパー?」

  □   ◆   □   ◆   □


 種明かしは至ってシンプル。
 俺が囮になって誘き寄せ、頃合いになれば彼女が上空で演説を行うだけ。

 俺も彼女も、ジャック・ザ・リッパーの姿なんてまったく特定できていない。
 ただ、出現の法則性と正体に関しては看破できたので、山を張っただけのこと。

 正直、生きた心地がしなかった。
 最悪推理が外れ、彼女が演説中に口封じとして殺される可能性も十二分にあったわけだからな。

 だがそれでも、彼女は彼女に与えられた使命を全うしてくれた。
 探偵として真実を暴き、無垢を染め上げられた殺人鬼の正体に辿り着いたのだから。

 ……ちなみに、彼女が上空に居るのは演出用に空歩スキルが使える靴を貸したため。
 縛りプレイ中に買ったモノだが、正直使わないので放置していた代物だったりする。


「──先生の読み通り、正体を明かせば認識できるようになるみたいですね」

「そうだとも。知られていなかったからこそジャック・ザ・リッパーは、その正体が謎に包まれていた。逆説的に、それが明かされたこの瞬間だけはその正体に気づけるわけだ」

「……逆に言えば、その証人さえいなくなれば元通りというわけですね」

「そういうことさ。さぁ助手君、最後の一仕事と行こうじゃないか」


 目の前に立つソレをはっきり捉えたとき、やはりなと思う部分もあった。
 デザインは運営がしたはずなので、その姿にジャック・ザ・リッパーも囚われると。

 第一に、大昔に語られたような狂気的な殺人鬼と言う印象は見受けられなかった。
 たしかにナイフを両手に持っているが、イカれているとか血走っている様子もない。

 ただ虚ろな目と人形のようなかおで、明確な標的である俺と彼女を見ているだけ。
 さらに言うと、よりターゲットとして認識している彼女の方を見ている。

 それは一部の分体でも確認できた、女性への執着……その原因は複数あったが、特に狙われていたのが女性だったことが多いことから、俺もあることを考えていた。


「しかし、なかなか相手にしづらい姿をしていますよね」

「……ほう、助手君はああいった姿がお好みなのかな?」

「ぶっちゃけ問題ありません……って、そうではなく! ほら、相手は子供ですよ!?」


 誘導尋問に引っかかった気もするが、そこは置いておこう。
 ジャック・ザ・リッパーの姿は、某外典の同名殺人鬼と似ていて子供なのだ。

 まあ、恰好は少しまとも(?)で、決して露出度の高い水着っぽい感じではない。
 薄汚れた布切れを、その小さな体躯に霧と共に纏わせている。

 ただし、赤黒い色に染め上げられたそれは鉄臭く、拭い切れないナニカが澱みになっていた。

 ボサボサな灰色の髪、荒んだ瞳、顔立ちはどちらとも取れる中性的なもの。
 ……きっと、運営がどちらにしようか揉めた末にそうなったのかもしれない。


 閑話休題オレはロリは


 この世界のジャック・ザ・リッパーに、境遇的に似ているのはノアだろう。
 彼(女)もまた、聖人であるノアの名を引き継ごうとした精霊。

 天然ものがノアだとしたら、運営の名の下に意図してジャック・ザ・リッパーの面を被せられた精霊が、目の前の子供だ。

 下位の精霊には自我の無い個体が多い。
 おそらく、そういった個体にインストールしたのだとは思う……が、そこはまあ偽善の範疇ということで。

 可哀想にも可能性の芽を摘まれた精霊を、俺は偽善者として救いたいのだ!



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