AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と霧の都市 その22


 第二ラウンドが幕を開ける。
 俺はあくまでも足止め役に徹し、彼女がこのフィールドのギミックを使って勝利するという予定だ。

 とはいえ、相手もそう簡単に騙されてくれるわけではない。
 真面目に戦っているよう見せるため、自らの体を“傀儡寄生マリオネット”で操り対応している。


「システム由来のことはできませんが……それでも、退屈だけはさせませんよ」


 アレもアレで、ある意味では今の俺と同じようなことをやっているわけで。
 現状で体内の巡りを弄る武技や魔法などを使えば、しばらくは使い物にならなくなる。

 つまりはやることのできることが無いわけで、ただひたすらに攻撃をするだけに。
 それでも、愚直に磨いた動きを強制的に行い、骨身が悲鳴を上げようと剣技を振るう。


「リュキア流獣剣術“開牙カイガ”──“蛇推ジャスイ”」


 中でも獣剣術は、師匠であるティルが特に仕込んでくれたので難易度が低い。
 斬撃を放つと、それをなぞって蛇のようにうねり進む斬撃が発生する。

 この世界には存在しない武術による連撃。 魔法師の経験を引き継ぐ死配者でも、対処できないような攻撃……無視せざるを得ない剣技によって時間を稼ぎ続けた。


『──“冥呼波紋グルームリップル”』

「くっ──『活性功カッセイコウ』」


 とはいえ、相手も黙って無抵抗に攻撃を受け続けるわけではない。
 放たれた魔法は衰弱させる波動を生み出すというもの、最悪死に至る危険な冥魔法だ。

 俺は体内の精気力を練り上げ、高めることで衰弱に抗う。
 今の俺でもできる範囲で、体内環境を弄ることでそれを実行した。

 量と質を増やした気功は、耐性スキルの補正も受けて完全な無効化に成功する。
 同時に、増やした気功を回復のエネルギーにすることでできることを増やしていく。


「──『武装錬製クラフトアームズ』」


 剣の構築を解除して、新しい武器の生成を試みる。
 ほぼL字型の、内部に魔力回路が刻み付けられた筒状の武器。

 銃と現実でも呼ばれる武器だが、この世界では魔(力式)銃と認識される代物。
 現実の物のように火薬や弾丸を必要としない……少々お高めの品だ。


「これなら、大して体を動かさずに戦うことができます」


 というわけで始まる銃撃戦。
 放たれる魔法に弾丸を、向けられた霊体たちにバンバン銃弾を撃ち込んでいく。

 魔銃のメリットは籠める魔力に属性を付与すれば、弱点を突き放題な点。
 デメリットは弾丸の生成から射出後まで、工程全部で魔力を使わないとならない点。

 これまで使っていた回復スキルに加えて、不動を生かして瞑想スキルも行使。
 消費し続ける魔力を補いながら、ただひたすらに時間を稼いでいく。


「精気力を注いで──『乱射撃ちシューティングショット』!」


 引き金を何度も引き、大量の魔弾を射出。
 相手が対処できない数で撃ち込むことで、膠着状態を生み出す。

 その分、一気に魔力が消耗して枯渇状態の悪影響が俺を襲う。
 激しい頭痛、立ち眩み、幻覚などなど……それらを不屈スキルと根性スキルで耐える。


「先生、どうですか!?」

「……あと少しなんだ! すまないが、あと少しだけ時間を稼いでくれ!」

「分かりました! なら……ここからどうしたらいいのかな」


 ふらふらな体に喝を入れて、強引に起き上がり再び銃弾を放っていく。
 魔力が減っては回復し、再び一定量溜まれば弾丸を放ち枯渇状態に陥る。

 祈念者の特権は、魔力の枯渇状態になってもそれだけで死ぬことが無い点。
 何度もそういう状態に陥り、慣れてしまったヤツだけができる蛮行。


「チッ、だいぶ近づいて……このっ!」


 それでも、死配者リッチな魔法使いは魔法や霊体を放ち俺に近づいてくる。
 逃げてもその場で抗っても、回復速度に変化が生じているため、その場で撃ち続けた。

 体を操るための“寄生傀儡”に回していた魔力も、弾丸に使うことでどうにか補う。
 ただし、その一発を放った途端に俺は身動きが取れないまま地面に倒れ伏す。


「ははっ、もう充分ですよね?」


 もう何も抵抗せず、これから起き得るであろう運命を受け入れるだけ。
 そんな俺の状態に満足した死配者は、ゆっくりと俺に手を伸ばし──


「──ああ、充分だとも。まったく、あまり無茶はしないでもらいたい」

『ッ──!?』


 突如その手を止め、苦し気に蠢く。
 バッと後ろを向いた死配者、その先では彼女が何やら本に隠し持っていた短剣を突き刺していた。


「彼の妄執を抱いたんだ、その核となる物がどこかにあると推理した。隠していたようだけど、探偵の前に隠し事は無意味さ」

「先生……お見事です」

「君にはお説教が必要なようだね。あれだけ説いても、まだ反省の色が見えないようだ」

「信じていましたから。だって、僕が信じた名探偵ですから」


 そんな会話をしている間に、絶叫して死配者は消滅していく。
 だが彼女はそれを気にしないで、こちらへと近づいてくる。

 ……その恐怖は、死配者が来たときよりも俺に絶望感を覚えさせた。


「せ、先生? ほら、早くすべての元凶を止めに行かないといけません!」

「元凶? 元凶と言うのであれば、ボクをこれほどまでに心配させた張本人を止める方が重要そうだね。さて、これで君との付き合いも最後になるかもしれないんだ。ゆっくりと語り合おうじゃないか」

「や、優しくしてくださいね?」


 ──街に起きていたピンチ自体は、この階層を突破すればもう問題ないらしく。
 時間は充分にあるということで、俺はひどく長い間拘束おせっきょうされるのだった。



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