AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と霧の都市 その10



 システムエラーを検出。
 祈念者の強制排出に失敗しました。

 原因を確認……不明です。
 緊急時の対処法を検索……失敗しました。

 ERROR 異常なコードによる介入。
[不明]の『運命略奪者』が発動しました。
 以降の導きは[不明]主導の下で行われます。

 異説クエスト『霧の都と殺人鬼伝説』のシナリオが変更されます。

 類似ルートを検索……該当数ゼロ。
 達成済みのフラグを確認、新たなルートの構築を行います。

 通常フラグを確認──開示成功。

 七日生存──達成。
 死亡者数ゼロ──未達成。
 ギルド登録──達成。
 ギルド信用──未達成。
 探偵雇用──達成。
 原因究明──未達成。
 正体開示──達成。
 暗躍阻止──未達成。
 模倣犯防止──達成。
 事件解決──未達成。

 特殊フラグを確認──部分的に開示成功。

 存在漏洩──達成。
 ■■覚醒──未達成。
 ■■解放──未達成。
 ■■停止──未達成。
 非戦力被害数ゼロ──達成。
 ■■■の真実──未達成。
 ■なる■■──未達成。

 規定数の通常フラグ、及び特殊フラグの達成を確認──特殊ルートを流用。
 新ルート構築完了、以降の顛末に保障が存在しません。

 ──シン・・なる物語を開始します。

  □   ◆   □   ◆   □

 八日目、深夜にアナウンスで叩き起こされた俺は目を開く。
 いつもなら終わった後に告げられる文面に似た何かが、今回はこのタイミングで来た。

 やはり、俺がやっていることには何かしらのイレギュラーがあるのだろう。
 これまでの俺の功績を基に、この世界に何らかの変化が起きたようだ。


「……寝れないな」


 いきなり得た情報を、まずは整理しておきたかった。
 装置を手動で入力して“不可侵ノ密偵ハイドエンド・シーク”を起動して、こっそりと部屋を出る。

 彼女の厚意に甘えて部屋を借りているが、改築したのは俺。
 気づかれないルートを通って、屋根上に向かい空を眺めた。

 雲一つない夜空、霧も遥か彼方までは届かず都市を覆うだけに留まっている。
 それはおそらく……彼女から聞いた推察を思い出すと、ふとある考えが浮かんだ。


「──空には手を付けたくない、それこそ不可侵の存在だって思っていたのかな」


 星の輝きは何人たりとも犯すことのできないものであり、誰もがその恩恵にあやかることができる。

 この世界がどのようにあろうと、その外側で変わらぬ光を放つ。
 それは時として、人に不可侵の美を思わせる……カグヤたちがそんな感じだったけど。


「でも、これから少しずつそれも変わっていくことになるのか……」

「──ほう、それはどうしてかな?」

「産業革命、技術の発達で少しずつ人の領域が増えていくんだ。その分、人は灯りを燈すから空の光は減って、いって……えっ?」

「ふむ、君の世界ではそうなるのか。なかなかに興味深い話だ」


 いつの間にやら、屋根の上には俺ではないもう一人が存在している。
 そしてそれは、今日もお勤めで疲れて熟睡していたはずの探偵だった。


「なんで……それに、どうして?」

「一つずつ、問いに答えよう。ここに居る理由は、君の行動に気づいたから。どうしてなのかは……そうだね、興味が湧いたからさ。こことは違うどこかから、来訪した君がこの光景に何を思うかをね」

「お姉さん……」

「そうそう、君の肉体と精神が異なる年齢であることも察していたよ。ただ、悪意があるわけでもなく、そこに君の信念があったからこそ何も言わないでいたが……すまないね、やはり職業柄気になってしまったよ」


 そして彼女は、俺が隠していたことをすべて知っていた。
 俺が外部から来た者であることも、存在を偽っていることも。

 まあ、隠していたつもりはほぼ無かった。
 別にバレても良かったと思っていたが、彼女なりに気遣ってくれていたようだ……これも変化なのだろうか。


「君が隠そうとしてなかったからこそ、ボクは待っていた。そして、今の君は……どうやらこの問いに対する答えを持っていそうだ」

「……そうですね。分かっていると思いますが、僕は仮初の存在です。偶然得てしまった力に溺れないよう、新しくやり直している最中です。建築や料理のときなんかは……少しだけ張り切っちゃいましたけど」

「うん、それも気になっていたことさ。なるほど、要するにアレは経験してきたからこそできた芸当なわけだ。やはり、この家はノゾム君が居なくなったあとも使い続けよう」

「業者さんに嫌がられませんか?」


 横槍を入れるのだ、特に霧で仕事も減るような時期に来る邪魔者は排除すると思う。
 たとえ経験があろうとなかろうと、そう思うのは俺だけだったようで。


「むしろ、君のことを歓迎してくれるだろうさ。腕は一流、そして何より自分たちの知らない技術を知っている。それを押し付けることのない意志も兼ね揃えているのだ、何も拒む理由が無いだろう」

「…………」

「君は、君が思っている以上にできる。弁えていたようだけど、その振る舞いはこの街の人々も当然知っている。君のお陰で、希望を抱けた人もいるんだ……ボクもそうだ、だからこうして探偵らしいことができている」

「……お姉さん」


 ふふんっ、と自慢げに胸を……張る彼女。
 疑われてはいけないと平然な顔をするが、観察眼の鋭い彼女からすれば、それこそが決定的な証拠になってしまうようで。


「……ひふぁいふぇふいたいです

「ボクを残念そうに見た君が悪い。これはもう、罰を与えなければならなさそうだ?」

「ふぁふ?」

「その件についてはおいおい。とりあえず、今は君の話を聞こう……二つの霧も、君の助力なしでは解決できない案件のようだ」


 引っ張っていた頬を解放して、彼女はそう告げる。
 罰が非常に気になるところだが……それは後回しにしなければならない雰囲気だ。


「──僕の話は荒唐無稽で、到底信じられないようなものになります。それでも、信じてくれますか?」

「信じよう……なんてことは断定できないがね。君の話を聞き、そのうえで熟考するぐらいはするよ。探偵がしっかりと考えるんだ、それだけで話してみる価値があると思うよ」

「ははっ、そうですね。お姉さんなら、僕の話を基に何かを閃いてくれそうな気がしますよ。だからこそ、信じます。この霧の街が、どういった在り方をしているのか」

「興味深い、ぜひとも聞かせてもらおう」


 月明かりの下、俺はこれまでの経緯をほぼすべて話す。
 迷宮、魔本、現実世界、そして──ジャック・ザ・リッパー。

 それらすべてを話し終えたとき、彼女の感想は──



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