AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とキップル渓谷 前篇
W11 キップル渓谷
俺と彼女が訪れたのは、巨大な橋が架けられた谷だった。
座標的には水上都市と学芸都市の間、そこにこの谷は存在する。
ちなみに橋は有料なので、金を払いたくない奴は降りるか飛ぶしかない。
大半の祈念者は前回のレイドイベントで無料になっているが……俺は当然、有料だ。
普段通り、初心者の服で訪れた俺は忌々し気な目で見られている。
それはこんな場所に居る初心者に向けられたものであり……それ以上の妬みも感じた。
「まあ、目的地は下だから全然問題ないのが実情だけども。それじゃあ張り切って、捜索開始と行きますか!」
「はい、メルス様。護衛はお任せください」
「そうだな。目的地が現れるまでは、レミルに全部任せておく。採取ぐらいしかしないから、そんな俺を守ってくれ」
「畏まりました。この身を賭けて、メルス様の御身をお守りいたします」
今回、俺に同行してくれるのは天使だ。
正確には使徒だが、種族を総称すれば同じことである。
本気モードである甲冑などは装備しておらず、天使らしい白いトーガを纏っていた。
……それはそれで煽情的で、認識偽装が無かったら暴動が起きていたかもしれない。
閑話休題
その腕に取り付けた武具──二枚の盾こそが、彼女の戦い。
専守防衛、防御は最大の攻撃、そういったスタイルを彼女は取っている。
それは、ある意味俺(とレン)のせいでもあるんだけど。
彼女はそれを上手く使いこなし、やり抜いている……賞賛に値するよな。
「じゃあ、崖の下に行こう。普通の方法で降りることはできないし、どうやって移動すればいいのか……」
「よろしければ、私がお運びいたしますが」
「うーん、いきなり頼りっぱなしだな……まあでも、決めたばかりだしな。任せた」
「はい、承りました!」
俺たちは人目に付かない場所へ向かう。
そこで崖の先端まで歩を進めると、レミルがあるモノを取りだす。
それは巨大な盾。
彼女が装備している二つとはまた異なる盾が──持ち手側が上でふわふわ浮いている。
「メルス様より賜った“飛武具装”。ありがたく使わせていただきます」
「制御が大変なはずだがな……お荷物を抱えても大丈夫そうか?」
「お荷物などではありませんよ。ご安心を、必ずやお守りいたします」
そう言って微笑むレミルは、やはり眷属の中でも一、二を争う天使っぷりだ。
ちょっとだけ({感情}が戻さない程度に)キュンとしながら、俺は盾に乗った。
レミル自身は隠していた純白の翼を広げ、崖から落ちる。
それに連動して、一定距離を保ったまま移動を開始する盾。
「本来、崖から下に行くやつって、無抵抗だからな……来るぞ」
「メルス様には触れさせません」
まず出迎えてくれたのは鳥型の魔物。
雀のように小柄な体躯のようだが、その速度は決して遅くはない。
むしろ鈍重な体を持たないため、どの魔物よりも速く辿り着いたようだ。
そして、その勢いのままこちらに突っ込んで来て──どの魔物よりも速く死亡する。
「──“防合”」
レミルは両手に取り付けられた盾を合わせて防御を行う。
ただしそれは左右ではなく前後、重ねるようにして行われる。
彼女の盾『多重絶壁[アルメス]』は、複数枚の盾を重ねて使えるようにしてあった。
俺が今使ってもらっている“飛武具操”の恩恵にあやかり、同時に扱えるように。
レミルの持つ盾は現在、左右で異なる大きさの盾だった。
そして、盾を組み合わせることでその組み合わせによって異なる効果を発揮する。
今回はシンプルに防御性能の強化。
そして、そこに盾と盾を合わせることで発揮される武技による強化も重ねられている。
その結果が自滅。
おそらく防御ごと貫く自信があったのだろうが、それ以上の防御力に防がれることで反動を喰らったからだ。
「──“集攻盾”、“挑鳴打盾”」
次第に追いついてくる魔物たち。
その標的はレミルだけではなく、無防備かつ邪縛によって異常なほど殺したくなる俺も含まれている。
むしろ、俺の方に魔物が多く近づいてきていた──が、レミルがそれを防ぐ。
重ねていた盾を打ち合わせ、精気力を波紋のようにして魔物たちへ飛ばす。
すると、俺に抱いていた敵意や殺意の矛先が強制的に書き換えられる。
その結果、近づいてきていた魔物すべてがレミルの下へ向かうことに。
「──“反物防盾”!」
ガガガガッ! と激しい音が彼女の盾越しに鳴り響く。
何十、何百という魔物たちが突っ込んではその反動に押す潰されて落ちていった。
「いやー、なんともまあ凄惨な光景だな。あえて邪縛を切らなかったのがダメだったか」
「メルス様ご自身を隠す必要はありません。たとえ何物であろうと、通ること敵わず。それこそがレン様が私に刻んだ命です」
「そんな壮大な感じだっけ? まあ、俺はその表現好きだからいいけど」
「す、好きだなんてそんな……嬉しいです」
そんな感じで、俺たちはイチャイチャしながら渓谷の奥底へ向かう。
なぜそこへ向かうのか、それはそこに現れる可能性が高いから。
無いはずなのに有って、在るはずなのに見つからない──そんな霧の都を、俺たちは探していた。
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