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山田 武

偽善者と渡航イベント終篇 その18



 このイベントにおいて、やけに優遇されていたPKたち。
 本来であれば、間違いなくこれ程順調にはイベントは進まなかっただろう。


「拠点となる迷宮まで用意されて、普通よりも優先的にゴールしやすくなるようなアイテムも配布されていた。癒着……みたいな感じだけど、そういうことじゃないんだろうな」

【……あくまでも、それは発現を促すためのようです……】

「固有スキルの発現、そして『侵蝕』の進行度の加速をな。相手の方が強いわけだし、殺しても許されるPKだ。罪悪感は薄れ、覚悟は決まり、力の本質に手を伸ばす……適合もしていない力にな」


 PK側に混ざり、情報を集めてもらっていた『陽炎』の最終報告を聞き取る。
 罪を犯した祈念者しか見れない[掲示板]の情報など、参考になった情報は多い。

 中でも、イベントが始まってから知られていた懸賞金に関する部分は役だった。
 ユウやアルカも含まれていたので、予め隠す準備ができたからな。

 彼女たちが邪魔をされないよう、早め早めの解決を目指した結果がアレだ。
 ……まあ、さすがに戦艦で突っ込まれていたら多少は苦戦しただろうしな。


「それで、最後の計画はどうなってる?」

【……『聖女』が最終日に行うライブに合わせ、行われるようです。イベント終了後に街は直すので、思う存分暴れるようにと……】

「ふーん、これが他の『選ばれし者』を標的にやっていたら別に無視して傍観していたんだが……お嬢さんを狙うんなら、俺も少しばかり力を出さないとな」


 まあ、本当は俺が何もせずとも、お嬢さんと親衛隊でどうにかするだろう。
 しかし、親衛隊を壊滅させたり、お嬢さん諸共死に戻りさせてしまった現状だ。

 眷属になったお嬢さんを、俺は主として支えたい保護欲に駆られている。
 眷属って基本ピンチにならないから、こういう機会って全然無いんだよな。


【……いかがなさいますか?……】

「契約は契約だ。最後はお前の自由にしたらいい、いっそのこと俺に挑んで下克上……というのも面白いかもな」

【……契約が続く限り、貴方様こそが主でございます。逆らうなどとんでもない……】

「俺がそれを求めている、そう言ったらどうするんだろうな。まあ、下克上をしたときにはお前の姿でも要求しようかな……なんて、別に自由にしていい。これが命令だ」


 俺と『陽炎』は、アイテムを提供してその試供を行う関係だ。
 そんな関係なので、多少の頼みは聞いてもらっているが……それ以上は踏み込まない。

 だが、敵対したのであれば、そんな関係もいったんは解消されるだろう。
 今まで気になっていた正体を、暴かせてもらっても問題ないはずだ。 


【……畏まりました……】

「さて、俺も俺で動かないとな……とりあえず、これで解散ということで」


 そう告げると、『陽炎』はその呼び名の通り体を陽炎のように消し去った。
 その気になれば気配を見つけ出すこともできるが、縛り中はさっぱりである。

 俺が渡したアイテムで超強化され、並大抵の祈念者では見つけられなくなっていた。
 最強のPKとして象徴になってもらう、そう考えていた時期があったからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──改めて、クラン『エニアグラム』の一人。小間使いのお兄さんです」

『…………』

「お兄さん、もう少し上手い言い方があったと思うわ」

「あー……まあ、そうだな」


 さっそくお嬢さんに連絡を取り付け、顔合わせを……そのファーストコンタクトだ。
 全員が、俺の腰の辺りを見ている……提げてきたからな、妖刀を。


「……確認をしたい。その刀、どこかの店で売っていた物か?」

「いや、これは自前だが。この世界に一本しかない名刀、それがこれだ」

「ならば、特殊なスキルなどはあるか? たとえば……そう、使っている間のみ人格が豹変するといったものが」

「何言ってんだ? 俺たち祈念者は、そういう精神干渉はカットできるだろ。それに、そういうスキルは無いぞ」


 祈念者はアバターを使っている関係上、完全に精神干渉に嵌るわけではない。
 あくまで肉体がその効果に引っ張られるだけで、実際は何にも影響は及ばないのだ。

 ……その例外が『侵蝕』だし、しっかりと策を講じれば簡単な精神干渉は通じるが。
 魅了とか洗脳とかはほぼ不可能で、恐怖とか怯懦などは割と簡単だぞ。


「ならば、二重人格──」

「もういいじゃないの。それよりも、今はお兄さんの持ってきた話を聞きましょう?」

お嬢様・・・……分かりました」

「というわけで、待たせたわねお兄さん。その話、みんなに聞かせてちょうだい」


 呼び方が変わっているのは、ここに来た時から気づいていた。
 付き物──『侵蝕』が取れて、関係を改めようとしている意思表示なのだろう。

 ともあれ、そんなリーダーやその他の親衛隊たちに『陽炎』からの情報を伝える。
 驚いた様子は無いが、怒りを覚えているような感じだった。


「こういうことには慣れているもの。爆破予告、殺人予告、ストーカー、他にもいろいろとあったわね」

「おおっ、そりゃあ怖い。だからこんなにも慣れた感じなのか」

「……貴方もまた、その一人ですよ。お嬢様に手を出したら、どうなるか」

「はいはい。まあ、これまでのことは水に流せなくとも、一時の協定と行こうぜ。俺のことは信用できずとも、それ以外のクランメンバーが優秀なことは調べがついているはず。俺じゃなく、アイツらを信じてやってくれ」


 シャインだけは微妙だが、他の奴らは親衛隊のチェックも通過できるだろう。
 幸い、対策を整える時間はある……最後の計画を、台無しにしてやろうじゃないか。



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