AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント終篇 その12
彼女の選んだ階層は、文字通り魔物が無尽蔵に出てくるという特殊な場所。
人造迷宮なので、ある程度安全は確保されているが……それでも危険な場所だ。
「──お二人とも、こちらを」
「これは?」
「リゾー島の迷宮でのみ、使うことのできる特殊な魔道具です。魔道具が致死攻撃を身代わりしてくれた後、この場所まで強制的に転移してくれます。安全のため、必ずこちらを持っていてもらう規則です」
「分かりました……持っていてください」
クラーレは受付が持ってきた魔道具を受け取り、その片方を俺に渡す。
黙って受け取り、罠を利用した転移陣の上に乗って目的の階層へ向かった。
「うわぁ、いきなり魔物ばっかり……」
「しかも、ほぼすべての位階が7以上……」
「そりゃあ人気も無いよな。迷宮だから必要最低限の素材しか落ちない、経験値もさして無い。あんまり実入りが無い分、ここまで空くわけだ」
「ですが、こうして来る人もいます。メルスには、わたしの護衛をしてもらいますよ」
そういうわけで、俺はクラーレを守るべく武器を手に取る。
大した武器は使えないので、俺が信じるのは──己の拳だ。
「──『土堅』、『真呼吸』」
精霊術、そして難易度の高い気魔闘術の武技で準備を整える。
その後、クラーレから支援魔法を受け取り事前の用意は万端となった。
「──“反射保膜”。これが最後です」
「了解、ならやるぞ──『波導弾』」
構えは某かめはめ(略)。
引いた手に魔力と精気力を注ぐと、魔物の居る方へ放つ。
狙いなど付けていない……が、弾自体が魔物たちを捉えて軌道を変える。
必中の魔弾、そんな性質が与えられているため、初撃は見事に命中した。
そこからは、ただひたすら魔力と精気力を絞り出して前に撃ち出す。
これもまた、先ほどのイメージと同じ作品からパクった感じで連続して撃つ。
「ふはははっ! 連続死ね死ね三サイル!」
「……ツッコミ辛いのですが」
「ひゃっはー! なら、いっしょに楽しめばいいんじゃないか!?」
「いえ、遠慮しておきます」
一蹴されてしまったが、変わらない勢いで魔物たちを駆逐していく。
精気力を絞り出す関係上、高揚している方が生成が速いからな。
モチベーションで身力の回復は上がる。
生命力は少し別枠だが、魔力や精気力は想いに応じて高まることが多い。
今の俺は{感情}が内包する想いに引っかからないよう、制御しながら心を弄っている。
強制的な平凡化が起きる寸前で固定し、頭がパーなヤツを意図して演じていた。
──そうでもしないと、残念ながら今は彼女を守り抜くことができないからな。
「準備ができました!」
「オーケーっと──『軽気功』」
気功、精気力を加工したエネルギー。
それを自身を軽くするものに変換して、その身を浮かせて勢いよく跳躍する。
「行きます──“煌槍”!」
クラーレが放ったのは輝く槍。
それだけなら、倒せる魔物の数は数体程度だっただろう……が、俺が戦っている間により多くの魔物を屠る準備を終えていた。
輝く槍は複数の面を持った鏡にぶつかる。
魔法によって生成されたそれは、同じく光で構築された魔法を受け止め──勢いを損なわないまま、無数に拡散させていった。
鏡は一つではなく、複数配置されている。
当てれば当たるほど増え、なおかつそのエネルギーは減衰することなく真っすぐ鏡にぶつかる度に増幅していく。
「……全滅したな。それじゃあ、帰るか」
「はい、そうですね」
結果、魔物はすべてクラーレの魔法に殺られて消えていった。
人造迷宮なので、予め出す量は絞られていたため魔物の生成は停止している。
なので、これ以上何かやることもないので今日はここまでだ。
二人で行きに乗った罠を使い、迷宮の入口へ帰還するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
戦闘自体はすぐに終わったので、まだ空は青いままである。
なので次に行く場所を、俺たちは求めて移動を再開した。
「どうしてどこも決めていないんですか」
「そっちにお任せだって話だっただろ? クラーレが行く場所を無くした時点で、こうなることは決まっていたわけだ」
「なら、どこかに行きましょう……浜辺なんてどうですか?」
「そこはイアと行ったな」
それからの流れはお察しのもの。
どこを提示しても、誰々と行ったと言い拒否をする【傲慢】な俺。
さすがのクラーレも、なんだかこめかみの辺りがヒクヒクとし出していた。
「……逆にどうして、他の誰も迷宮には行かなかったんでしょう。なんだか、自分が脳筋だと遠回しに言われたみたいです」
「一番行きそうなアルカの時は、まだ部屋に監禁されていたからな。他は至って普通の場所を選んだし……まあ、クラーレは特別ってことだよ」
「そんな特別要りません! ……ハァ、ならどこならいいんですか?」
「別に……こうして歩いているだけでいいんじゃないか? もちろん、クラーレがどこかに行きたいなら話は別だが。ほら、迷宮に行く前に話した通り服屋でもいいし」
だが、彼女は目線を逸らす。
合わせようとしても、何度も頭を動かして目を合わせようとしない。
「……とりあえず、服屋に行くぞ」
「えっ? なんで……強いです! 離して、離してください!」
「俺が変質者みたいに思われるから止めてくれないか……声を大きくするなよ! ほら、速く行くぞ!」
「離して! わたしは別に服はこだわってないんです!」
抵抗するクラーレを服屋に連れて行き、日が暮れるまでコーディネートした。
その後、衣装を『月の乙女』のメンバーに見せて……その日は解散となる。
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