AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント後篇 その19


 なぜ、彼女が接近戦を挑むのか。
 鑑定眼を発現させている右目とは別に、左目で未来眼の運命的未来視を行い暴くことができた。

 何もしなければ絶対に起き得る未来を視ることができる神眼だが、その成功率は低い。
 だが、今は敵として相応しい振る舞いができる……行動の成功率が極めて高いのだ。

 敵役とは、一度は徹底して主人公を叩きのめすものだ。
 それゆえに経験を糧として、パワーアップして勝利する……王道のイベントだろう?

 俺のスキル[因果報復]は、俺自身をクソ雑魚にする代わりに行動の成功率を上げる。
 そこに回避や防御系のスキル、そして根性系のスキルが合わされば異様なタフさだ。

 そして、そこに[神域到達]を重ねることでリキャストタイムなどの制限も失われる。
 要するに、勝つことは難しいが厄介なほどに生き延びる……それが今の俺なのだ。


 閑話休題ウザいヤツ


 話を戻すが、彼女が近接戦を行うのはそれが一番勝率が高いからだった。
 彼女は現在、従魔のスキルや職業の恩恵も同時に受けている。

 戦闘、非戦闘問わず無数の職業に就いている従魔たち、それらすべてを使えるカナ。
 付与などの支援同様に、対象という概念が今の彼女が使う能力においては曖昧だ。


「──とはいえ、当たらなければ発動しない能力もある。遠距離関係の攻撃を近距離で使うことはできても、その逆はできない。同化による理の無視も、不可逆な概念までは認められなかったのだろう」

「…………」

「あるのだろう? 俺を一撃で倒す術が、だからこそ一矢報いようとしている。とはいえ現状では、掠りもしていないのだがな」


 未来眼が視た未来において、俺は直接触れられることで絶命していた。
 接触しなければいけない能力、それを隠すための鞭での近接戦闘なのだろう。

 知っているか知らないか、それだけで未来は大きく変わり得る。
 二振りの剣の内、一本に宿す魔導を俺は切り替えた。


「“魔技直付”、魔導解放──」


 陽光そのもののような黄金の輝きが消失。
 何も映さなくなった半透明な刃を、カナは無機質な瞳で眺め……そのうえで、猛攻を畳みかける。

 俺が何かの策を用意したと理解し、それでもなお予め定めた勝利への方程式を完成させようとしていた。

 俺の動きもパターン化できたようで、剣を振り終えた直後に当てようとするといった巧みな操作が行えるようになっている。

 それは[天華]を呼ぶことで防ぎ、そのまま足を載せて飛ぶことで回避。
 カナは翼をはためかせ、俺を魔法で追撃しながら近づいてくる。

 俺はそれを見下ろし、身力を思いっきり籠めた状態で剣を構えた。
 カナも鞭をピンと引っ張り、そのうえで手にこっそりと力を集めている。


「さぁ、盛り上がっていこうか!」
《魔導解放──“天地闢く開拓の御柱”》

「…………」

「ふはははっ、これで終わりだカナ!」


 上と下から、突如現れた巨大な光の柱。
 それは互いを求め合うように、カナを間に挟む形で物凄い勢いで飛んでくる。

 それらも一瞥したカナは、ただ小さく口を動かすだけ。


「──“主従入場キャスリング”」

「っ……そう来るか」


 先ほどまで見下ろしていたはずの俺が、今は逆に見下ろされている。
 本来、従魔との間でしか使うことのできない入れ替えを、なぜか俺に使っていた。

 能力値が貧弱な俺では、身体能力任せな回避を取ることはできない。
 だが魔法は見下ろしてくる彼女の様子からして、発動しようとしても無駄だろう。

 試しに転移の魔法を試してみたのだが、すぐに魔力が霧散してしまった。
 時間が無い、制限時間で余裕を持っていたはずの俺が今度は追い詰められている。


「最ッ高だな!」
《[天華]──“伸縮自在”》


 侍らせていた[天華]に命じて、超高速で伸びてもらう。
 地面に着いたその瞬間、反動で俺を押し出させることで脱出する。

 このときカナは、俺の下に……来ず、あえて光の中へ──


「──“主従入場”」

「チッ、嵌めるつもりか!」
《[天華]──“透明追撃”》


 再び入れ替わった立ち位置。
 だが、なんとなく予想していた事態だ。

 重ねて命令するのは、本来隠し通す気でいた更なる追撃。
 通常攻撃、[天華]そのもの、そしてこの能力で行われる終の一撃。

 魔力の塊が、先ほどの[天華]の動きをなぞるように伸びる。
 その動きにより、俺は再び光から逃れることができた。

 だが彼女は、それでも光の柱へ向かう。
 これ以上は俺も回避が面倒だし、いい加減どうにかしなければならない。

 精気で宙を掴んで蹴りだし、彼女の下へ駆け抜ける。
 カナの口が動く、言い終える前にトドメを刺そうと──


「──“停戦強体”」

「…………はっ?」


 彼女が告げた何らかの能力は、俺に致命的なまでに作用する。
 あえて自分を餌に誘き出し、発動したそれは俺に戦闘行為を許さない。

 おそらく、何らかの判定で成功した場合にのみ発動可能なもの。
 今の俺は最弱なので、このタイミングでそれを利用したわけだ。


「これで終わりです──“毒牙”!」


 彼女の意思のままに、鋭く伸びた犬歯を俺の首に突き立てた。
 何かが流れ込んでくる感覚、それを覚えた瞬間……意識がかき乱される。

 自分が何をしていたのか、これから何をすべきなのか……すべてが消えていく。
 やがて五感もだんだんと活動を止め、何もかもが真っ暗に染まっていく。

 ──戦闘終了まで、あと■秒。



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