AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント後篇 その01
あれから数日、俺たちのクランは未だに出港していなかった。
大半のクランが船を出し、さまざまな冒険に出ているのだが……それでも行かない。
どうやら天候同様に島だの海流だのが日ごとに変化するようで、情報が役に立たないという話を聞いている。
なので先に出ても後に出ても、あんまり大差がない。
すべては時の運、そして俺の運は凶運……あまり頼りたくは無いな。
「──まあ、そろそろ出るとしますか。競争相手はもう行ったみたいだし、ここまで粘るクランも早々居なかっただろう」
「ようやくかしら……ずいぶんと自信があるのね。もう航海可能期間終了まで少ししかないのに、本当に大丈夫なのかしら?」
俺の独り言を聞いていたアルカが、皮肉気に言ってくる。
実際、航海を終えられずにリタイアするクランなんかも出ているようだしな。
まあ、この情報も運営が後から出してきたことだが、船を出すことができる期間とやらが決まっていたのだ。
イベントの最終日は、また別のことをやる予定らしく……そこでも何かありそうだと、ナックルが言っていた。
すでに浪費した時間は長く、航海ができるのはあと二日といったところ。
──ゴール到達クランの情報によると、最低でも三日は必要な海路なんだけどな。
「そこは俺とお前でごり押しだ。今回は偽善になるから、制限も少しだけ緩める。それに間に合わせるために必要なことは、全員でしてきたんだ……負ける気がしない」
「そう……ならいいわ。その言葉を信じさせたんだから、責任を取りなさいよね?」
「……俺、責任って言葉が──うおっ! まだ最後まで言ってないだろ!?」
「どうせつまらない言葉を聞くはめになってたんだから、これくらいは当然よ」
突然向けられた魔法を躱し、アルカをキッと睨みつけるがスルー。
ここでアルカにへそを曲げられると、負ける可能性も出てくるからな……。
「だいたい何よ、急にまた相手が増えたとか言って。しかも、あの聖女隊じゃない」
「あのお嬢さん、有名だったんだな。俺も仕事状態の姿は見たことがあったんだが、オフの状態は特典でも使っているのか全然認識が重ならなかったんだよな」
「……本当最悪。しかも、目までつけられているなんて。良かったの? 賭けるクランに名前を挙げたら、間違いなく妨害されるって分かっているじゃない」
──お嬢さん経由で、あのリーダーたちに宣戦布告を突きつけておいた。
カナ同様、レースの勝敗で勝者が敗者に何かを要求させられるというもの。
いちおう素性は隠し、あくまでどのクランが一位になるかを競わせている。
彼女たちは自分たちのクラン『聖女様親衛隊』が一位になると言ったし、俺も有名な奴らが多い『エニアグラム』が一位だと賭けている……まあ、どうなるかはお察しだな。
ちなみにまだ出港していないらしい。
お嬢さんから聞いた情報だが、当然だな。
俺たちの方を沈没させて参加不可能にでもすれば、自動的に勝利なわけだし。
カナの方は……本当に不明な状態だ。
終わっているのか、それともまだ出ていないかもこちらは把握しておらず、その辺りも警戒しないとならない。
「まあ、頼れる眷属様たちの御力をお借りするしかないってことで。頑張って優勝でもするとしようぜ」
「……まあいいわ。上位入賞で欲しいものもあるし、全力で行くとしましょう」
「頼むぜ。俺は身バレするとあれだから、行動[ログ]の大半はお前たちの誰かに押し付けるし……」
「そこら辺の事情、正直さっぱりなのよね。まあでも、バレるとアンタが二度と私と戦えないって言うから、仕方なく協力してやっているだけよ。勘違いしないでよね?」
なんか斬新なツンデレっぽいな。
実際のところは、生かしたうえで敗北させたいという挑戦者精神がそうさせているだけなんだが。
◆ □ ◆ □ ◆
PKや[シーノウン]を倒した際、あのときは二隻の船を用意して使っていた。
だが現在、それらの船は使わずに新たに造り上げた船に俺たちは乗っている。
「いざ出航──『アンノウン号』!」
見た目は大きめな帆が付いた木造の船。
素材にはユラルと行ったあの迷宮の大樹が使われているうえ、そう簡単に沈没しないようシステム的にも強化が施されている。
船をスタート地点である浜辺から、ゆっくりと海へ動かす。
浜辺に来ていた祈念者たちは、どうして今さら出港しているのかと不思議がっている。
通説では三日かかるのだから、今さら出しても無駄だろうという考えのはずだ。
しかし、俺たちには秘策があった──俺とアルカが魔力を解放する。
「魔導解放──“移りゆく天なる意気”!」
「『全体構造強化』、『導きの選風』、『果てしなき航路』!」
俺の魔導が発動すると、空は突如として暗雲に包まれ稲光が闇を照らす。
次第に風も吹き荒れ、波も立ち上がりうねりだした。
そして、アルカのオリジナル魔法によってそんな海を船が進んでいく。
船の強度を高め、帆に受ける風を操り、船が通る部分の海だけを安定化させる。
「うんうん、天候は嵐に強制変更。これで最大得点なうえで出港できるぞ」
「……なんとも最低なやり方よね」
「勝てばいいのだよ、勝てば。それにカナはともかく、確実に『聖女様親衛隊』の方は妨害をしてくるんだ。妨害の妨害ぐらい、してもおかしくないだろう?」
荒れ狂う海を自在に駆けることで、速度的にも得点的にも高めることができていた。
このままいけば順調だが、いくつもの問題が残っている……さて、どうしたものかな。
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