AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント中篇 その17
さて、釣りを通りかかった少女といっしょに始めたのだが……。
「全然釣れないわね」
「ああ、全然釣れないな」
「向こうの人、バンバン釣っているわね」
「ああ、まさかのカジキマグロ一本釣り……みたいな感じだな」
俺たちはまったくと言っていいほどに、魚たちに恵まれなかった。
それでも『持つ』奴は、ゴミでも何でも釣り上げてイベントを起こしただろうに。
それもいっさいなく、ただひたすらに時間だけが失われていく。
なんというか、世界がそうアレとでも言ったからこその展開というか……。
まあ、強引に釣ろうと思えば釣れる。
それをやらないのは、俺もわざわざ釣るための動きを面倒臭がって、何もしていないのだろう。
「~~♪」
「お嬢さん、鼻歌か?」
「……あら、お邪魔だったかしら?」
「いや、ただ急だったからな。この暇な時間のBGMには、ちょうどいいと思っただけだから気にしなくていい」
聞いたことのない曲なので、少なくとも有名なアニソンではないのだろう。
他の曲なら……うん、残念ながら俺の知識外の情報なので分からないな。
「パパは知らないの?」
「誰がパパだ、お兄さんと呼びなさい。なんだ、もしかして有名な曲だったのか?」
「……いえ、知らないならいいの。ただ、いろいろとね」
「うーん、知らなかったけど、その音を聞く限りいいとは思うぞ。どういう曲かは皆目見当がつかないけど」
少女が奏でていたのは、ゆったりとした感じの曲だった。
スッと耳に入ってくるし、留まりやすい、忘れづらい曲調だったと思える。
「…………」
「…………」
「…………訊かないの?」
「曲なら聴かせてほしい、どうして今歌ったかは別にいい。どうせ、こんな時間が暇だったからだろうし」
そう答えると、少し黙った後に再び鼻歌を奏で始めた少女。
先ほどと同じ曲なのだが、心なしか少しだけ楽しそうに聴こえた。
「お嬢さんは……楽しいのか?」
「──♪ うーん、それなりに? 歌いたいときに好きなだけ歌いたい、そう望んで始めたゲームだけど……昔よりも、思う存分には歌えなくなったもの。それでも、まったく歌えないよりはマシ」
「そうか……」
鼻歌を止め、少女は俺の問いに答える。
最後の部分は吐き捨てるように言っていたので、何かしら少女にも歌に関する問題でもあるのだろう。
「お兄さんは、逆に楽しいの?」
「俺もそれなりだな。少なくとも、本当に楽しんでいるなら──こんな風に釣りをボーってやっているはずもないし」
「たしかに、その通りね」
「とはいえ、現実よりは自分のやりたいことができている。時間もあるし、しがらみだってない。それに……目に見える力がある」
それが何を意味しているのか、そのくらいは分かるだろう。
ふーんと呟き、竿を揺らし……再び鼻歌を始め──そのうえで言葉を紡ぐ。
まあ、二枚舌スキルなどもあるので、できないわけじゃないのかもしれないが……酸素が足らなくならないのだろうか?
「ワタシはね、お兄さん。力なんて無ければよかったって思ってるの。ワタシは自由さえあれば、それでいいの」
「自由ねぇ……どこまで行っても、自由なんてものは無いと思うぞ」
「それは分かっているわ。本当の意味で自由になったところで、ワタシがやっていけるわけないもの」
「なんというか、それはそれでマイナス過ぎるな。たしかに人間、自由って意味で外の世界に出ても野生の動物……この世界なら魔物に殺されるだろうな。だからこそ、誰も本当の意味で自由になんかなりたくない」
居るかもしれないが、居たとしたらそいつは常人とは異なる常識を持っているな。
どのような環境であれ、人として人の生き方を学べば動物よりも良いと考えるだろう。
自由、程度は違えど一度は考えるはず。
そもそもAFO、ありとあらゆる自由が与えられる世界……ここに来た時点で、自由を求めている。
「お嬢さんの言う自由ってのは、まあ具体的にどういうもんなのか聞いてもいいか?」
「そうねぇ……好きな時に歌えて、衣食住がしっかりとある環境かしら?」
「意外と無難だな」
「無難……なのかしら?」
俺にとっては、無難だと思う。
人が考える理想の自由、それは常識における当たり前をいつまでも維持できることだと思うし。
お嬢さんは俺のような凡人とは、違う環境で生きてきたのだろう。
だからこそ『あたりまえ』を高望みし、先ほどのように強く語っていた。
「たとえばそうだな……お嬢さん、釣りをしていてどう思った?」
「最初は素敵だと思ったけど、やっぱり退屈だったわ。お兄さんがどうしてこんなことをして時間を潰すのか、まったく分からない」
「ありのままで何より。けど、これも自由だからな。要は選択することができて、そこに深い後悔さえ抱かなければなんだって自由意志の下に選んだことになる」
「……だから釣りも、自由なの?」
実際、少女も数ある選択肢の中で俺に絡むという選択をしている。
小さな、本当に小さな選択だ……しかしそれでも、立派な自由だった。
「こんなにつまらない時間でも、俺たちはこうして話している。それも自由だし、そのままお嬢様が俺のことを無視して釣りに没頭するのも自由だったわけだ」
「……難しいのね、自由って」
「だからこそ、あんなタイトルのゲームになるんだよ。何でも自由な世界、こういうこともお嬢さんが悩んでいることも、全部自由を得るための話なわけだ」
「…………もう少し、釣りを続けていれば何かが変わるのかしら?」
そういったお嬢さんの釣り竿、その先でピクリと反応が起きている。
その質問に答えるのは、とりあえず釣り上げてからにしよう。
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