AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント中篇 その15



 イベントエリア 海湾都市


 どうやら[シーノウン]の討伐は無事に成功したようで、もう片方のグループも帰還していた。

 誰がその証である特典を得たのかはさっぱりだが、それはまたいずれ調べればいい。
 今やるべきことはただ一つ──突如行われたお裁きから逃れること!


「……いったい、俺が何をしたというんだ」

「隠していることが多すぎるのよ。というわけで、ユウ」

「僕はいいと思うんだけど……ごめんね、師匠──“私刑ペナルティ”」


 アルカに命じられ、ユウが俺に近づいて触れてくる。
 そして発動するのは、彼女の固有能力である【断罪者】の力。

 本来、業値が0からいっさい変動しない俺にとっては無意味なものなのだが……なぜかそれが機能し、俺の体を拘束する。


「くっ、何故だ……! こんなもの──!」

「師匠、師匠。なんかそれ、テンプレだよ」

「どうして……どうして俺が、こんな目に遭わなきゃならないんだ……」

「それも回想に入る感じだね」


 まあ、なんとなく原因は分かる。
 俺の把握していなかった特典アイテムの中に、業値関係のものでもあったのだろう。

 ユウがそういう能力を使い、逆に通用しない俺に何かしら感じることがあったなら……前回使われた[メディカフ]の手錠同様に、俺にでも力が通じるようにしたのかもな。


「今の師匠はスキル使用不可、それに行動制限が掛けられているから。しばらくの間、そのままでいてね」

「……それが師匠にすることか!」

「何か師匠っぽいことをしてくれたら、それでもよかったんだけど。師匠って、全然師匠じゃないし」

「まあ、それもそうか」


 スキルの使用不可が結構キツい。
 無差別に断ち切ってしまうようで、本当にすべてのスキルが……というわけでもないものの、大半が使えなくなっている。

 予め使っていたモノ、つまりパッシブ系のスキルはまだ使えていた。
 当然アクティブ系は起動できず、パッシブ系も追加で起動することはできない。


「ユウ、お前は救われたな。もしこれ、俺の持つありとあらゆるスキルを無効化するって能力だったら死んでたぞ」

「……それって、僕が?」

「はははっ、何をおかしなことを──お前だけで被害が留まるわけないだろ。もしかしなくても、全生物根絶やしだ」

「……生物って言うところが物凄く怖いよ」


 起動不可能になっていたら、どんな手段を使ってもそれを解除しようと藻掻いたな。
 命に関わる問題でもあったし、余裕綽々な振りもできなかっただろう。

 まあ、実際には何もなかったので過ぎた話である。
 気にしているヤツもいるようだが、もしそうなっても動くのは俺じゃなかったしな。


「──それで、何が聞きたいんだ?」

「あっ、うん、えっと……」

「イアたちから聞いたわ。そっちに従魔師最強のカナが居たんでしょ? そして、アンタは彼女を知っている」

「まあ、知っているな。このことに関しては俺からも言いたいことがあった。ここまでされて吐くのは、なんだか性に合わない気もするが……まあいいさ、言ってやるよ」


 そこからは質問に次ぐ質問だった。
 関係や何を話したかを聞くだけじゃなく、どういう風に戦ったのか、攻城戦イベントでは何をしたのかなどもだ……アルカめ。

 とはいえ、ここがゲーム以上のモノだと考えてくれている眷属たち。
 それなりにぐいぐい聞いてきてはいるが、越えてはならない一線を用意している。

 要はNGワードというか、俺が本気で拒否したくなるような質問はしてこない。
 ……まあアレだ、男女関係がどうとか言われても冷めるだけだしな。


「──それでまあ、最終的に賭けをするわけだ。俺が勝ったら、正式にクランに所属してもらう。というわけで、今回はお前たちにも頑張ってもらいます!」

『…………』

「なんだ、そんな顔をして? まさか、全員揃ってストライキか?」


 いやいや、それはさすがの俺でも参ってしまうのだが。
 賭けに勝てると踏んだのは、俺が本気を出さずとも彼女たちならば勝てると信じてだ。


「なんというか……」
「よくもまあ」
「変な縛りプレイと口調の最中に」
「そんな話にできるわね」

「お兄ちゃん凄い!」
「さすがはご主人様!」
《わ、私たちに懸かっているんですか?》


 賛否両論、というか飽きれと驚きが両極端になっているな。
 純粋かそうじゃないか、そこが分かれ目になっているようだ。


「細かいことはいいんだよ。ともあれ、勝てば優秀な人材を獲得できる。まあ、そもそもクランに所属した特典として、その話で出てきたアイテムの複製はするつもりだったし、嫌がることは無いだろう」

「アイテムの複製って、本当にそんなことができるの?」

「そりゃあまあ──“複製コピー”っと」


 神代魔法である<複製魔法>で、持っていたポーションを二つに増やす。
 目の前でアイテムが増える光景を見て、否定できる者はいない。


「……本当にできるのね? 鑑定結果も同じだし、魔法で増やした反応も無い」

「それが普通の魔法との違いだ。対価として必要とされる魔力が多い代わりに、恒常的に存在可能な複製体を用意できるってわけだ」

「……それ、どうやって習得したのか教えなさいよ」


 この後、完全な私刑で問い詰めようとしてくるアルカを、どうにか他の眷属たちで抑え込む様子を楽しみました。

 ──さて、これで彼女たちのやる気も上げられたかな?



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