AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント中篇 その06



 ティンスに言った通り、予め連絡していたので場所は分かっている。
 今のクラン『ユニーク』は少数精鋭というか多数精鋭なため、イイ場所を取っていた。

 海湾都市では、いくつかの造船会社が鎬を削っている。
 中でもずば抜けて優れている会社と、どうやら『ユニーク』は契約しているらしい。


「……なんというか、ナックルも『主人公』みたいに優れているのか?」

「いえ、クランリーダーはどちらかと申しますと、巻き込まれている感じですね。今回の契約もメンバーが騒動に巻き込まれ、その対処に追われた結果、理解できないままに住んでいたといった感じでしょうか」

「アイツも……苦労しているんだな」

「そう仰られるのであれば、少しばかり負担軽減にご協力願えますか?」


 そう告げる彼女──アヤメさんから目を背け、聞かなかったことにする。
 なんだかんだ、あのクランが上手くいっているのはナックルのお陰だしなぁ。

 俺も知らない間に『侵蝕』しているヤツを止めたり、アヤメさんのような優秀な人材を引き入れたり……そういうことはだいたい、ナックルがやっているみたいだし。


「さて、話はノロジーさん経由でお伺いしております。例のユニーク種、その大規模討伐に関する情報が知りたいとのことですが……現在、その会議が行われています」

「うん、パス。あとで結論だけ聞けばいいから、それまで待たせてもらえるか?」

「……よろしいのですか?」

「ああ。あと、アヤメさんは分かっていると思うけど、俺は呪いと立ち振る舞いのせいで印象がアレだしな……こんな時に、諍いの種が生まれない方がいいだろう?」


 毎度おなじみの邪縛の効果で、俺への好感度なんて初期からマイナスみたいなもの。
 まあ、その原因である<畏怖嫌厭>スキル自体は他のスキルに統合されたんだけどな。

 統合されているけども、スキルの効果自体は未だに健在である。
 ……考え方を変えると、ある意味それも呪いであり祝福でもあるんだよな。

 人が取る最大の否定は無視。
 好きの反対は嫌いではなく、無視という言葉は知られているだろう。

 だが、強制的に嫌悪に近い感情を抱かせるスキルがあれば、少なくとも無視はされないわけで……まあつまりアレだ、関わることはできるわけだ。


「……そう、でしたね。では、少々お待ちいただけますか?」

「ああ、少しと言わずご自由に。邪魔はしたくないから、ゆっくりと決めてくれ。俺はその間、ここでまったりとしているから」

「ここで……ですか?」


 大手の造船所はロビーなども完備しているので、俺とアヤメさんが居る場所にソファーなども用意されている。

 その一角を借りて、時間を潰すつもりだ。
 幸いにもやることはたくさんあるし、ナックルが来るまで時間はたっぷりある……迷惑にならない程度に遊んでいよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 アヤメさんに連れられたナックルが見た光景は、間違いなく違和感だらけだろう。
 なぜならソファーで寛ぐ俺を──生産者たちが敬っているのだから。


「……これ、どういう状況だ?」

「おおっ、ようやくナックルが来たか。というわけだ、我はこれにて失礼しよう」

「我? ……ああ、そういうことか」

「うむ。ナックルよ、早う案内せい」


 認識偽装(+[撮影]NG)中なので、口調を変えれば俺という存在は隠せる。
 それをすぐさま察してくれたナックルは、そのまま俺を連れて行ってくれた。

 追い縋る生産者たちには、全部後のことはナックルにと伝えておく。
 ギラついた視線と恨みがましい視線を向けられながら、この場を後にした。


「……お前というヤツは、どうしてああもやらかすのが上手いのやら」

「俺はただ、このボトルシップを暇潰しに製作していただけなんだけどな」

「…………なんだよ、この究極に男のロマンがてんこ盛りな鯨型の船は」

「何って、一万分の一スケールの超巨大迷宮兼『超越種』の『宙艦』さんだよ」


 もちろん、これを正直に話したらどういう反応をするかは分かっている。
 これまでの視線などすぐに忘れ、俺の肩を掴み横に並ばせた。


「おいおい、水臭いじゃないか兄弟! こんなとびきっりの情報どうして今まで隠してきたんだ!」

「……お前を見るアヤメさんの反応で分かるだろ? 予定を全無視して、俺から得た情報でそこを目指すだろ」

「そ、そんなこと…………ないぞ?」

「間がすべてを物語ったな」


 とはいえ、いつもお世話になっているナックルには本当に感謝している。
 情報に関しては、後で手紙にしたためて送っておくつもりだ──アヤメさんに。

 いちおう[メール]で超重要な情報のやり取りはしないと決めているので、彼女にも絶対に[メニュー]関連のシステムに情報を入れないようにしてもらわないと。


「──さて、これは後で渡すから真面目な話でもしよう。ナックル、ユニーク種の大規模討伐に関することだ」

「ん? ああ、大手クランはだいたい合同でやるぞ」

「名前とかはどうでもいいんだが、問題がいくつかあってな……たぶんだけど──戦闘中にPKの邪魔が入るぞ」

「マジかぁ……詳細を教えてくれ」


 俺としても、頑張って彼らにはユニーク種の討伐に成功してもらいたい。
 そのためには、こういう情報も事前に流した方が面白いだろう。

 ──とはいえ、いろいろと出し渋りはするけどな。



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