AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント中篇 その03



 PKたちはどうやら、船の製造を防げるかどうかも気にしているようだ。
 まあ、海のユニーク種[シーノウン]は、一定数船が出来上がらないと無敵だしな。

 だがそれ以外にも、運営から公式のイベント内容として挙げられているようで……。
 つまり、彼らにとってこのイベントは必ずしも海を目指すものではないのだ。


「──ご苦労だったな」

【……では、これにて……】

「ああ、しばらくは自由にしてくれ」


 俺にそういった情報を伝えに来た『陽炎』に礼を告げ、この場を去ってもらう。
 残されたのは俺だけ……今回のイベントはなんだか、暗躍寄りなんだよな。

 近くに迷宮も、素材らしい素材が得られる場所も無い。
 ただPKたちの根城になっていた隠された洞窟の中、俺は魔本を捲る。


「呼ぶか……“眷属召喚:アン”」


 ユラルと迷宮を攻略中に、今回の縛りについて話したのだが……目から鱗な言葉を聞いたので、白の魔本もイベント中に多用することを決めていた。

 召喚陣が目の前に展開され、洞窟内を照らす魔道具よりも白く輝く。
 現れるのはアルビノの要素を持つ、死んだ魚のような目を──機械的な目を持つ少女。


「──おや、今回の縛りでは契約したモノしか呼ばないのでは?」

「ユラル曰く、婚約とは婚姻契約の略称らしい。ハーレムの主として、たまには甲斐性が見たいとも……全部知ってるんだから、言わせなくてもいいだろうに」

「ふふっ、それこそが甲斐性というものじゃありませんか。なるほど、分かりました……メルス様の嫁が一人、アンもまた婚約者として馳せ参じてもおかしくありませんね」

「死んだ魚の目、まったく変わらない抑揚で言われてもなぁ。もちろん、そこがまたアンの可愛らしいところだと思うけど」


 彼女は機人として受肉した存在だが、元は俺の現在の種族が生みだした補助人格だ。
 だからだろうか、今なお俺は彼女に浅層意識を常に読み取られている。

 うちの眷属は、なんだかんだ俺の考えを把握しているヤツが多いのだ。
 まあ、口下手な俺なので、ありのままの想いを分かってもらうのは速くて助かるが。


「本来のメルス様であれば、そういった思考にならないかもしれませんよ?」

「まあ、{感情}のせいかお陰が、そう思えているんだからそれでいいだろう。それに、こうして眷属たちとずっといっしょに居るんだから、今さら現実の俺と同じ思考になったとしても、さほど気にならないと思うぞ」


 想いが一定量を超えると、自動的に通常状態にリセットされる現状。
 だからこそ、眷属全員と付き合えていると思っていた時期もある。

 そういうときも眷属は、いろんな形で俺を安定させてくれた。
 ……その想いに応えたい、少なくともこれだけはどんなことがあっても曲げない。


「なるほど、とても素晴らしいお言葉です。わたしの好感度もぐーんと上がりました」

「……そうか、こちとら物凄く恥ずかしいのに全然リセットされなくて頭がグルグルだっての。本当、都合よく働いてくれないな」

「いえいえ、その羞恥心もまたとても好ましいですよ。ええ、ええ、とても興奮してきましたよはぁはぁ」

「だから、抑揚をだな……」


 気軽にボケとツッコミを行うあたり、こういう会話にもずいぶんと慣れたものだ。
 ……現実ならこんな美少女と会うことすらないというのに、贅沢になったよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 捨て去られた廃機所


 アンと共に訪れた迷宮は、機械の部品を集めることができる場所だ。
 ここの周囲もそういう研究所っぽかったので、ここを基に機械を発達させたのだろう。

 とはいえ、機人に関することばかりだが。
 あくまでも自分たちのためにできた技術、その一部を流用させる代わりに何かを得ていたのだと思われる。


「そういう細かい話は、お前たちに任せるとしようか」

「さて……いかがなさいますか?」

「うーん、さして困らなさそうなことはよく理解できた。チート過ぎじゃないか?」

「いえいえ、それを可能にするためにはいろいろと手順が必要ですので。祈念者でもできる者にはできる、そういうものですよ」


 現在、俺たちの目の前には迷宮の力で再起動した機械たちが群れを成していた。
 装備している機械を使って、探索の妨害をする……はずだったのだろう。

 しかし、アンがさっと何かをしただけで、機械たちは俺たちに道を譲った。
 通路の壁に沿って並び、微動だにしていないのが何よりの証拠である。


「まあ、神性機人だしな。こういうことができても、おかしくはない……のか?」

「権限の主張を行い、指令者として指示を彼らに出しただけですよ。この程度、メルス様のお風呂を覗くことに比べれば容易いことでしょう」

「そんなに簡単なのか……というか、そんなことせんでもいい」


 全然凄さが分からないが、まあ彼女基準で簡単といっても凡人がやるなら激ムズだな。
 結局俺にはできないことだと割り切り、今後の予定を決める。


「とりあえず、これは全部の機械に通用しているのか?」

「残念ながら迷宮に直接コントロールされている機械、つまり階層なんちゃらといった役割持ちには効いていないでしょう」

「なら、そこからはちゃんとやろうか。とりあえず……漁るだけ漁ってから」

「はい、そうしましょう」


 というわけで俺たちは、機械もこき使って迷宮の中を暴きまくり……それからようやく攻略を再開したのだった。



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