AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント前篇 その20



 結論から言ってしまうと、神気の充填を受けたユラルは大樹の操作に成功した。
 真っ赤にした顔を必死に俺から背け、勢いのままに大樹を──圧し折ったのだ。

 どういう理屈かはさておき、お陰様で大量に素材を獲得できた。
 ……忘れているかもしれないが、この迷宮は外で得られない素材を得るために在る。


「大樹丸々一本を使った船……こんな物を製作したらいったいどうなることやら」

「メルスン、やらないの?」

「うーん……まっ、気分次第だな。ちなみに今はやらない方向で。だって、絶対に目立ちすぎるだろうし」


 造船所を借りられた者たちの中には、自由民が持っていた特殊な竜骨部品を使ってもらえて巨大船を製作できる……なんて話もあるらしいけども。

 祈念者だけでなんとかするなら、まずその竜骨部分を得なければならない。
 特に大切な、船の骨格を支える部分……ここは一本の樹から作らなければ。

 だからこそ、迷宮の大樹のようにいろいろと規格外な樹を探さないとならない。
 まあ、『深緑の森林』もあるし、どうにかなるとは思うけどさ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 海湾都市 造船所


 ユラルには帰還してもらい、独りで帰ってきた造船所。
 すでにイアが連絡していたようで、他の眷属たちも集めっていた。


「……アルカのヤツ、張り切ってますなぁ」


 そんな彼女たちは、現在造船所を襲う触手と戦っている。
 ……いやいや、そういう如何わしいことR18ではなく、純粋に戦闘を繰り広げているのだ。

 相手はユニーク種、しかも守るべきモノは触れられただけで損壊確定。
 だからこそ必死で、それこそ柄でもない防御魔法なども使ってアルカが防いでいた。

 他の眷属たちも、あの手この手でユニーク種──[シーノウン]を牽制している。
 お陰で造船所は壊されず、どうにか船の政策が進んでいる模様。

 ……つまり、俺の方にはまだ誰も気づいていないということ。
 ならば、とこっそり彼女たちの視線に入らない場所へ移動しておく。


「ここでいいか──来い」

【……お呼びでしょうか……】

「まあ、用事があるから呼んだな」


 俺が影に向けて声を掛けると、現れたのは陽炎のように姿が歪んだ祈念者。
 俺はその祈念者──『陽炎』に対して、呼びだした用件を伝える。


「まず、これまでも情報を流し続けていたことに感謝する。これはビジネスパートナーとして、当然の礼儀だ」

【……お気になさらず……】

「俺のロールプレイにも乗ってくれるし、リヴェルみたいにツッコミをいちいち入れてこない……まあ、アレはアレで面白いから別にいいんだが」


 三人の裏方組の中で、もっとも最初に相対したのが『陽炎』だ。
 それから俺がアイテムを提供する形で、さまざまなことを手伝ってもらっている。

 アイテムのテストだったり、有力な祈念者の捜索だったり……多岐に渡った。
 水着イベントの時も、復讐者君に仕込みをしてくれたしな。


「さて、挨拶みたいなものはここまでにするとして、ここからが本題だ」

【…………】

「お前から貰った情報の中に、PKたちの企みがあったな。まあ、お陰で大半の迷宮は確保できたし、狙ってきたPKたちを撃退することにも成功した」

【……それは何より……】


 自分でも調べていたが、『陽炎』から流される情報を基にしていることが多い。
 こいつはPK専用の[掲示板]も利用しているので、掴みやすいというのもあるけど。


「そんな情報を参考にして気づいたんだが、PKたちは一般の参加者よりも少し優遇されているように思えた。今回のイベント、今まで物よりも少しきな臭いんだよな」

【…………】

「その情報を知りたい。とはいえ、運営の裏事情を暴けとかそういうことじゃなくてな。PKたちの根城、それはおそらく海の向こう側にあるんだろう。そして、こっちと向こうで移動する手段がある。それを暴いてくれ」

【……報酬は……】


 俺と『陽炎』はギブアンドテイク。
 リヴェルはネタアイテムでいいし、もう一人の【暗殺王】も最悪金を払えば大抵のことはやってくれる。

 だが、『陽炎』だけは違う。
 本当にコイツが望むモノを提供しなければ動かない……現に何度か、依頼を断られたこともあった。


「前にも言ったが、正直俺が独りで頭を使って作れるようなモノはほとんど作った。だから、こちらから出すのは──望んだことを叶える(小)だ」

【……小……】

「できることの限度みたいなものだ。今までみたいなアイテムが欲しい、ならそれだな。何か望みがあるなら言ってみてくれ。それが俺にとって小レベルで可能なら、今回の報酬はそれにするってことで」

【……では……】


 俺が問うと、『陽炎』は自身の望みを教えてくれる。
 ……考えてみたが、俺にはその意図が皆目見当がつかなかった。


「できるかできないか、ならそれはできる。けど、本当にそんなことでいいのか?」

【……それを望む……】

「……分かった、細かいことは聞かない。望まれて、それが俺にとって不都合でなければ叶える。それが偽善者ってものだ」


 そんなこんなで、『陽炎』と俺は一つの約束事をした。
 ──間違いなく、このイベントに影響するであろう約束を。



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