AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント前篇 その18



 寄生樹というユラル作の樹木に乗って、楽して木登りを真っ最中な彼女と俺。
 生長に限界があったので、何度か乗り換えながら上へ上へと昇っていく。


「ふぅ……ここじゃあ、生物系の従魔は召喚できそうにないな。ずいぶんと上まで来たから、全然酸素も無くなってるし」

「メルスン、本当だったらメルスンだって危ないのにそんな普通でいいの?」

「……開き直るっていうか、お前たちを相手取るのに普通じゃダメだしな。異常でもなんでも、いや異常だからこそお前たちとの関係が保てているようなものだし」

「うーん、否定したいけど……やっぱりその通りな気がするよ。メルスンの中身はともかく、普通の人だったら持たないもんね」


 常人が絡めるのはせいぜい数人。
 俺だって、{感情}から始まるチート集が無ければ、そもそも友好的な関係なんていっさい築けなかっただろうし。

 俺が[不明]に至るような、おかしく狂いまくった偽善ができたからこそ、こうして繋がりが保てていると思っている。


「持たないって自覚があったのか?」

「そりゃあね。私だって、世界樹から嫌われているから、そのことでメルスンたちに迷惑が掛かるかもって思ってたんだよ?」

「全然問題ないだろ?」

「うん、思っている以上に。というか、メルスンが迷宮とはいえ世界樹を創っちゃうから余計に。なんかもう、いちいち気に掛ける方が負けかなーって」


 彼女が持つ固有スキルの影響か、彼女は忌み嫌われそのまま封印されていた。
 だが俺は彼女と契約し、その束縛から解き放ったわけだ。

 まあ、根本的問題をまったく解決していない辺り、さすがは偽善なわけだが。
 そして彼女が言った通り、世界樹を創ってみたら……いろいろとあった。

 ユラルと接触させたら、一時的に迷宮が暴走したのである。
 なのでそれを眷属たちと鎮圧、その結果ユラルと少し仲を深められた。


「俺は眷属が嫌そうな顔をしているのを見るのなんてごめんだしな。可能な限り、いつもありのままの姿を見せてほしい。そのためにできることを、やっているつもりだ」

「うーん、こういうときありのままの姿って言われて、裸になった方がいいのかな?」

「……ははっ、面白いジョークだな。そんな嬉しいことをしてくれたら、お礼に新しい服でも用意したくなるよ。意味の分からないデザインの着ぐるみなんてどうだ?」

「遠慮しときまーす」


 なんて会話をしている間も、寄生樹は迷宮である大樹のエネルギーを吸い取って生長し続けている。

 限界まで伸びたら乗り換え、それを何度も続けている内に……最上層に辿り着く。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 天辺……よりも少し下、細いけども足場になるぐらいに太い枝に着地する俺たち。
 上にはこれまた巨大な実が生っており、そこから迷宮核の反応を感じ取った。


「さて、守護者はどこかな……上か?」

「あっ、もしかしてアレじゃない?」


 ユラルが指さすその先には、突如立ち込めた黒雲が……。
 うん、物凄い雷鳴が轟いているし、その中に居るのだろう。

 しばらくすると中から雷を迸らせる球体が現れ、それが罅割れる。
 そこから雷マークのような羽ではばたく、白と黄色のツートンカラーな鳥が現れた。


「……『轟雷鳥ボルテックバード』、だな。守護者だから迷宮の強化もあるし、フィールド効果で無尽蔵に雷を供給できる厄介な相手みたいだ」

「倒す方法は?」

「そうだな……狙撃、体内電気の全放出、先に迷宮核を破壊するとかだな」

「最後のはメルスンの目的が台無しだからダメだよね。えっと、なら狙撃か電気を出せばいいのかー」


 そう言うとユラルは、周囲に種を落として急速に生長させる。
 筒の形をした樹、内側では魔力を溜め込んだ実が生っていた。


「──『砲樹』、発射!」

「……うわぁ」


 上に向けて花火のように飛んでいく果実。
 轟雷鳥はそれに気づき、文字通り雷の速度でそれらを躱す。

 果実は轟雷鳥の迸る雷を浴び、空中でそのまま爆発する。
 それによって威力が分かる……ユラル、全力で殺す気だなー。


「俺も何か手伝うか?」

「今は召喚士って縛りなんだっけ? それなら、支援魔法を頼んでもいいかな?」

「了解、適当にやってみる」


 とはいえ、支援しようにもユラル自身が強すぎるのでさしえ効果は無いだろう。
 なので対象はユラルが出した砲樹、そこに速度強化やら硬度強化などを注いでいく。


「あとは命中率か──“命中補正ポイントヒット”。これはユラルにも掛けておくぞ」

「うん、ありがとう。これなら行ける……かもしれない!」

「正直で何よりだ」


 轟雷鳥はずっと上空でホバリングみたいなことをしているので、こちらもひたすら打ち続けるしか無いんだよな。

 うん、向こうも分かっているのだろう。
 もし枝──植物が存在するこちらに来たその瞬間、ユラルが即座に捕縛して体内電気すべてを強制的に奪われると。


「おっ、一発当たったなー」

「それでも落ちてこないね……うーん、こっちに来てくれれば早いのに」

「向こうも向こうで、死にたくないんだろうよ。核を狙わない限り、上から雷を降り注ぐだけなんだろう」


 そう、轟雷鳥は轟雷鳥でちゃんと攻撃をしている。
 だがそのすべてを、ユラルがこの大樹を操り動かすことで防御していた。

 ……ここもまた、攻略が終わるまで時間の問題だろう。



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