AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント前篇 その13
ティンスとオブリとは別れ、また次の目的地へ向かう。
彼女たちは船大工の手伝いをして、完成するであろう船の強化を図るとのこと。
まあ、ゲームでもよくあるよな。
職人の方を強化することで、なんやかんやで完成するアイテムの性能を上げられるってシステム……成長するのは当然だろう。
「──というわけで、造船所担当のこっちの手伝いに来ることになった。まあ、あまりハメを外し過ぎないようにな」
二人が船大工探しをやっていたように、他のクランメンバーで造船所を確保しようと動いていた。
予め担当者たちがどこに居るのかは分かっていたので、俺はその二人の下へ合流して参加することを告げる。
「ハッ、ご主人様のご命令のままに!」
「……そういう態度がダメなのよ」
「何か言いたいことでもあるのか? お前こそ、その魔本を事あるごとに自慢するのは止めてくれないか?」
「…………は、ハァ!? そ、そんなことしてないでしょ! 勘違いもいいところ、その曇り切ってる目を磨き直してから言え!」
現在女性なTSドMのシャイン、そして元はソロで男のふりをしていたイア。
ある意味正反対な彼女たちが、造船所の確保を担当していた。
「おーい、口調が荒いぞイア。俺としては魔本は大切にしてもらっている方が嬉しいし、別にいいと思うぞ。貴重な職業結晶を使った甲斐がある」
「……悪かったわね。そこのバカのせいだから、気にしないで」
「シャイン、お前も事実を言われただけでそこまで怒るなよ。どうせそれもご褒美、とか言い出すだろ」
「いえ、それはご主人様から賜ったときのみですので。有象無象に言われても、不快感を覚えるだけですが?」
なんともまあ、ナチュラルに煽るな。
もしかして傍から見た俺って、これ以上に酷いことを呼吸でもするかのようにペラペラと言っているのだろうか?
再びメンチを切り合う二人に、軽く溜め息が出そうになるがそれを堪える。
まあイアはともかく、シャインがああなのはある意味俺のせいでもあるしな。
「それで、二人はどこまでやったんだ?」
「「…………」」
「ああもちろん、そういう意味じゃないぞ。どこまで造船所に近づけたかって──」
「「分かってる(ます)!」」
やっぱり怒らせてしまった。
補足しておこうと思っただけだが、こういう小さなお節介というのも俺の場合は好まれないようだ。
◆ □ ◆ □ ◆
結論から言うと、さっぱりだった。
やはり数が限られている造船所を確保しようとする集団は多く、大なり小なり存在する造船所は確保されていたそうだ。
大手クランが全部を牛耳っているのかと思いきや、どうやら少数クラン救済のサービスなのか、特定の造船所は一定人数以下でなければクエストが発生しないらしい。
……何が言いたいかというと、そういう場所もすでに確保されているとのこと。
元『選ばれし者』候補のシャインが居ようと、ダメなものはダメなわけだ。
「──なら、大工に造船所を造らせるのはどうだ?」
「もう試してあるわ。でも、どこもそういう人材はもうとっくに雇われている。あと、単純に造るなら時間が掛かるから、それもそれで出遅れる要因になるわ」
「まあ、タイム測定はそれぞれ別だから、最後に間に合えばいいんだけどな……それはそれで人が集まって、妨害とかをされそうになるだろうけど」
調べた情報によると、別に同時スタートではないらしい。
究極的な話、今すぐ俺が船を造ってスタートしても別に問題ないのだ。
まあ、それはそれで必ず海に潜むユニーク種が立ちはだかるだろうけど。
視ておいたのだが、一定数の船が出来上がらないとほぼ無敵状態だったな。
「それで、こんな行き詰った状況で二人はどうしようと思ってたんだ?」
「……行き詰っているんだから、そういう状況だって分かるでしょう。何かないか話してたら、最後には必ず口論になるだけ」
「シャイン、お前は?」
「ご主人様の言葉でも、他の奴と仲良くするのは……」
どうしようもないな、本当に。
別に、強制的に仲良くしてほしいわけじゃないし、むしろ喧嘩で育む絆もあると河川敷のアレっぽいことも期待はしているがな。
「……ふぅ、どうするかな。俺の知る限り、こればかりはどうしようもな。間借りするでもいいし、いっそのこと奪い取るってのも無しなわけじゃない。ただ、やるならやるで犯罪って覚悟が必要だしな」
「ご主人様お望みとあら……あ痛ッ」
「んなことやっても、俺の偽善の邪魔にしかならないから却下。俺が全部やるならもんだいなしだけど、それってつまりは俺が居ないとお前らが何にもできないってことの証明になるからなー」
「絶対にごめん被るわね。必ずなんとかするから、可能な限り方法をあげてちょうだい」
思考放棄なシャインはさておき、イアの方は真面目に考えてくれている。
俺もそれに応えるべく、思考系スキルが見出した方法をいくつか挙げていく。
「──てなわけだ。王道から邪道までなんでもござれ、さてお前はどれを選ぶ?」
「私は……」
それから俺たちは、イアが選んだ方法で造船所の確保を試みるのだった。
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