AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント前篇 その04
彼女たちもイア同様、まずは海湾都市へ向かわせておいた。
何をしたいのかまず行ってから決めて、俺の指示に従うかはその後でいいのだ。
それからリヴェルと『陽炎』を浜辺で迎えて、同じように送り出す。
これで全員だな……なんて思うと、これまた見覚えのある少女を見つけた。
そして、彼女もまた俺の方を見る。
普通なら魂魄を偽装中の俺は、こっちから認識を弄らないと分からないのだが……彼女にはそれを知る術があるからな。
「あ、あの……魔王さん、でしょうか?」
「……そういえば、結局名を名乗ることはできないでいたな。ああ、先に挨拶か──久しぶりだな、カナよ」
祈念者最強の調教師であるカナ。
俺はかつて、彼女に魔王プレイをしている際に接触して……まあ、時折共闘したり敵対したりといろいろやっている。
俺の名前なんて、さほど隠すモノでも無いから言っても良かったのだが、タイミングが悪くてまだ言えていなかった。
「お久しぶりです。あの、魔王さんはあれからその……」
「うむ、さしたる変化は無いがな。一度、イベントを主催した程度であろうか」
「あっ、それってもしかして『夢現祭り』という名前のものでしたか? ぜひ行きたかったのですが、その日は家族で旅行をしていたので……」
「気にするでない。いずれ、第二回を開催する予定だ。どうしてもというのであれば、そちらでぜひとも散財してほしい」
これはナックルにも言われたのが、やはり俺のイベントは異常すぎたらしい。
個人主催のイベントで、初出のユニーク種が数体……この時点で大盛り上がりだな。
他にもオークションだったり宝探し、他にもいろいろ催した。
普通じゃできないレベルでやったので、次はまだかという話もあるんだとか。
「さて……ここで会ったのも何かの縁、本来であれば共にあの港へ向かうでも良かったのだがな」
「もしかして、お約束ですか?」
「いや、だが俺はあそこではなくしばらく他の場所を巡る予定でな。造船に関しては、他のクランメンバーに任せる予定だ……そういえば。カナよ、お前はどこかのクランに所属しているのか?」
「いえ、無所属です……その、ハークさんが自分たちの認める場所でなければ、所属は許さないと言っていまして。少なくとも、自分たちが倒せないとダメとのことで……お陰で今も、無所属のままです」
ハークとは、彼女が使役する三つ首竜──『アジ・ダハーカ』の首の一つ。
その人格ならぬ竜格なのだが、女性風の人格だったんだよな。
「ふむ……俺のクランはどうだ?」
「……へっ?」
「暫定ではあるが、カナとその従魔たちを打ち倒しているであろう? まあ、俺は強い奴なら大歓迎だ、特に決まりや縛りなどは無いから、よければ一度俺のクランメンバーと顔合わせをしてくれぬか?」
「は、はい!」
街の方で拠点を確保した眷属から、いちおうその場所を教えてもらう予定だ。
すでに[フレンド]の登録は済ませてあるので、そこをカナに教えればいいだろう。
「ところで、魔王さんはどちらへ?」
「──迷宮だな。イベント中に発生するすべての迷宮を掌握し、俺の思うが儘に操れるようにしておく」
「しょ、掌握……ですか?」
「とはいえ、独占したいわけではない。俺とてこのイベントを楽しむ身、逆に独占しようとする輩が現れぬよう先手を打つだけだ。港へ向かった後、気が向けば迷宮を探してみればいいだろう」
迷宮のリソースを繋げ、少々改造する気ではあるが。
採取後の再回復速度、魔物が出現するならそのレベル調整……出来ることは多い。
そのためには、まず迷宮をすべて踏破しないといけないわけだが……そうだな、今回の縛りはそれにしようか。
「──[コンヴォシオン]」
名を告げると、俺の手の中に黒い魔本が呼びだされる。
カナが驚いているが、気にせずページを捲り該当する魔法陣を見つけて魔力を流した。
「──“召喚”」
魔法陣が地面に複写されると、そこから俺と契約した存在が呼びだされる。
真っ黒、というよりも闇そのものを泥のように纏う狼だ。
「出番だぞ、『闇泥狼』の王よ」
『……今はそのような振る舞いか。まあいいだろう、王との契約を果たすのみだ』
「ふむ、成長したな。切磋琢磨が、より強大な力をもたらしたようで何よりである」
かつて、クラーレたちと共に討伐した……ということになっている闇泥狼王。
死骸を複製して存在を誤魔化し、蘇生して契約したのが彼らの群れだ。
「あの、魔王さん……」
「そういうわけだ。俺は従魔師として、しばらく迷宮を踏破する。いずれまた、どこかで会おう」
「わ、分かりました!」
『──では、進むとしよう』
召喚する際に迷宮の座標は分かるようにしたので、具体的な場所は言わずとも近くの迷宮に向けて移動を開始してくれる。
移動中、闇の泥がポタポタと地面に垂れると、それらが小さな狼となって俺たちの進路とはまた別の方向へ進んでいく。
『これで他の迷宮にも、いずれ奴らが辿り着くはずだ。王が踏破を終えるまで、守護を続ければ良いのだろう?』
「そうだな。何かあれば手を加えるが、とりあえず迷宮周辺で待機させておいてくれ」
『心得た』
なんて会話をしながら、俺たちは最初の迷宮へ到達する。
──さて、今回の縛りを守りながら踏破をしようじゃないか。
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