AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と船員集め その01
始まりの街 クランハウス『ユニーク』
「──ふーん、船を使ってどのチームが速く着くかを競うのか。運営も、どういう意図でそんなイベントにしたのやら」
「「…………」」
「まあ、お前と言う悪魔に魂を売った俺たちはともかく、そこまで遠出可能な船はまだまだ多くないからな。この大陸に固執させず、より広い冒険を求めているんだろう」
「「…………」」
俺はナックルに呼ばれて、クランハウスを訪れていた。
いつものように彼の隣には秘書であるアヤメさん……なんだか顔が引き攣っているな。
「「…………」」
「なあ、メルスさんや」
「なんですか、ナックルさんや」
「お前さん、よくもまあそんな状態で平然としているよな。それ、辛くないのか?」
俺は現在、ソファに座っていない。
正座をしたうえで、そこに大量の重しを載せられて──そのうえ、背中に回した手に錠が掛けられ、剣が心臓を刺し貫いていた。
どうしてこんなことに……と言いたいところだが、仕方がないと割り切ってもいる。
左右両方から視線を向ける少女たち、それぞれ【憤怒】と憐憫を示していた。
「なあ、アルカさんや。それにユウさんも。そろそろこれを解いてはくれませんかね?」
「……嫌よ」
「ごめんね、師匠。アルカが満足するまで、このままでいてほしいんだ」
「普通、死んでるぞ。拷問だったら速攻でギブアップして、ゲロゲロと情報を吐きだすレベルでヤバいんですけど」
「それならそれで、さっさと咽び泣いてギブアップしなさいよ。なんで痛覚に干渉しているのに、そんな風に平然としていられるの」
アルカは俺に苦痛を味合わせたかったようだが、俺には効いていなかった。
最近は縛りでいろんな耐性を得ており、その影響もあるのだろう。
もちろん、一番は{感情}スキルだ。
発狂しそうな状況でも、俺は歪な『普通』状態を維持し続けている。
「ある意味呪いだよな。ユウのスキル封印でも変わらない、強制的な精神安定化能力。これが無いとこれまでやってこれなかったし、偽善にはちょうどいいからもう慣れたけど」
「師匠……それって、慣れじゃないと思う」
「おっ、慰めてくれるか? それならこれを解いてくれてもいいと思うんだが」
「ユウ、絆されるんじゃないわよ。そもそも本気で嫌なら逃げていたんだし、これでも問題無いって自信があるから受けているフリをしているだけよ」
えっ、とこちらを見るユウ。
まあ、アルカの言う通り平気だからこそ受けている……考えてみろ、誰が望んで拷問なぞ受けるものか。
ユウのスキル封印、そもそも業値で性能が強化されるから俺は全然封印できていない。
スキルはある程度できているようだが、それは一般級のスキルだけ。
なので[内外掌握]スキルで肉体の痛覚を塞ぎ、アルカの掛けた魔法も体表に纏わせるだけで効果が及ばないようにしてある。
すでに解析も済ませてあるので、いつでも解除することは可能だ。
それでもそのままで居るのは、彼女たちへの罪悪感が少なからずあるからだろう。
「じゃあ、そろそろ話を戻そうか」
「……お前、いろいろとアレだな。二人の気持ちとか分からんのか?」
「ん? まあ、俺がせっかくのイベント中に邪魔したから怒っているんだろう? アルカは純粋にぶち切れていて、ユウはそこまでだけで協力するぐらいには怒っていると……悪いとは思っているさ」
「中途半端に鈍感だな、コイツ」
やれやれ、俺を鈍感などと。
たしかに眷属にも同じようなことを言われるが、それと同じくらい察しが良すぎるとも評判なメルスさんをなんだと心得る。
ん? それって半々なわけだから、結局鈍感ってことになるのか?
……いや、考えるとわけが分からなくなりそうだし、ここいらで止めておこう。
「まあいいや、イベントについてだ。俺たちはイベントエリアで条件を満たして、船に関する素材を集める。それで作った船に乗って功績を満たせばポイント獲得……最後に多くのポイントを持っているところが優勝だ」
「船があればいいのか?」
「あー、特殊な素材じゃないと海を渡れない設定らしい。だから、持っている所もそうではない所もいちおうは平等なんだとか」
「そんなわけないだろうに。確立した技術があるだけで、もう一隻造るのもだいぶ楽になる。特にこの世界なら、簡易生産もできるようになるしな」
ちなみに『月の乙女』の生産班も、それができるレベルまで達している。
というか、すでに数十人が乗る程度の船なら作れているからな。
「メルス、お前はどうするんだ? 一人で無双するのか、それとも不参加か?」
「集団でいいだろ、別に。今は俺も立派にクランの長(裏)だし、直接目立つようなこと以外なら真面目に付き合うことにするさ」
「「……っ!」」
「お前にしては珍しいな……急にどうしたんだよ。いや、なんとなく分からないでもないが、やっぱり意外だ」
俺は別に、祈念者の眷属を避けているわけじゃないからな。
こういうときぐらい、スキンシップを取った方がいいとぐらい考えるさ。
──そうだな、それならそれでいろいろとやっておかないとな。
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