AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔族前線基地 その05



 騎士、そして前隊長。
 俺を守るのは二人で、こちらに仕掛けてくる刺客の数は三人。

 相手の計画としては、人族二人で彼らを抑えたうえで、本命の魔族が俺の首を獲る……といった感じなのだろう。

 実際、少し漏れる程度で人族に気配を出させたうえで、高度な気配遮断をしている。
 騎士も前隊長も気づいているのだが、あえて気づかないふりをしていた。


「……昔の私であれば、気づくことは無かっただろうな」

「アンデッドとなったことで、生者の気配を敏感に感じ取れるようになったのだろう。脳のリミッターも外れた故、少しは加減してやることだな」

「…………」

「貴様もだぞ、騎士よ」


 まあ、死んでいないので、実際には違うのだが言っておく。
 騎士も憑依している霊体アンデッドを上手く使えば、似たようなこともできるけどな。

 とはいえ、それは先のこと。
 もう間もなく刺客がこの部屋に乗り込み、俺を殺そうとするだろう。

 周囲には“闇幕ダークカーテン”で隠しているので、それらが外部に漏れることは無い。
 そこに気づいて警戒するかもしれないが、動いた時点で計画はもう止まらないはず。


「さぁ、来い……この私に害を成すということが、どれだけ愚かしいことかをその身に教え込んでやろうではないか」


 なんてことを言っていると、異常が突如として発生する。
 外部へ魔力が放出できなくなるようになって、循環しかさせられなくなったのだ。

 要するに、魔法が使えなくなっている。
 身体強化に限れば問題ないのだが、死霊術師のアイデンティティであるアンデッドの用意ができなくなっていた。


「「──“焦光スコーチライト”」」

「「ッ……!?」」

「……ほぉ、やるではないか」


 部屋を覆う眩しい光。
 それは通常の光魔法よりも強烈で、発動者すらも焼き焦がす閃光を生み出す。

 どうやら刺客たちは、この状態でも魔法が使えるようだな。
 おそらくは隷属の首輪にでも、発動対象外にする仕込みが施されているのだろう。

 俺はそれまで使っていた“闇幕”を一部流用し、己の目を覆った。
 少し遅れてからの遮光ではあるが、無いよりはマシ……少しずつ視界が回復していく。


「とはいえ、その余裕を与えてくれるほど愚かではないか……来るぞ!」


 まだハッキリと見えない視覚では捉えられないが、刺客と二人がぶつかった。
 剣と暗器が甲高い音を鳴らしてぶつかり合い、互いに進行を食い止める。


「──“影手シャドウハンド”よ、刃を防げ」

「…………」

「死霊術師が、死霊術と身体強化しか使えないとでも? 我が師はこういった際にも対応できるよう、私に技術を叩き込んでいる」


 本来、体外へ魔力を放出できない現状で行使した影魔法。
 俺の影から伸びた無数の手が、魔族の刺客が飛ばした暗器を防いだのだ。

 ネタバレをすれば、罠のように予め魔法を仕込んでおいただけ。
 必要量の魔力は予め注いであるので、ほんの少しだけ外へ出すだけで良かった。

 刺客が用意した魔法封じも、体内から直接魔力を流しこむ方法に対応できないらしい。
 お陰で不意を突くように、攻撃を防ぐことができた。


「そしてもう一つ──“影保管シャドウストック”。さぁ、暴れろ『首刈霊ヴォーパルゴースト』よ」


 影の中から取り出したのは、霊体系のアンデッドの中でも暗殺に長けた個体。
 首を奪うことを得意とする霊体を、負の魔力である瘴気を充填した状態で呼びだした。

 魔法封じが発動中は、魔力を外部へ放出することができない。
 しかし、瘴気はできる……まあ、アンデッドに使うことが想定されていなかったか。

 本来であれば魔法が使えないので、取りだすこともできずに俺は死んでいた。
 なので対策をする必要が無く、せいぜい対アンデッド用武装をするぐらいだろう。


「さて、貴様らが私の下まで辿り着くかどうか……楽しませてもらおうか」


 俺はもう傍観者気分でいる。
 困ったら最後の仕込み“死者之衣ネクロス”を発動して、全自動で攻撃すればいい。

 今は騎士と前隊長の実力を測り、今後どのように運用していくかのテストにしておく。
 人族の刺客と戦っている彼らだが……もう間もなく、こちらに来るだろう。


「──“速断ソニックスラスト”」

「──“歪幻斬ホロウスラッシュ”」


 高速の斬撃と惑わしの斬撃が放たれ、刺客たちは地に倒れ伏す。
 武技のエネルギーたる精気力は、やはり今回封印されていなかったようだな。

 そして、残された魔族の刺客。
 彼は敗れた二人に舌打ちを入れ、冷静にこの状況を把握し──逃げ出した。


「逃がすはずなかろう──“死魂魄爆デッドエクスプロード”」


 だがまあ、こんな展開は定番だ。
 なので『首刈霊』を進路方向へ移動させ、そこで自爆を引き起こさせた。

 溜め込んだ負のエネルギーが一気に解放され、それを真正面から浴びた魔族の刺客。
 無数の状態異常に侵され、一時的に体が硬直してしまう。

 そして、それだけの時間があればすぐに騎士が動く。
 一直線に魔族へと突っ込み、その剣で首を刎ねる。


「……生きたままの方が、本来情報収集は捗るのだがな」

「貴様であれば話は別だろう」

「うむ、当然だ」


 さて、あの世に逃げる前になんとかしなければ……魔法も使えるようになったし、さっさと始めよう。



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