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山田 武

偽善者と大湖戦線 その15



 クランハウス


 さて、今回のリザルト……報酬についての話をしよう。
 後から来たとはいえ、クラーレはやらかしたし、『月の乙女』は貢献している。

 都市内部でも生産班の少女たちが、かなり質のいいアイテムを生産していた。
 なので最上位とは言わずとも、それなりに彼女たちの行いは評価されている。


「──その結果、学芸都市への推薦状が手に入ったわ。最初の審査も楽になるし、入りたい場所に比較的入りやすくなるわ」


 リーダーとして、この水上都市の代表者と話を済ませてきたシガン。
 席に着いてお行儀良く話を聞くメンバーたちに、交渉結果を話している。


「学芸都市はここから西にある学園よ。名前から分かるように、都市そのものがいくつかの学芸に関する施設を内包しているわ。そこでしか得られない武技や魔法もあるし、行っておいて損は無いわね」


 システムで得られる武技や魔法は、よく言えば安定して使うことのできるものだ。
 だが、悪く言えば……リソースを一定以上使うようなものが得られないのである。

 もちろん、スキルとしての格を上げる──つまり進化をすれば性能は上がっていく。
 使えるリソース量が増えるので、その分高い性能を誇るものが使えるからだ。

 しかし、下級のスキルで上級や超級のモノが使えないように制限されているなど、ある程度システム側で習得可能な武技や魔法に制限が設けられている。


「学芸都市には優秀な人が集まっているし、強力な武技や魔法を教えてもらえるわ。祈念者がオリジナルの武技や魔法を売っていることもあるし、自分たちで寄贈することで報酬が貰えた……なんて話もあるわね」


 魔法が魔本で保存できるように、武技も似たような感じで収めることが可能だ。
 だがそれよりも、実際にそれを習得してもらう方がコスパ的に楽である。

 オリジナルの武技や魔法は、あくまで個人用のモノなのな場合が多く、癖が強い。
 ただ、システムでは習得できない利便性の高いモノなども、習得可能になるのだ。

 それらを後世に伝えていくことを、学芸都市では推奨している。
 報酬を支払い、価値のある武技や魔法を蒐集しているわけだ。


「メルのなんて、結構売れそうよね。どう、やってみる気は無い? 魔導、とかいうのもかなり売れそうよね」

「あははっ、止めておくよ。前提として、魔導は基本的に個人のものだから無理。オリジナルの武技や魔法はあるにはあるけど、私のスペックだからできることが多いから。使えるようにしても、体が耐えられないよ?」

「……たしかに、そうかもしれないわね」


 オリジナルの武技は主に夢現流のモノなのだが、魔法の方はネタ的なモノも含めてさまざまな魔法を揃えてある。

 なので、そちらであれば、寄贈してもさほど問題にはならないが……他の誰かが寄贈するチャンスを残してやるのも優しさだろう。


「ますたーたちはすぐそっちに行くの?」

「それは……まだ、かしらね。期限がいちおう設定されているけど、一年は持つから気にしなくていいわ。メルはどうするの?」

「私、というか私の分体がしばらくは魔族として活動するよ。ちょうど学芸都市を襲うことになるから、行くタイミングは考えてね」

「…………ハァ。いつものことだけど、メルには報連相が欠けているわね」


 具体的なことは、そういえばまだ何も説明していなかったっけ?
 魔族に分体を潜り込ませること、これだけはちゃんと伝えたんだがな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 とりあえず、改めてクラーレやシガンたちに俺がやったことを伝えておいた。
 死霊術どうこうなどは説明せず、魔族と話したことのみだが。


「……前線基地、そして侵攻ね。貴方は本当に攻め滅ぼす気なの?」

「攻め滅ぼす、とは言ってないからね。今はまだ、何をしたいか分からないから内部でそれを調査する気なんだよ。ますたーたちは、私を止める?」


 俺は彼女たちと共に行動をしているが、独断専行が多いことから分かるように、彼女たちと同じ目的を抱いているわけではない。

 俺は目的のためならば、手段を選ぶ気は無い……そして、彼女たちとそれを共有する気も無いからな。

 さて、彼女たちの反応は……うん、物凄く引いている。
 ただ、軽蔑とか侮蔑の視線なのは……まあ一人だけで、他はどちらかというと──


「メル、というよりメルス。そもそも、わたしたちは、そこまで善人ではありません」

「その台詞、そういえばここに来る前にも聞いた気がするよ。でもますたーたちって、全然打算的じゃないからね。いろんな人に親切だし、善い人ばっかりだよ」

「善いことをするのが、善い人というわけではありませんよ。それはメル、あなたが一番理解しているのでは?」

「むむっ、たしかにそうかも」


 偽善者である俺が、そこを肯定しないわけにはいかない。
 偽善者たるもの、善意を以って善行を成すわけじゃないからな。


「一人ひとり理由に違いはありますが、わたしたちもメルが思っているほど善人ではありませんよ。ですからメル──あまりわたしたちを、舐めないでください!」

「ッ……!」


 舐めたつもりは無かったが……たしかに、受け入れてくれないとは思っていたな。


「じゃあ、私といっしょに学芸都市を落とす手伝いをしてくれるんだね?」

「あっ、いえ。そのようなことは決してしませんよ。メルがわたしやシガンを助けてくれたように、どんなことであれその先を共にするだけです。メルが本当に悪いことをするならば、全力で防がせていただきます」

「へぇ……なら、そのときは勝負だね」

「はい、覚悟してくださいね」


 うんうん、成長したものだ。
 今の彼女たちであれば、俺の偽善を阻むこともできるだろう。

 俺も戦闘狂たちと共に過ごし、そういうことに楽しさを覚えるように感じてるな。
 確定した強大な壁の存在を前に──とてもわくわくしている俺が居るよ。



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