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山田 武

偽善者と大湖戦線 その05



 彼女たちは生産を始める。
 持ち込んだ素材、ギルド側から提供された素材を用いて、彼女たちの得意分野でいくつものアイテムを作製していく。

 機械担当のマーヌが作った魔道具により、周囲には結界が展開されていた。
 内部で行われる生産に補正が掛かるうえ、外部からの攻撃を多少抑えられる。


「ふんふんふ~ん♪」


 そんな結界の上に乗って、鼻歌を奏でている妖女が一人。
 生産そのものには参加せず、あくまで彼女たちの護衛に徹するつもりだ。


「魔物の反応が……うわー、有ったよ」


 奏でる歌は特殊な魔力となって、この都を丸裸にしていく。
 建物、人、そして……魔物、それらすべての所在を明らかにする。

 水上都市であるここには、そのまま排水するための地下通路があった。
 そしてそこは現在、魔物たちに占拠されている……まあ、冒険者もいるようだが。

 祈念者は創作物の知識を有し、そこから起き得る展開を推測できる。
 なのでもう気づき、防衛に当たっている祈念者もいるようだ。


「まあ、知識があっても力が無いとできないことは多いけどね。ふんふんふ~ん♪ みんな頑張ってるな~」


 音の届く範囲を広げ、湖全体を音波による単位範囲にする。
 水の中まで届けることは難しいが、それでも最低限でも浅い部分は調べられた。

 都市の内部に侵攻している魔物は、まだ地下水路に居る個体だけ。
 他はギリギリ都の城壁で防衛に成功しており、もうしばらくは持つことだろう。


「さてさて、これからいったい何をしようかな──“鎮魂歌レクイエム”」


 暇なので、アンデッド化を防ぐための歌を周りに広げる。
 すでに自由民、魔物に死者が出ている……念のためとはいえ、歌っておくべきだろう。

 なお、歌魔法は相手が知覚していないと聞きづらいので声は伝わっている。
 なので歌は、この都中に響き渡ることになるが……背に腹は代えられないよな。


《というか、そのためのメルモードだし。この状態なら、幼女が歌ってる……ぐらいの認識に留められるんだよ》

《メル……急に歌声が聞こえてきましたが、何かありましたか?》

《アンデッドが出てこないようにね。相手には魔族が居るだろうから、そういう使われ方がされないように念のためね》

《なるほど……しかしメルって、結構歌が上手いですね》


 そこまでやることが無いのか、念話を介して話は続く。
 俺としてもやることはないので、それに応えておく。


《うーん、あんまりそうは思わないけど、ますたーには心地いい歌だったのかな? いちおう歌唱スキルの補正を真似したり、眷属といっしょに歌ったりしているからだよ》

《メル……いえ、メルスとですか》

《どっちでもね。私として歌うこともあったり、メルスとして歌ったりね。男性パートと女性パート、どっちも歌いたいじゃん》


 地球の曲だったり、この世界の曲だったりと……眷属とカラオケをしている。
 国民も交えて、大カラオケ大会をしたりもするが……必ず聖歌を歌うんだよな。


《ふぅ、ところでますたーたちの状況はどうなっているの? まだそっちの様子は見てなかったから、さっぱりなんだよね》

《えっと、現在は他のクランの方々と作戦会議を行っています。簡易なものですが、レギオンの機能で話をしています》

《レギオン? ああ、たしかパーティーよりもっと多くの人と組むヤツだよね? 全然使わないから少し忘れてたよ》

《基本はパーティーの機能と同じですが、加えてリーダー間での情報のやり取りができるようになります。他にもいくつか、機能はありますが……メルには必要ありませんか》


 なんだかまるで、一生使わないと言われている気がするな。
 いやまあ、眷属たちと使うこともないだろうから、そうなんだろうけども。


《ちなみにますたー、王が名前に付いている個体にはもう会った?》

《まだですけど……居るんですか?》

《ほぼ間違いなく。まあ、あのときと同じような感じだから、ますたーたちと他の祈念者でなんとかなると思うよ》

《メルがそういうなら……分かりました》


 あのとき……魔族絡みの戦闘の際も、だいぶ進化した個体を倒していた。
 あれからしっかり成長しているし、今回も活躍できるだろう。


《それじゃあ、また今度かな。なんだかこっちもこっちでいろいろありそうだけど、まあなんとかしておくから気にしないで》

《……物凄く気になりますが、何かありましたらちゃんと言ってくださいね。隠しても、皆さんから聞きますから分かりますよ》

《純心だったますたーは、いったいどこへやら。分かったよ、あんまり無茶はしない》

《絶対に、無茶しないでくださいね》


 言葉を訂正させ、クラーレは念話の接続を断った。
 ……本当に、彼女は出会った頃から俺を驚かせてくれるな。


「さて、それじゃあ頑張りますか。まずは初めに──“時空泡沫フォーム広範ワイド”」


 通常よりも広い範囲に、時空属性の泡を飛ばして観測点代わりにする。
 歌では届かなかった水中や湖の先、隅から隅まで徹底して調べ上げた。


「外側は彼女たちに任せるとして、問題は水中の方か……やっぱり今回も、バッチリ残されているな」


 前回も仕掛けられていた魔王の種──今なおそれは、水中で胎動している。



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