AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と出力実験 後篇


「出力……というか、魔法に今以上の魔力を供給したいなら、すべて内側の魔力で魔法を構築しないとならない。制御能力はどうとでもなるとして、問題はその手段だ。まあ、そこは正直もう確保してある」

「……なあ、これまでの過程、全部必要だったのか?」

「えー、私は楽しかったら必要だったと思うよ? それに、わざわざ私たちだったんだから、別にどうしてもやらないといけないってわけじゃなかったんだよ。そういうのって、ラノベとかでも定番だよね?」


 まあ、たしかに結構ありそうな話だ。
 他に出来る奴が居るはずなのに、主人公たちにイベントフラグが立ちそうな頼みごとが発生するとか。

 ちなみに俺たちの場合は、何か分からないことがあれば解析班に……という流れだ。
 大抵のことは片手間で解決してくれる、便利な知恵袋みたいな感覚で頼っている。

 実際、解析班が調べればすぐに分かったかもしれない。
 俺の目的は答えを即座に知ることではないので、あえて頼まなかったのだ。


「つまりね、カナタ。メルスは私たちと交流したかったんだよ。ほら、時々構わないと好感度が下がっちゃうからね」

「うわぁ……最悪だな」

「…………」


 からかうように語るアイリスに対して、割と本気で言っていそうなカナタ。
 それでも、本人は冗談として言っているのだろうが……思い当たることがあるのかも。

 沸々と、やってみたいと思い始めたことが浮かぶ。
 アイリスにアイコンタクトを取って、さっそく実行することに。


「俺って、そんな風に見られてるのか……カナタにも軽蔑されて、俺はもう立ち直れない気がする。はぁ……“心身燃焦オーバーヒート”」

「ちょ、お前……ッ!?」


 突然俺が自滅魔法を使ったことに、驚き戸惑うカナタ。
 すぐに回復した魔力で魔法を使い、燃え盛る炎をどうにか消火しようとしている。

 だが体育座りになった俺は、まったく意にも介さずただ燃え続けた。
 おまけに魔法は発動していない、それをカナタは自分の実力不足と思ったようで。


「くそっ、なんでこんなことに……おい、アイリスも手伝ってくれ!」

「その前に聞きたいんだけど、本当にカナタは最悪だと思ったの?」

「は、はぁ? 今はそんなこと言っている場合じゃ──」

「大切だから。ねっ、教えてよ?」


 燃える俺を一瞥し、ニマニマと笑みを浮かべてカナタに問う。
 そうしないと本当に何もしないと分かったからか、カナタは頭を掻き毟る。


「あー、もう分かった分かった! 別に、最悪だなんて思ってねぇよ……ただ、少し嫌になっただけだ──って、さらに勢いが!」

「良いから良いから。それって、メルスがそういう風に考えていることが?」

「そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだ……もしも本当にそうだったら、なんて考えた俺自身に嫌気が差したんだよ」

「カナタ……」


 天まで届く勢いで燃える俺を背景に、二人の話は結論に近づく。
 炎に当てられたからか、褐色の肌でも分かるほどに顔を赤らめたカナタが語り終える。


「メルスは……まあ、いろいろアレだが、それでも俺たちが不快に思うことはしねぇ。もう知ってるはずなのに、少しでも疑うような考えを持った自分が嫌なんだよ。だから、速く消して謝らないとな」

「うんうん、そうだね──というわけで、もういいでしょメルス?」

「…………はっ?」

「1、2、3──はい、メルス復活!」


 せっかくアイリスがこの重たい状況をなんとかできるチャンスをくれたので、それに応えることに。

 魔法を停止すると、体は炭化するほどに酷い状態だ。
 しかしそこに、<物質再成>スキルの上位版である[概念再成]を発動する。

 あら不思議、元の体に戻りました!
 完全に死んでも蘇るほどにチートなスキルなので、たとえ体が木っ端微塵に切り刻まれていたとしても蘇っていただろうな。


「……お、お前……」

「まあその、なんだ……いろいろ、嬉しかったぞ」

「くっ、殺せよ! なんだよこの羞恥プレイは! 死にたい、さっきの俺を殺した後に俺も死ぬんだ!」

「急にどうした? ほら、そんな後ろ向きな事ばかり言うなって」


 喚くカナタをどうにか落ち着かせて、話を本題に戻す。
 すべて俺が悪いんだが……リーとカナタは本当に、からかい甲斐があるんだよな。


「さっきのアレ、全然消えなかっただろ? あのとき実は、魔法を全部自分の魔力だけでやっていたんだ」

「マジか……いったいどうやったんだ?」

「[内外掌握]スキルで、体の周囲に在る魔力全部を外部に追いやった。そこに魔力を放出すれば、全部俺の魔力になるだろう? ついでに言うと、全部俺の魔力だから全然カナタの魔法は使えなかったわけだ」

「……はぁ、なんかもうツッコむのも面倒臭くなってきた」


 今はまだスキル頼りのやり方だが、とりあえずどうすればいいかは分かった。
 なので後は、それをすべてマニュアルでできるようにすればいいだけ。

 禁書級の魔法でも、これまで鍛えた魔力操作で発動は可能だったからな。
 だいぶ魔力を使ったのは想定外だったが、それ以外は問題なく使えた。


「ねぇメルス、どれくらい魔力使ったの?」

「……そうだな、そもそも命を消費している分、元はあんまり消費しないんだが。今回はそれらも含めて魔力で補ったから、一秒で万単位の消費だったな」

「湯水の如く魔力を使ってんな。常人なら、すぐに廃人確定だろ」

「まあ、今の祈念者で魔力極振りなら億単位の持ち主もいるけどな。アルカ然り、他にも何人かな」


 まあ、あちらは既存の魔法をどうにかするのではなく、より強大な魔法で捻じ伏せようとしているが。

 俺が出力を気にしているのは、そういうところも考えてのことだ。
 ……相手と同じことばかりでは、互いに高め合うことなんてできないからな。



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