AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と出力実験 前篇
夢現空間 修練場
ティルはやることがあるようなので、本日は別のことを鍛えることになった。
武術云々を他の眷属に習うでもよかったのだが、とりあえず剣技を完璧にしたい。
「というわけで、素振りをしながらでもできる魔力関係の事柄をやっていきます」
「……で、なんで俺たちなんだよ」
「けどこの集まりって、前にもあったよね」
異世界人、地球からの転移や転生によってこちらの世界にやってきた二人。
共にDMOと呼ばれる、俺の世界には存在しないVRMMOから来た奴らだ。
「そう──この世界じゃ異質な知識を参照にしたいんです。カナタ、アイリス、今こそあのことわざ『三人寄れば文殊の知恵』を実行してみる時だ!」
ぶんぶんと剣を振り回しながら、そんな二人に呼んだ理由を話す。
ある程度ルーティン化した動きなので、会話中でも無意識でやること自体は可能だ。
意識も千思万考スキルで分割できるし、会話も魔力操作も集中して行える。
体が一つしか無いので、同じ部分を使うことはできないのが問題だな。
「……よくもまあ、そんなに激しく剣を振りながら会話ができるよな。息切れとか、そういうのもまったく無いじゃねぇか」
「酸素も血液も不要な状態にして、体の疲労はすぐに回復魔法で解消しているからな。別に筋肉をイジメたいわけじゃないから、回復しても困らないんだよ」
「チートスペックなのに、ずいぶんな無駄遣いをしてるよな」
「いいんじゃないかな? たぶん、普通にやろうとしても耐えられないし。カナタもできないよね?」
まあ、カナタもアイリスも近接戦闘はあまり得意じゃない。
二人はもともと迷宮運営のVRMMO経験者で、引き籠もる方が多かったようだし。
カナタの方はTSしたアバターでも戦えるように、そういうアイテムを持っているが。
彼(女)の相棒であるコアさん曰く、平時じゃ腕立ても全然できないで萌えるらしい。
アイリスも似たような感じだが、彼女は彼女で機械を用いて近接戦闘をしている。
だが結局、素で武器を使うことは少ないため、俺のようなことはやらないのだ。
「話を戻すぞ。今回やりたいのは、魔力の出力に関する話だ」
「出力っていうと……一発の魔法に籠められる最大量の話か?」
「そう、それだ。まあ、それはシステムを用いた魔法に限った話だがな。スキルで分けられた下級・中級・上級とかで、籠められる魔力に限界がある。だからこそ、起動できる魔法とできない魔法とかがあるんだ」
「たしかそれは本で読んだよ。ここって、本当に何でもあるよね。フィレルに聞いたんだけど、そういう知識も全然知られてないって言ってたよ」
眷属たちが集めた情報のほぼすべてが、夢現空間では本になっている。
ちなみにこれは、学者であるリュシルが集めてくれた魔力に関する知識だな。
「リュシル曰く、あくまで神代魔法に通ずる事柄だから調べたらしいがな。ちなみに神代魔法がチートなのは、その出力とは別でプラスして魔法に補正を掛けられるかららしい」
「? ちょっと理解しづらいんだが……」
「魔法に籠められる限度が10だとして、緻密な操作でそのパラメーターを調整するのが基本だ。けど、神代魔法はそれを11でもそれ以上でも好きなだけ加算して、魔法を自由にカスタマイズできるんだよ」
「……うわぁ、チート乙って感じだね」
神代魔法の内、補助に分類される無数の魔法が持つ可能性。
虚無や次元、混沌といった攻撃性を持つ神代魔法にも、負けず劣らずのチートぶりだ。
魔力さえあれば、好きなだけ性能を上げられるわけだしな。
今と昔に何の違いがあれば、ここまで魔法の扱いに差が出るんだろうか。
「また話が逸れたな。ともあれ、神代魔法という例外を除けば魔法は籠められる魔力に限度が設けられている。どれだけ魔力を持っていても、籠められなきゃ威力が出ない」
「……魔導があるだろ?」
「そんなにポンポンと使うものじゃないからな。ともかく、基本的に出力は先天性のものだが、アバターである祈念者はほぼ最大値だからこれ以上伸びようが無い。威力を上げるなら、レベルが装備を強くする必要がある」
「まあ、それが普通だよな。レベルを上げて物理で殴るとか、最強武器でチート無双とかは定番か」
ちなみにアルカの卵が成長した杖。
アレは出力自体に手を加えていないようだが、彼女が籠められる出力そのものの制限は外してくれている。
出力だけでなく、射程やそもそもの術式に関する問題をすべて解消して、【賢者】の職業能力で創造可能な魔法の合成における可能性を高めていた。
相対時に模倣は済ませてあるが、彼女ほどセンスが無い俺は全然使えていない。
代わりにギーや解析班が試しているようなので、何かしら進展はあるだろう。
「結局、こうやって話しているだけじゃ全然浮かばないんだよな……だから二人には、少しばかり協力してもらいたい」
「まあ、別にいいが」
「いいよ、オッケーオッケー」
「ありがとうな。こっちで指定した魔法を、いくつか試してくれればいい。その後、またどうしたらいいか考えてみよう」
というわけで、二人に魔法を何度か使ってもらい実験を開始する。
……まあ、創作物の知識でどうにかできそうだという案はもうあるんだけどな。
三人で何かをやる、そういう時間が欲しいという理由で始めたのは内緒である。
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