AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と再剣修



 夢現空間 修練場


 吸血鬼の血を求める戦いから数日後、俺は修練場に居た。
 そして、猫耳剣士が空気を割く勢いで素振りをしているのを確認して、そこへ向かう。


「──それで、もう一度鍛え直したいの?」

「たしかスケジュールが空いてたって思い出してな。不都合が無いなら、頼みたい。何もしないよりは、やっておいた方がいいし」

「……まあいいわ。それで、どれくらい鍛えておきたいの?」

「……特に決めてないけど、そこは任せておく。よろしくお願いします、師匠!」


 頼んだ理由はシンプルに、血を注入した騎士がそれなりに強かったからだ。
 縛り中で能力値は抑えていたが、それでも剣技の冴えに少々苦戦していた。

 魔法も交えていたからこそ、それなりに戦えていたと自覚している。
 純粋な剣技だけ、能力値も同じぐらいで戦闘をしていたら……負けていたかもな。


「そういうことね。まあいいわ、それなら徹底的に仕込むことにしましょう」


 俺の剣の師匠──ティルは特殊な猫獣人。
 その瞳は他者の思考を読み取り、言葉に出さない思いを知ることができる。

 何も言わずとも察してくれるのは、結構楽でいいと思うんだがな。
 実際今回も、俺の事情を察してどこまで苛め抜くか決めたようだ……ハァ。


「スタイルはどうするの?」

「一通りやっておきたいな。縛りは何でもありだし、極端な武器とかを使う場合もある。普通はありえないけど、武器が壊れることもあるからな」

「……普通ってのは、武器が壊れることをいうのよ。私の国だって、壊れない武器はこれしか無かったわよ」


 そういって彼女がポンッ叩くのは、国宝とも呼ぶべき聖剣の亜種である獣聖剣。
 意思を持つそれは、俺が創った鞘型の聖具に収まっている。


「今じゃ神器まで持って、だいぶ壊れない物ばかり取り揃えているけどな」

「全部が全部、メルスの用意した物じゃないの。そういえば、こっちはどうするの?」

「鎖か……対処だけ、習っておくか。鞭で武器を奪うのとかあるけど、できるか?」

「いちおうね。完璧じゃないけど、九割がた上手くいっているから、それでいいなら」


 彼女の適性は剣関係に特化していた。
 そして反対側の腰に提げた鎖型の神器は、その適性の高さを鎖関係にも繋げることができる能力を宿している。

 だがまあ、それでも剣技と違って今まで磨いてこなかった鎖の技術。
 それでもティルはしばらくそれを磨き、すでに達人の域まで鎖の扱いを高めていた。


「壊れる壊れないの話をしたし、それも踏まえた武器にするか。初心者の武器を参考に、壊れてもまた一定時間で再生するチュートリアル武器。ただし、魔力を籠めるとそれが短縮されるバージョン」

「……また変な物を作ったわね」

「ポキポキ折れるぞ。今回は、壊れたりしたらその武器は一定時間使用不可ってルールにしよう。剣限定だから、種類も足りなくなるだろう。そうなったら、一時休憩だな」

「予め保険を出す辺り、だいぶ腕が落ちているということかしら? ……なら、とことんやりましょうか」


 まずは片手剣サイズに調整して、ティルに向けて構える。
 物凄く大変だが、凡人が強くなるためには必要なことだ……頑張らないと。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺のスキルには、[万能戦闘]という武術スキルが存在する。
 まあ、それは何でもかんでも武術の補正が入るというモノだが……今はどうでもいい。

 そこに内包されたスキル、{夢現流武具術}の話をしよう。
 こちらはティルのリュキア流獣剣術など、流派系スキルを統合できる効果がある。

 だがそれ以外にも、いろいろと能力が内包されているのだ。
 それが、体現・再現・実現の三パターンの武技への干渉である。


「──というわけでな。体現はそっくりそのままやって、再現は可能な限り同じにする。そして、実現は自由にアレンジを加えてやる感じだ。だから同じ動きでも、三パターンも手札に加えられるぞ」

「相手が手札を見せると、同じものは除くにしても二つも手札を得るわけね。けど、挙動が同じだと丸分かりだから、実質的には一枚かしら?」

「……武技頼りの奴なら二パターン分確保できるからな。師匠みたいに、そもそも武技が無くとも戦える奴じゃないと、仕組みを暴くことは無理だろうさ」


 これと同じことを{夢現魔法}スキルでもやれるので、その派生は幅広い。
 単純計算でも九パターン、それぞれで異なる武技や魔法を模倣すれば……無限大だ。

 なんてことを考える程度に、休憩をしたお陰で思考が回復していた。
 彼女が読み取れる程度に頭を回せるようになったら、修行は再開となる。


「そうね、それぐらいいろいろと考えられるならもういいかしら。長剣、短剣、大剣、片手持ち、両手持ち、刀、太刀、薙刀とやってきたけど……次はどうするの?」

「改めて聞くと、だいぶやってるな。そうだな……手刀を、やってみようか」

「まあ、メルスがそれでいいならいいけど。失敗したら斬れるわよ?」

「そこは配慮してほしいけど……ああはい、無理ですよね」


 念入りに防御の準備をしているが、それを突破するのが<獣剣聖姫>のティルだ。
 痛覚をオフにすると、それはそれで身に付かないし……真面目にやらないとな。



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