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山田 武

偽善者と輸血狩り その18



 翌日、帝国は荒れに荒れた。
 暴れていた吸血鬼ヴァンパイアは帝国の騎士で、それは魔具によって普人族が成って起きたものだと知れ渡ったからだ。

 情報源は分からずとも、人々はその情報を信じて帝国に苦言を申し立てる。
 まあ、そんなこと関係ないと言わんばかりに、兵士たちが鎮圧作業をしていた。


「……酷いことになっているな。まあ、それは全部俺のせいなんだけども」

「死ぬかと思った」

「ブラッドポーションで回復していれば、倒せると思ったんだよ。実際、最後には力を合わせて倒すことができただろう?」


 俺が野に放った騎士の吸血鬼は、かなりの被害を出したのちに討伐されている。
 誰彼構わず暴虐の限りを尽くした後、一致団結したメィや兵士たちに倒されたのだ。

 吸血鬼、吸血鬼狩りハンター、帝国民、祈念者プレイヤー……そのすべてを脅かした偽りの吸血鬼は、最期には糧にしようとした者たちによって命を奪われるのだった。


「お陰でレベルアップしただろう? メィが強くなったようで何よりだよ」

「…………」

「軽蔑したか? 彼は俺の命を狙い、ペフリの血を提供することを拒んだ。何一つ、対話する道なんて残っていなかった。だから俺も尊厳を踏み躙り、それでも出来得る最大限の活用を選んだ……事実、生き延びたわけだ」


 普通にやっているだけでは、被害はより拡大していただろう。
 だが今回、少なくとも一般人に被害が出ることは無かった。

 奇跡と言っても過言ではない。
 殺すことを厭わない狂人が出た際、家屋に籠る人を殺すことなど、この世界では武技や魔法一発で行える単純作業なのだから。

 実際、どれだけ忠義に篤い騎士だろうが、その指向性を弄っただけであの始末。
 無論俺が関わらなければ起きなかった自体だ、しかし力を持つ責任とはそういうもの。


「血はだいぶ集まった。帝国民は疑心暗鬼を始め、上流階級たちはその嫌疑をなんとかしなければならない。そのうえで、暗躍する吸血鬼たちへの対処……祈念者は重要な人材として使われるだろう」

「それで、どうなるの?」

「これまではまだ、祈念者の中でもそこまで強くない奴らだった」

「……あれで?」


 祈念者の戦力を分けると三パターン。

 まだ種族レベルがカンストしていない。
 カンストはしたが、そこまで強くない。
 固有能力や超級職に辿り着いた奴。

 ……物凄く大雑把に分けると、こんな感じである。
 最後の奴は祈念者でも数が少なく、極めて珍しい……が、そろそろ来るだろう。


「問題が大きくなれば大きくなるほど、拒む障害も強くなる。まるでそれが、何かの思し召しであるかのように」

「何か?」

「そう、ナニカだよ。神様でも星でも、彼らの言う偉大なる皇帝陛下様でもいい。誰もの意思にせよ、行動は必ず変化を促す。安寧と変革……言い方がアレだな。要するに、挑む相手はだんだん強くなる」


 縛りなしの俺が苦戦する相手は、少なくとももう祈念者には居ない。
 たとえあのアルカが相手でも、眷属の力全てを使えば圧勝できるからな。

 だが、『超越種』や『厄災種』であれば話は別だろう。
 実際、前者であるアイはかなり強いし、どちらの候補者だったソウは理不尽の権化だ。

 最も新しい『超越種』であるニィナも、可能性という意味では俺以上。
 別に最強でも無敵でも無いので、勝てない相手なんてかなりいる。


「とはいえ、俺の考えている奴らが全員出て来るわけじゃないが。でも、間違いなく帝国に存在する戦力は出してくるだろう。このまま出し抜かれたままじゃ、アイツらも黙っていられないだろうからな」


 少なくとも、彼の騎士みたいに忠誠を誓うヤツは動き出すだろう。
 祈念者の最強候補たる『選ばれし者』は、さて……どうだろうか?


「ゆっくりと情報戦をやるつもりだ。これ以上は、バックアップだけして一度に集めさせた方がいいだろう」

「集めさせる……」

「血を魔具越しに利用している以上、その調整が必要になる。例の吸血鬼化と暴走を絡めて考えると、勝手に意識するんだ。それを修正するためにどうすればいいのかってな」

「なるほど……」


 あえて帝城の地下にある研究施設は、いっさい手を付けていない。
 そこで魔具の研究をしているので、そちらの警備が厳重なのも知っているからな。


「結局のところ、俺たちの勝利条件はかなり難しい。魔具を持っていかれたらその回収が大変だし、取り込まれて逃げられたらもっと面倒になる。たとえ皇帝を殺しても、血を集められなければ勝てないわけだ」

「殺せるの?」

「ん? まあ、それだけならな。運営……神の祝福を持っているみたいだが、神殺しの力も持ち合わせているから問題ない。けど、何度も言うが血が得られないと、目的を達成できないからな。慎重に動く必要がある」

「……慎重」


 訝しむ視線で見てくるメィ。
 いやまあ、たしかに結構計画を変えては混乱させちゃったけども。

 そもそも俺に小難しい計画は似合わない。
 そういうのは眷属に任せて、俺は言われたことだけやっていきたいものだ……それはそれで、何かしら不服に思っちゃうんだがな。


「……まあともあれ、しばらく間を置こう。というわけで報酬なんだが……どうする?」

「何が?」

「ブラッドポーション、欲しい武具、それ以外の何か。それとも後回し……何でもいいけど、雇った分の報酬を払うよ。さて、どうするんだ?」


 俺に払える物なら払っておこう。
 今回の活躍で、彼女の聖剣が一段階成長したことを確認している。

 俺にはできなかったことを、彼女はやってくれた……ならば、支払って当然だ。
 やがてメィは、俺に報酬を告げる──叶えてやらないとな。



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