AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と輸血狩り その16
ペフリの血を体内に取り込んだことで、騎士は吸血鬼としての力を得た。
これまでに同じことをしてきた貴族たちよりも、厄介なまでに存在の格を高めて。
「吸血鬼・公爵。ずいぶんとまあ、上位種に進化したみたいだね」
「……公爵、だと? 貴様、その発言に嘘偽りは無いのか!?」
「えっ? うん、信じるかどうか知らないけど、わざわざ戦う相手の過小評価をして何になるのさ」
「そうか…………嗚呼、アア、どうかお許しください皇帝陛下様ぁぁああああ!!」
俺に自分の爵位を訊ねたかと思えば、急に発狂して顔を自分の爪で傷つけ始める騎士。
すぐに吸血鬼の異様な再生力がそれを戻して、何度も何度も繰り返している。
「自害もできないこの身を! その罪をすぐに贖えないこの身を! どうかお許しください……カトンボどもを駆逐した後は、必ずや偉大なる皇帝陛下の威光を以って浄化されると誓います」
「ふーん、こーてーへーかの威光って、わざわざ近づかないと届かないんだ……ぷっ」
「貴様! ……ふぅ、もういい。カトンボ程度に語る必要も無い。すべてのカトンボを駆逐する、その始まりを告げる福音となれることを光栄に思うがよい」
「そっか……なら、私も負けないように足掻かせてもらうよ──“剣器創造・転移”」
だいぶ爵位が高い吸血鬼になっている騎士なので、俺も多少は力を振るう。
魔物たちを従えたときに使ったアレはともかく、普段使う剣ぐらいならば使うことに。
「帝国騎士団近衛部隊──」
「長いからいいよ。不明の権化、ただの愉快犯……よろしくね」
「どこまでもふざけた奴だ……愚かな道化として、その名は永劫に刻まれると知れ!」
「知らないから関係ないよ。それに、さっきも言ったけど足掻くからね──“推進剣”」
二振りの剣を構え、準備は万端。
騎士も自傷行為を止めて剣を抜き、俺に向けて改めて突きつけてきた。
まだまだ吸血鬼としては完成していないものの、時間経過で強くなるはずだ。
最終的に死ぬと宣言しているが、その前にメィは確実に殺されてしまう。
雇用主として、最低限雇った相手の安全を保障する義務がある。
ならば俺がすべきことは……目の前の相手が彼女の下へ向かえないようにすること。
──縛りの状態で、果たしてどこまで対抗できるだろうか。
◆ □ ◆ □ ◆
剣技に関して、俺はある程度の自信を持っている。
ティル師匠の剣技は、間違いなく世界一のものだと信じているからだ。
だからこそ、剣技に関する審美眼がある程度育っている。
その眼は騎士の剣技を、それなりに優れていると判断していた。
「けど、今はまだ慣れていない膂力に振り回されているだけだね」
「くそっ、吸血鬼風情が知った口を!」
「でも、自分で理解しているんだよね? だからこそ、私を仕留め切れていない」
「……チッ!」
急激に能力値が上がったことで、これまで築いてきた剣技の積み重ねが失われる。
俺の場合はそれも込みでティル師匠に習っているが、普通はそんなことしないからな。
騎士はどうにか体のチグハグを直そうとしているようだが、それをさせる気は無い。
二刀流の刃で猛攻を仕掛け、どんどん傷をつけていく。
それでも騎士は染みついた動きをなんとか行い、時折確実に攻撃を与えてくる。
なので致命傷は与えられず……その間に、吸血鬼としての再生力が傷を癒していた。
「忌々しい吸血鬼の力だが、貴様らを滅ぼすためにはちょうどいい」
「ふーん、なら──“聖線回路”」
「聖剣……なぜ貴様のような下等種が?」
「武技を使うのに、資格なんて無いよ。いやまあ、無いわけでもないけど。ともかく、これでその再生力も無駄になるね」
由来が吸血鬼によるものなので、聖なる力を帯びたことでそれも無効化できる。
聖属性は光の象徴、それでも再生阻害なんて能力を持っているんだよな。
だがその影響か、少しずつ剣技が元に戻り始めている。
追い込まれたこと、そして再生に使うエネルギーを回すことで取り戻しつつあるのだ。
「……まだ完全では無いが、貴様程度であれば充分だろう」
「ふーん、なら──そろそろ行くよ」
「なに……くっ!」
それでも連続技を畳みかけると、まだ完全ではない剣技を扱い切れずに防げない騎士。
多少加減していたものを、改めて振るうと一気に状況は変化した。
反射神経や身体能力は上がっているので、それでも必死に食い下がってくる。
やがて俺の剣が、心臓に辿り着こうとしたその瞬間──その体は蝙蝠と化した。
吸血鬼の能力の一つ、動物変化。
蝙蝠や狼などの姿を得て、体を自在に分裂させることができる……命の危機に、体が勝手にその能力を発現させたようだ。
「……やはり化け物め」
「同じだね。さーて、また追いこんだらどの能力を発現するのかな? 身も心も、少しずつ吸血鬼に近づく感覚ってどんな気分?」
「! 貴様、貴様ぁあああああああ!」
「なんだかワンパターンだよね。もう再生できない、変化も体力の消耗が激しい。あとやることなんて、他に在るかな?」
そう言いつつ、少しずつ高度を下げていく戦い方を取っていく。
騎士も追い込まれ、それに合わせていかなければならない。
下には当然、他の兵士や騎士たちが多く残されている。
さて、彼はどこまで抗うだろうか?
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